●平成14(ワ)16739特許権「電磁波シールドプラスチック成形品」

  本日は、『平成14(ワ)16739  特許権 民事訴訟「電磁波シールドプラスチック成形品」平成16年01月20日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/ADD9E85D6ED5EACC49256E6F0034B170.pdf)について取上げます。


 本件は、侵害訴訟の事案であり、明細書中における比較例の記載、および意見書中における主張などから、被告製品が原告特許発明の技術的範囲に属さないと判示されました。


  つまり、東京地裁(民事第47部 高部 眞規子 裁判長)は、


『4 争点(3)ア(乙発明の技術的範囲はプライマーコート層を配設しないものに限定されるか)について

(1) 乙発明の技術的範囲が限定されるか否かについて

ア 原告が,乙特許出願に対する拒絶理由通知書に対し,特許庁審査官宛提出した意見書(乙20)には,以下の記載がある。

「即ち,本願にかかわる発明は,電気,電子機器等の短小軽薄なプラスチック成形品の裏面側に,電磁波シールド用の緻密で厚い金属膜を,密着性よく,しかもプラスチック成形品にクラックを発生させずに成膜することを目的としています。そして,従来の加熱式真空蒸着法による金属膜の成形技術では,第1に,電磁波シールドに必要なある程度の膜厚を持つ緻密な膜の形成が困難であり,第2に,密着性向上のためにプライマーコートを形成して蒸着するが,かかる方法では,成形工程でストレスがかけられたプラスチック成形品にプライマーコートの塗料の溶剤によりソルベントアタックが発生してプラスチックにクラックが生じて実用に耐えないという課題が存在していました。そこで,本願の発明者らは,むしろプライマーコートを行わないで,且つ緻密な金属膜を密着性よく形成できるイオンプレーティング法が,プラスチック成形品への電磁波シールド層の形成に好適であることを新たに発見致しました。かかる発見は,先願の登録済み特許(特許第2688148号)にて特許されております。


 この先願の特許発明を更に改良して,本願発明は,プラスチックの成形工程での金型に使用されるイジェクトピン等の摺動油が,金型を導入した後の一定期間は,成形品の表面に付着して,そのままイオンプレーティング法を適用すると,金属膜の密着性が悪く部分剥離を招くという課題を解決するために,摺動油を溶剤で除去し,短時間で大部分の表面の摺動油を取り除き,更に,プラスチック表面内に含浸して取り除けない摺動油については,イオンボンバード処理により完全に除去すると共に,そのイオンボンバード処理による表面処理によりその後のイオンプレーティングによる成膜の密着性が向上するということを特徴としています。従って,本願発明も,先願の登録特許と同様にプラスチック成形品にプライマーコートを形成することは行っていません。


イ 乙特許明細書には,以下の記載が認められる。

 (ア) 従来の技術とその課題

 ・・・

 (イ) 実施例1

 ・・・

  比較例2

  実施例1において,溶剤による拭取りを行うことなく,アクリルエマルジョン型のプライマーコートを行い,続いてアルミニウムの成膜を行った。

  60℃水中に24時間放置したところ,局所剥離の発生が認められた。また,長時間放置後,ソルベントアタックによるクラックの発生も認められた[0028]。

 (ウ) 実施例2

 ・・・

  比較例3

  実施例2において,ポリウレタン型プライマーコートを行って成膜した。
 60℃水中に24時間放置したところ,局所的クラックの発生が認められた。シールド効果も低下していた[0031]。


ウ 以上認定のとおり,原告は,プラスチック成形品の表面の摺動油をイオンボンバード処理によって除去するとともに,そのイオンボンバード処理による表面処理によりその後のイオンプレーティングによる成膜の密着性を向上させることを特徴とし,そのために上記成形品にプライマーコートを形成しないことを主張して乙発明の特許を受けていることが認められる。


 また,乙特許明細書においても,i) 従来の技術とその課題の中で,プライマーコート層を配設することの問題点として,プライマーコートに含まれる有機溶剤により,クラック(ヒビ割れ)が発生する等の問題点が記載されていること,ii) 実施例では成形品から溶剤により油を除去した後,そのままアルミニウム成膜を行っているものであるのに対し,比較例ではプライマーコート層を配設し,その結果クラックの発生が認められる等の問題が生じていることが記載されていることが認められる。


 上記の出願経過及び明細書の記載を参酌すると,乙発明は,プライマーコート層を形成しないことを前提としているものと解するのが相当である。


(2) 被告方法が,プライマーコート層を配設していないとはいえないことは,前記2(2)認定のとおりである。


(3)そうすると,被告方法は,乙発明の技術的範囲に属さない。 』

 と判示されました。


 明細書中における比較例の記載や、意見書中における主張には、注意が必要です。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。