●平成18(行ケ)10542 審決取消請求事件「ガス遮断性に優れた包装材」

  本日も、一昨日、昨日に続いて、『平成18(行ケ)10542 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ガス遮断性に優れた包装材」平成19年08月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070829154040.pdf)について取上げます。


 本件では、本件特許発明7の引用形式によると、本件特許発明7をサポートする記載が出願当初の明細書等に記載されてなく、特許法第36条第4項の実施可能要件違反と判断されています。


 つまり、知財高裁は、

『6 取消事由5(法36条4項の要件充足性の判断の誤り)について

(1) 上記取消事由2(一致点の認定の誤り)・同3(相違点イの判断の誤り)・同4(相違点ロの判断の誤り)は,訂正前発明である本件発明1ないし6・8ないし9について特許法29条2項にいう進歩性がないとした審決の違法をいうものであるが,上記のとおり原告主張の取消事由2・3・4は理由がないのであるから,本件発明1ないし6・8ないし9を無効とした審決の判断は,法36条4項違反の有無を論ずるまでもなく,違法はないことになる。

(2) そこで,進んで,進歩性の有無につき判断が示されなかった本件発明7に限って,取消事由5(法36条4項の要件充足性の判断の誤り)の有無について検討する。


(3) 本件発明7の法36条4項該当性

 ア 本件発明7は,前記第3の1,(2)に記載したとおり,以下のとおりの内容である(甲17の1)。

【請求項7】シリコン酸化物膜がモノ酸化ケイ素と二酸化ケイ素の混合物を真空蒸着により被覆した膜である,請求項3ないし5のいずれか1項に記載されたガス遮断性に優れた包装材。


イ 一方,本件発明1〜5は,前記第3の1,(2)に記載したとおり,以下のとおりの内容である(甲17の1)。

【請求項1】プラスチック材に無機薄膜を被覆した包装材において,該プラスチック材が環状オレフィンを30モル%以上含有する環状オレフィン共重合体で形成されており,プラスチック材を被覆した無機薄膜が,プラズマCVD法により形成された薄膜であることを特徴とする,ガス遮断性に優れた包装材。
【請求項2】プラスチック材を被覆した無機薄膜が,プラズマCVD法により形成されたシリコンの酸化物の薄膜である,請求項1に記載されたガス遮断性に優れた包装材。
【請求項3】プラスチック材に被覆した無機薄膜が,低温プラズマ法により有機シリコン化合物モノマーをプラズマとなし,このプラズマでプラスチックス材を処理して表面に有機シリコン化合物重合体の被膜を形成し,ついでこの有機シリコン化合物重合体の被膜上にシリコン酸化物膜を被覆した無機薄膜である,請求項1または2に記載されたガス遮断性に優れた包装材。
【請求項4】有機シリコン化合物モノマーがビニルアルコキシシラン,テトラアルコキシシラン,アルキルトリアルコキシシラン,フェニルトリアルコキシシラン,ポリメチルジシロキサン,ポリメチルシクロテトラシロキサンから選んだ1または2以上である,請求項3に記載されたガス遮断性に優れた包装材。
【請求項5】シリコン酸化物膜は気体状の有機シリコン化合物をプラスチックス材上で酸素ガスと反応させて被覆した膜である,請求項3または4に記載されたガス遮断性に優れた包装材。


ウ 上記ア,イによれば,本件発明7は,本件発明3〜5のいずれかの発明を引用するものであるが,本件発明3は,「…請求項1または2に記載されたガス遮断性に優れた包装材。」と記載されており,本件発明4は,「…請求項3に記載されたガス遮断性に優れた包装材。」と記載されており,本件発明5は,「…請求項3または4に記載されたガス遮断性に優れた包装材。」と記載されている。



 そうすると,本件発明7は,結局,本件発明1を引用するものであるから,無機薄膜は「…プラズマCVD法により形成された薄膜…」(本件発明1)であるが,他方,上記アに記載した本件発明7の文言によれば,上記膜は「シリコン酸化物膜がモノ酸化ケイ素と二酸化ケイ素の混合物を真空蒸着により被覆した膜」というのである。


 そうすると,本件発明7は,モノ酸化ケイ素と二酸化ケイ素の混合物を真空蒸着により被覆した膜であり,かつ,プラズマCVD法により形成された薄膜を,発明の内容として含むことになるが,前記2,(2),ア〜ウに照らしても,このような複数の方法による被覆に対応する実施例は何ら記載されておらず,また,その他の発明の詳細な説明中の記載においても,これを実施するについての具体的な説明が記載されているとはいえない。


 以上によれば,本件発明7については,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているということはできないから,法36条4項に違反するものである。したがって,本件発明7について検討するも,取消事由5は理由がない。


(4) 原告の主張に対する補足的説明

 ア 原告は,本件明細書の発明の詳細な説明の欄には,実施例1〜7が示されており,その実施態様が具体的かつ明確に説明されているから,当業者がこれらの実施例1〜7を参照すれば,本件発明7を実施することが可能である旨主張する。しかし,上記(3)に説示したとおり,本件発明7は,モノ酸化ケイ素と二酸化ケイ素の混合物を真空蒸着により被覆した膜であり,かつ,プラズマCVD法により形成された薄膜を発明の内容として含むことになるが,前記2,(2),ア〜ウに照らしても,このような複数の方法による被覆に対応する実施例は何ら記載されていないというのであるから,原告の上記主張は失当である。


イ また原告は,本件発明7において,「無機薄膜」が「プラズマCVD法により形成された薄膜」に限定されていること,及び,「プラズマCVD法により形成された薄膜」がそれ以外の方法で作成された薄膜と比較して顕著な作用効果を有するか否かは,これが法29条2項の「進歩性」との関係で問題となりうることは格別,法36条4項の要件とは無関係である,と主張する。


 しかし,上記(3)に説示したとおり,そもそも本件発明7のプラズマCVD法により形成された当該薄膜は,同時に,モノ酸化ケイ素と二酸化ケイ素の混合物を真空蒸着により被覆した膜でもあるというのであるから,原告の上記指摘のいかんに拘わらず,本件発明7については,当業者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の目的・構成及び効果が記載されているということはできないというべきである。


7 結語

 以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,その余の点について判断するまでもなく,審決に違法はない。


 よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


従属請求項を作成する際、明細書の実施の形態(実施例)も、引用先の請求項に応じてしっかりと記載が必要ということですね。



 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成17(ワ)26738 処方使用料等反訴請求事件 特許権 民事訴訟「液晶型乳化組成物」平成19年08月29日 東京地方裁判所 』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070905120934.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『特許手続き簡素化へ「行動計画」、APEC閣僚会議が閉幕 』
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20070906i113.htm
●『NetApp、特許めぐりSunを提訴』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0709/06/news030.html
●『ネットワークアプライアンス、特許侵害でサンを提訴』
http://japan.zdnet.com/news/ir/story/0,2000056187,20355865,00.htm
●『ネットアップ、7件の特許侵害でサンを提訴』
http://www.computerworld.jp/news/trd/77710.html
●『米3M、リチウム電池の特許侵害訴訟でレノボと和解(米3M)』
http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=1874
●『レノボを電池関連特許侵害の調査対象から除外=米3M〔BW〕』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070906-00000093-jij-biz