●平成10(ワ)11453 特許権 民事訴訟「生海苔の異物分離除去装置事件

  本日は、『平成10(ワ)11453 特許権 民事訴訟「生海苔の異物分離除去装置事件」平成12年03月23日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/9EA507C9F0BC188549256A7700082DF7.pdf)についてご紹介します。


 本件も、均等論により侵害が認められた代表的な事案です。

 

 つまり、東京地裁(民事第四六部 三村量一 裁判長)は、


『二 争点2(被告製品が本件特許発明と均等であるか)について

1 右一で検討したとおり、本件特許発明1においては、特許請求の範囲に記載された構成中の「環状枠板部の内周縁内に第一回転板を」「クリアランスを介して内嵌め」するという部分(以下「本件相違部分」という。)が、被告製品1における構成(環状枠板部の最も内側の部分と回転盤3の最も外側の部分とが上方から見て一致し、隙間4が回転盤3の下側の面と選別ケース6の外側上部の面との間に設けられている構成)、及び、被告製品2における構成(回転盤3の最も外側の部分が環状枠板部の最も内側の部分よりも外側にあり、隙間4が回転盤3の下側の面と選別ケース6の外側上部の面との間に設けられている構成)と異なっているということができる。


 ところで、特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造等をする製品(以下「対象製品」という。)と異なる部分が存する場合であっても、(1) 右部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2) 右部分を対象製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3) 右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4) 対象製品が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(5) 対象製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である最高裁平成六年(オ)第一〇八三号同一〇年二月二四日第三小法廷判決・民集五二巻一号一一三頁参照)。


 そこで、本件において、本件相違部分の存在にもかかわらず、右の(1)ないし(5)の要件(以下、それぞれの要件を「要件(1)」などという。)を満たすことにより、被告製品が本件特許発明1の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、その技術的範囲に属するということができるかどうかを、検討する。


2 要件(2)について

(一) 証拠(甲二、三、五、六ないし一一、一三、二二ないし二五、乙一、二)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、次の記述がある。
ア 産業上の利用分野

 ・・・

イ 従来の技術

 ・・・

ウ 発明が解決しようとする課題

 ・・・

エ 作用

 ・・・

オ 発明の効果

 ・・・

(2) 被告製品においては、タンクに生海苔と海水の混合液を入れて回転盤3を回転させると、混合液に渦が形成され、生海苔と水が隙間4を通過して選別ケース6に流入する。なお、その際、隙間4の幅より小さな異物も選別ケース6に吸い込まれることがある。また、生海苔と異物によって隙間4の目詰まりが起きることがあり、そのような場合には、回転盤3の回転を止め、これを上昇させて隙間を広げ、逆洗ポンプ8により海水を隙間4を通ってタンク内に送り込むことによって、目詰まりを解消させている。


(二) 右に認定した事実によれば、被告製品は、回転盤3を回転させて混合液に渦を形成し(これにより遠心力が発生するので、比重の大きい異物は隙間4の外側に集積するということができる。)、生海苔を水とともに隙間4を通過させることによって、生海苔と海水の混合液から異物を分離除去しているのであって、本件特許発明1と同一の作用効果を奏し、本件特許発明1の目的を達成しているということができる。


(三) この点につき、被告は、前記第二、二2(二)のとおり、被告製品は本件特許発明1と同一の作用効果を奏していないなどと主張している。


 しかしながら、本件特許発明1においても、クリアランスの幅より小さい異物(殊に比重の小さいもの)が生海苔とともにクリアランスを通過してしまうことを完全には避けられないものと解されるし、また、回転板が回転しているためクリアランスに生海苔が詰まりにくいとはいっても、混合液中の生海苔及び異物の状況によってはこれが詰まることがあり得ると考えられるから、被告製品において隙間4より幅の小さい異物が選別ケース6に吸い込まれることや、隙間4が目詰まりすることをもって、その作用効果が本件特許発明1と異なるということはできない。また、被告製品が、隙間4に目詰まりが生じた場合に回転盤3を上方に移動させることによってその除去を行い得る点において、本件特許発明1の特許請求の範囲に記載された構成を採った場合に見られない作用効果を果たしているとしても、右の点は、本件特許発明1の作用効果を奏した上で、これに付加されたものにすぎないというべきであるから、これを理由に被告製品の作用効果が本件特許発明1と同一であるとの認定が妨げられるものではない。したがって、被告の右主張は採用できない。

(四) 右によれば、本件相違部分を被告製品におけるものと置き換えても、本件特許発明1の目的を達成することができ、これと同一の作用効果を奏するものと認められる。


3 要件(1)について

(一) 均等が成立するためには、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品と異なる部分が特許発明の本質的部分ではないことを要するが、右にいう特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分、言い換えれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。


 すなわち、特許法が保護しようとする発明の実質的価値は、従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための、従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を、具体的な構成をもって社会に開示した点にあるから、明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち、当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分が特許発明における本質的部分であると理解すべきであり、対象製品がそのような本質的部分において特許発明の構成と異なれば、もはや特許発明の実質的価値は及ばず、特許発明の構成と均等ということはできないと解するのが相当である。


 そして、発明が各構成要件の有機的な結合により特定の作用効果を奏するものであることに照らせば、対象製品との相違が特許発明における本質的部分に係るものであるかどうかを判断するに当たっては、単に特許請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に取り出すのではなく、特許発明を先行技術として対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で、対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか、それともこれとは異なる原理に属するものかという点から、判断すべきものというべきである。


