●平成19(行ケ)10119 審決取消請求事件 意匠権 「工芸用パンチ」

 本日は、『平成19(行ケ)10119 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「工芸用パンチ」平成19年09月10日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070911142553.pdf)について取上げます。


 本件は、意匠法3条1項3号違反の拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟であり、その請求が棄却された事案です。


 本件では、3条1項3号該当性における公知意匠と出願に係る意匠との類否の判断の仕方や、商業的成功と公知意匠との類否判断との関係や、特徴記載書制度の趣旨等について知財高裁の考え方を示していますので、その点で、参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 飯村敏明 裁判長)は、


『1 取消事由1(本願意匠と引用意匠の類否)について


(1) 当裁判所の両意匠の類否についての判断

 本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点に関する審決の認定に誤りがないことについては,当事者間で争いがない。すなわち,本願意匠と引用意匠は,「第2 争いない事実」,「審決の理由」記載のとおり,「共通点」及び「差異点」を有している。


 そうすると,両意匠は,略直方体状の筺体において,上面やや正面寄りに短円柱状の操作ボタンを設け,正面下方位置に水平状にスリットを形成した点,及び筺体各稜線部を角のない曲面状に形成した点など基本的な形状において共通する。これに対し,両意匠の差異点は,いずれも細部にわたる形状におけるものであり,両意匠は,それらの差異点が存在することを考慮に入れてもなお,これを見る者に対し,全体として,それぞれの基本的形状を共通にするとの印象を強く与えるものであるから,互いに類似する意匠であるというべきである。したがって,これと同趣旨の審決の認定判断に誤りはない。


(2) 原告は,本願意匠及び引用意匠に係る物品は,いずれも「工芸用パンチ」であるから,その需要者は,事務用パンチの需要者とは異なり,工芸を業務又は趣味とし,美的活動に従事する者であると考えられ,美的外観に対する注意力が高いはずであるから,扁平な直方体形状の引用意匠と,立方体形状の本願意匠とが類似すると判断することはないと主張する。


 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。


 すなわち,仮に,原告の主張するとおり「工芸用パンチ」の需要者が美的活動に従事する者であり,物の形状に対するこだわりが強いという前提を採ったとしても,上記のとおり本願意匠と引用意匠との間の共通点及び差異点の内容に照らせば,両意匠は類似するというべきであり,審決の判断に誤りがあるということはできない。


(3) 原告は,意匠法3条1項3号における公知意匠と出願に係る意匠との類否判断に当たり,公知意匠(引用意匠)につき,更に以前から存在した公知意匠との比較の上でその要部認定を行い,その上で出願に係る意匠との類否判断を行うべきと主張する。


 しかし,意匠法3条1項3号該当性における公知意匠と出願に係る意匠との類否を判断するに当たっては,公知意匠について,更に以前から存在した公知意匠との比較した上で要部を認定することは合理性がなく,単に,両者の共通点,差異点を総合して類否判断すべきであるといえる。原告の主張は,その前提において採用できない。


 また,原告は,出願に係る意匠との類否を判断するに当たり,公知意匠につき,部材の機能において通常に採択されるような形状(パンチ基台を覆うハウジングの直方体形状,ハウジングの稜線部におけるアール形状)は,要部から除外して認定すべきであると主張する。確かに,出願に係る意匠及び公知意匠の属する物品の分野において,当該物品の機能を確保するために不可欠な形状は,類否判断において考慮すべき対象から除外すべきものというべきである(例えば,型抜き孔形成用のパンチにおいて,穿孔刃及びこれを挿入する孔を設け,シート材を差し込むスリットを設ける構成などは,機能を確保するために不可欠な形状に当たる。)。


  しかし,型抜き孔形成用のパンチとしては,様々な形状のものが存在することが知られているものであって(乙5ないし8),本体を略直方体の筺体とすることや,その稜線部を角のない曲面状に形成することが,パンチ機器の機能を確保するために不可欠な形状ということはできないから,本願意匠と引用意匠とがこれらの点を含めた形状において類似することを理由に両者を類似するとした審決の判断に誤りがあるということはできない。


(4) 原告は,本願意匠と引用意匠と,稜線部の曲率の差異及び基台構造における「差異点(a−2)」,「差異点(a−3)」,「差異点(a−6)」について,審決の判断に誤りがあると主張する。


