●平成17(ワ)22016特許権侵害差止等請求事件「ケーブル用コネクタ」

 本日は、『平成17(ワ)22016 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「ケーブル用コネクタ」平成19年08月29日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070831103530.pdf)について取上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件であり、請求の範囲の「第1カム押付面」及び「第1カム部」の用語の意味が争点となり、明細書等の記載を参酌して用語の意味を判断して、被告製品は当該構成を非充足と判断して、非侵害とされた事案です。



 つまり、東京地裁(民事第29部 清水節 裁判長)は、


『1 被告製品は,「第1カム押付面」,「第1カム部」を有するか(本件発明の構成要件D,E,Fの充足性)(争点(1))について


(1) 本件発明における「第1カム押付面」,「第1カム部」の意味について

ア 本件明細書,本件図面の記載

 (ア) 本件明細書には,以下のとおりの記載がある(甲2)。


 ・・・省略・・・


イ「第1カム押付面」及び「第1カム部」の意味

 前記争いのない事実等において認定した本件明細書の特許請求の範囲の記載及び前記アで示した本件明細書及び本件図面の記載を前提に,本件発明における「第1カム押付面」,「第1カム部」の意味を検討する。


 ・・・省略・・・


 したがって,本件発明における「第1カム部」とは,起立したアクチュエータの中央部分の貫通穴の下に位置し,本件発明突起部分1及び2のように略円柱状の突起物であって,第1コンタクトの第1係合枢支部と係合して周回する部材を意味し,「第1カム押付面」とは,その略円柱状の周回面の一部であって,アクチュエータを閉じた場合に,ケーブルを押し付ける部分を意味すると解するのが相当である。


 ・・・省略・・・


b 原告は,本件発明における「第1カム部」は,突起状の部材とアクチュエータの一部から構成されるとの解釈に基づいて,「第1カム押付面」の範囲について,アクチュエータが閉じたときにケーブルに接することになるアクチュエータの平面部分(以下「アクチュエータ押付面」という。)のうちの第1コンタクトに対応する部分も含まれると主張する。


 しかしながら,原告の上記主張によれば,アクチュエータ押付面の一部を占める第1カム押付面の具体的範囲を定める基準が明確でなく,また,「第1カム押付面」の範囲を原告主張の基準で画することの合理的理由も本件明細書から導き出せないから,本件発明の技術的範囲の外縁も曖昧とならざるを得ない(この点,現に,本件訴訟においても,原告は,当初,「第1カム押付面」及び「第1カム部」の範囲について,明確な主張をしていなかった。)。また,侵害訴訟などにおいて,侵害の有無が問題となる製品の具体的構造によっては,アクチュエータ押付面のうちのどの部分までが「第1カム押付面」に含まれるかによって,本件発明の技術的範囲に含まれるか否かの結論が左右される場合もあり得る(例えば,アクチュエータ押付面を平坦なものとせずに,凹凸を付けて,凸部分でケーブルを押し付けるようにした構成を採用した場合,その凸部の位置によっては, 「第1カム押付面」に含まれるか否かが曖昧となり,同構成が本件発明の技術的範囲に含まれるか否かを判断することができない場合が生じ得る。)。そして,本件明細書の特許請求の範囲の記載において,「第1カム部」及び「第1カム押付面」の範囲が上記のとおり不明確であるとすると,特許法36条6項2号に反する余地も生じることとなる(なお,本件訂正請求に係る訂正がされたとしても,「第1カム部」及び「第1カム押付面」の範囲が不明確であることに変わりはない。)。


 他方,前記(ア)の説示のように,第1カム押付面と係合カム面とが一体の略円柱状の部材となって第1カム部を構成し,これが第1係合枢支部により回転可能に支持されるとする解釈は,明確かつ合理的である上,前記指摘の本件明細書の記載とも合致するものである。


 しかも,本件図面においては,前記アで認定したとおり,第1カム部を示す符号の引き出し線が柱状の部材から出ており,アクチュエータの側面を指示するものでないことが明白である(この点,原告は,「第1カム部」の一部が第1コンタクトに隠れているので,「第1カム部」の見えている代表的な部分から引き出し線を引いただけである旨主張するが,本件図4及び本件図21については,前記アのとおりアクチュエータのうち,原告の主張に係る「第1カム押付面」に相当する部分が明瞭に視認できるのであるから,上記の説明が当を得ないことは明らかである。)。