(二) これを本件についてみるに、証拠(甲二、一五ないし一八)によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件明細書に記載された、本件特許発明1が解決しようという課題は、前記2(一)(1)ウのとおりである。

(2) 生海苔と海水の混合液から異物を分離除去するために使用される装置としては、本件特許発明に係る特許出願がされた平成六年一一月二四日当時、次のものがあった。
ア 分離除去のためにクリアランス(隙間、スリット)を利用しない装置としては、長尺の異物除去板を複数設けたもの(実開平六‐六〇三九五、平成六年八月二三日出願公開)が公知であった。
イ クリアランスを利用するものとしては、分離ドラムの周壁に生海苔の厚みより僅かに大きい孔幅の細長い分離孔を設けたもの(特開平六‐一二一六六〇号、平成六年五月六日出願公開)(前記2(一)(1)イのとおり本件明細書に従来技術として記載されているもの)が公知であった。
ウ 本件特許発明の特許出願の当時公知ではなかったが、これより先に出願されていたものとして、生海苔の厚みより僅かに大きい孔幅の細長い分離孔を有する分離壁を利用したもの(特願平六‐一〇七九二六号、平成六年四月二一日特許出願)、及び、多数の回転ローラーをスリットを介して並行に配置したもの(特願平六‐二一八〇八四号、平成六年八月一九日特許出願)があった。

(三) 右に認定した事実によれば、本件特許発明の特許出願当時の技術水準に照らすと、生海苔混合液からゴミ、エビ、アミ糸等の異物を除去するという、従来技術では十分に達成し得なかった技術的課題を解決するために、タンクの底部に設けた回転板を駆動手段により回転させて、遠心力により海苔よりも比重の大きい異物をタンクの底隅部(なお、底隅部の意義については、前記一2(三)参照)に集結させる一方、回転板と環状枠板部との間の円周状のクリアランスから生海苔をタンクの外部に排出するという構成を採ったことが、従来技術に見られない本件特許発明1に特有の解決手段であるということができる。そうすると、本件特許発明1の中核をなす特徴的部分は、駆動手段により回転する回転板をタンク底部の環状枠板部に僅かなクリアランスを介してはめこんだという構成にあると解するのが相当である。そして、構成要件Bのうち、環状枠板部の「内周縁内に」回転板が「内嵌め」されているという、環状枠板部と回転板との具体的な位置関係に関する部分(すなわち、被告製品と構成を異にする部分)は、これを他の構成に置き換えても全体として本件特許発明1の技術的思想と別個のものと評価されるものではないから、本質的部分には当たらない。

(四) 以上によれば、本件相違部分は、本件特許発明1の本質的部分ではないというべきである。


4 要件(3)について

 回転板と環状枠板部(底板)とをクリアランスを介して組み合わせるに当たり、両者の位置関係を、本件特許発明1の構成(環状枠板部の内周縁内に回転板を内嵌めするもの)を、被告製品の構成(底板2の上方に回転盤3が設置されるもの)に変更することは、設計上の微小な点に関する変更にすぎないものであって、これが格別困難なものであるということはできない。


 したがって、被告製品の製造時において、当業者は、本件相違部分を被告製品におけるものと置き換えることに、容易に想到することができたというべきである。


5 要件(4)について

(一) 前記3のとおり、生海苔と塩水との混合液から異物を除去するという技術的課題を解決するために、タンクの底部に設けた回転板を回転させ、回転板と底板との間の円周状のクリアランスから生海苔をタンクの外部に排出するという構成を採ることは、本件特許発明の特許出願時において見られなかった技術である。また、本件特許発明1の属する技術の分野における当業者が、右出願時に、これを公知技術から容易に推考できたことをうかがわせる証拠もない。


(二) この点に関し、被告は、回転板の円周の環状スリットを利用した技術は公知であったと主張し、これに関する証拠を提出している(乙三ないし五、一三ないし一七)。しかしながら、右の証拠によれば、被告が公知であったと主張する装置(フルタ洗浄機SJ‐6M型機)は海苔の洗浄機であって、回転板に相当するインペラは単に生海苔混合液を攪拌するだけのものであり、インペラと環状枠板部に相当するインペラケースとの間に環状の隙間があって、生海苔の一部がこの隙間に滑り込んでいくことはあるものの、右の装置においては、隙間から流れ出た生海苔は、汚水とともに流れ出してしまい商品として使用できず無駄になるというのである(乙五参照)。そうすると、右の装置は、回転板の回転により異物と分離された生海苔を回転板の周囲のクリアランスからタンクの外部に排出させて回収するという、生海苔の異物除去装置に関する技術である本件特許発明1とは、技術思想を全く異にするというべきである。

 したがって、被告の右主張は採用できない。

(三) 右によれば、右の構成を採る被告製品が、本件特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものであると認めることはできない。


6 要件(5)について

 本件において、回転盤と底板の位置関係につき、被告製品における構成を採ることが本件特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的除外されたものに当たるなど、均等の成立を妨げる特段の事情は認められない。


7 以上によれば、被告製品は、本件特許発明1と均等と認められるから、その技術的範囲に属するというべきである。そうすると、被告製品は、前記のように構成要件Fを充足するものであるところ、本件特許発明1と均等であるから構成要件Gをも充足することとなり、本件特許発明2の技術的範囲にも属するというべきである。


 したがって、被告による被告製品の製造販売行為は、本件特許権を侵害するものであって、原告は被告に対し、被告製品の製造販売の差止め及び被告製品の廃棄を求めることができる。


三 よって、主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


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