 しかし,両意匠の稜線部とも略直方体状を呈する筺体の稜線部であり,筺体全体との関係から見ると両意匠における稜線部の曲率の違いは大きなものではなく,意匠全体から受ける印象において異なる印象をひき起こすものとはいえない。また,基台構造についても,本願意匠及び引用意匠のような据置式の型抜き孔形成用パンチにおいては,需要者が購入及び使用に際して穿孔形状に関心があることは容易に想像できるところであるが,それは専ら当該物品の機能についての関心であって,需要者において事前にそのような機能を知っている場合には物品の底面部を見ることはないから,物品において形状からもたらされる美感の点において,底面部が需要者の目をひく部分ということはできない。したがって,稜線部の曲率や基台構造の差異を考慮に入れても,両意匠を類似するものというべきであり,審決の判断に誤りはない。この点の原告の主張は採用できない。


 また,原告は,全体の明暗調子と模様における「差異点(c)」に関する審決の判断にも誤りがあると主張する。しかし,本願意匠は,色調も模様も表しておらず,他方,引用意匠における色調は特徴的なものとはいえず,これを見る者の注意をひくものではないから,この点の違いが全体としての両意匠の類否に影響するものではなく,審決に判断に誤りはない。この点の原告の主張も採用できない。


2 取消事由2(その他の取消事由)について


 原告は,審決には原告の主張についての記載が尽くされていないとして,審判手続には意匠法52条において準用する特許法157条2項4号の規定に違反する違法があると主張する。しかし,審決書には審決の結論を導き出すのに必要な限度で判断の理由を記載すれば足りるものであり,当事者の主張のすべてについての逐一判断を示さなければならないものではない。本件においては,審決書には,本願意匠が意匠法3条1項3号に該当する理由が記載され,その記載内容は,原告の引用する判例最高裁昭和54年(行ツ)第134号同59年3月13日第三小法廷判決)に照らして,不十分であるということはできない。この点の原告の主張は採用できない。


 また,原告は,本願意匠は需要増大機能を発揮し,商業的成功を収めたとして,それにもかかわらず本願意匠を引用意匠に類似するとして登録を認めなかった審決の判断は,意匠制度の趣旨に反し違法であると主張する。


しかし,意匠登録出願に係る意匠につき意匠法3条1項3号該当性を判断するに当たり,当該意匠を実施した物品が商業的成功を収めたことが,直ちに公知意匠との類否判断に影響を及ぼすものとはいえない。この点の原告の主張は失当である。


 さらに,原告は,審決の判断は,意匠法施行規則に規定された特徴記載書制度の趣旨,及び意匠法5条2号の趣旨のいずれにも反すると主張する。


しかし,意匠法施行規則6条1項所定の特徴記載書は,特許庁における審査・審判の迅速化を図るために,出願人がその創作した意匠の特徴に関する情報を提出することを認めたものであって,審判手続において,特徴記載書の記載事項について,これに対する判断の結果を審決書に記載することを義務づけるものではないから,この点の原告の主張は失当である。また,本件においては,意匠法3条1項3号該当性の有無が争点であって,同法5条2号該当性の有無は争点ではないのであるから,同号の趣旨に反するか否かが審決の適法性に影響を与えることはない。この点の原告の主張も理由がない。


3 結論

 その他,原告は,縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りは認められない。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。



 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10273 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「圧胴または中間胴」平成19年09月10日 知的財産高等裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070911090900.pdf
●『平成19(ネ)10034 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟「7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)の新規結晶」平成19年09月10日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070910171015.pdf
●『平成17(ワ)17182 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟半導体装置」平成19年08月30日 東京地方裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070911090433.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『米特許改革法案が下院通過、IT業界は歓迎 』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0709/10/news061.html
●『特許改革法案が米国下院で可決 』
http://www.computerworld.jp/news/trd/78049.html
●『米下院、大幅な特許法改正案を可決 』
http://japan.internet.com/busnews/20070910/11.html
●『特許改革法案、下院本会議を通過』
http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070907.pdf
●『アステラス、経口用セフェム系製剤「セフゾン®カプセル」の特許侵害訴訟、大洋薬品の控訴棄却に関するお知らせ』
http://www.japancorp.net/japan/Article.Asp?Art_ID=39479