 以上からすれば,原告の上記主張は採用できない。


c 原告は,本件発明の構成要件Fの「前記アクチュエータは,前記第1カム押付面と前記係合カム面とで周回するように,前記第1係合カム面に隣接する貫通穴を備え」との記載の意味について,係合カム面は第1係合枢支部と係合し,第1カム押付面はケーブルからの反作用として押し付けられて,アクチュエータは第1係合枢支部とケーブルとにより挟まれた状態となり,この状態で,第1係合枢支部と係合する係合カム面と,ケーブルにより反作用を受ける第1カム押付面とで,アクチュエータが周回することができるように,第1係合カム面に隣接する貫通穴を備えるという意味であると主張する。


 しかしながら,上記主張は,必ずしも明確でない上,「前記第1カム押付面と前記係合カム面とで周回するように」との文言と合理的に整合しないことは,前記(ア)及び(イ)bの説示に照らして明らかであるから,これを採用することはできない。


d  原告は,「第1カム部」を前記説示のように略円柱状の部材と解し,「第1カム押付面」をその周側面の一部であると解すると,本件発明の第1実施の形態例の図面である本件図1,4及び5においては,アクチュエータが閉じた状態で,「第1カム押付面」はケーブルに接しないから,不合理である旨主張する。


 しかしながら,特許発明の技術的範囲は,まず第1に特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(特許法70条1項)ところ,本件における特許請求の範囲の記載の解釈は,前記(ア)のとおりである上,同解釈は,本件明細書のその他の記載とも合致するものであるから,これが本件図1,4及び5の図示と整合しないとしても,上記解釈が左右されるものではない。


e 原告は,本件明細書の段落【0014】の「第1コンタクトは,第1カム部を第1係合枢支部で包み込むように作用する」との記載は,「作用」の欄にあるから,本件発明の構成を定めるものではないなどとして,上記記載を根拠として本件発明の構成を認定することはできない旨主張する。


 しかしながら,発明の詳細な説明における記載が作用についてのものであっても,発明の構成の認定のために参酌できることは当然であり,段落【0014】の上記部分は,第1係合枢支部が第1カム部を包み込むように作用する旨明確に記載しているところ,仮に,第1係合枢支部が包み込む部分が第1カム部のうちの係合カム面のみであり,第1カム押付面を包み込むものではないとすると,例えば,「第1コンタクトは, 係合カム面を第1係合枢支部で包み込むように作用する」などと記載して,上記の構成が理解できるような表現となるのが自然であると解されるから,原告の上記主張は理由がない。


f 原告は,第1カム部が第1係合枢支部で包み込まれる形状であるとすれば,第1カム押付面も第1係合枢支部で包み込まれることになり,第1カム押付面はケーブルの反対面を押し付けることができなくなると主張する。


 しかしながら,例えば,前記アで判示したとおり,本件発明の第2実施の形態例の図面である本件図15,17,21及び22は,第1カム部が第1係合枢支部に包み込まれる形状であり,しかも,第1カム押付面はケーブルの反対面を押し付けていることからも明らかなように,第1カム部が第1係合枢支部で包み込まれる形状であっても,アクチュエータを閉じたときに,第1カム押付面がケーブルを押し付けることのできる形状は十分考えられるから,原告の上記主張は理由がない。


 ・・・省略・・・


 したがって,被告製品における第1コンタクト対応部分は,本件発明における「第1係合カム面」を有するのみであるから,本件発明の「第1カム部」には当たらない。したがって,被告製品は,本件発明の「第1カム部」及び「第1カム押付面」を有しないことになるから,被告製品は,本件発明の構成要件D,E及びFを充足しない。


2  したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。


第4 結論

 以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ワ)5752 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成19年08月30日 東京地方裁判所』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070903092551.pdf

 
追伸2;<気になった記事>

●『電子メール関連の特許侵害でグーグル、ヤフーなど6社が提訴される(米テキサス州連邦地裁)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=1858
●『ダイセル化学がエアバッグ用ガス発生器の特許侵害で日本化薬を提訴(ダイセル化学工業)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=1851
●『LGフィリップスLCD、日本人相手の特許訴訟で敗訴』http://www.chosunonline.com/article/20070903000012
●『富士通、台湾ナンヤとのDRAM特許侵害で勝訴(富士通)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=1848
●『開発者必読: 開発者は譲渡した知的財産権を取り戻せるか』
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0709/03/news013.html
●『【シンガポール】《知財》携帯音楽2位、米マイクロソフトを提訴』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070903-00000003-nna-int