●平成8(ワ)2964 実用新案権 民事訴訟「圧流体シリンダ事件」

  本日は、『平成8(ワ)2964 実用新案権 民事訴訟「圧流体シリンダ事件」平成15年02月10日 名古屋地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/A508502DF8371DCC49256D39000E3021.pdf)
について取上げます。


  本件も、均等侵害が認められた事件で、均等の5要件の判断が参考になるかと思います。


 つまり、名古屋地裁は、

『1 争点1(1)ア 構成要件Aの充足の有無(イ号物件の樹脂製バンドは,構成要件Aの「スチールバンド」と均等といえるか。)について

(1) 構成要件Aの「スチールバンド」は,「スチール」の材質からなる「バンド」の意味と解されるところ,イ号物件においては,これが存在せず,「樹脂製」の「バンド」によって構成されているから,その文言を充足しないことは明らかである。


  この点につき,原告は,均等論の適用を主張するところ,考案に係る願書に添付した登録請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等する製品(以下「対象製品」という。)と異なる部分が存する場合であっても,

i) 当該部分が考案の本質的部分ではなく
ii) 当該部分を対象製品におけるものと置き換えても,考案の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって
iii) 上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり
iv) 対象製品が,考案の出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく,かつ
v) 対象製品が考案の出願手続において登録請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,

その対象商品等は,実用新案登録請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,考案の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁判所平成10年2月24日第3小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。


(2) そこで検討するに,i)の本質的部分とは,登録請求の範囲のうちで,先行技術と対比して当該考案特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,言い換えれば,当該部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該考案の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解される。

 しかるところ,本件明細書によれば,本件考案はピストンロッドを有しないいわゆるロッドレスシリンダについての考案であること,・・・省略・・・,以上の事実が認められる。


 これによれば,本件考案の特徴は,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁の一方のみに,その側壁から下方に延びる側壁の下方部にベースを一体に設け,その上に棒状のスリット幅方向の両外側に案内面をそれぞれ備えた案内レールを一体に突設して,片持ち状態でドライバーを案内することによって,装置を小型化しつつ,圧流体が供給されてピストンの軸芯に負荷が作用してもドライバーが左右に傾倒することなく,摺動抵抗を極めて小さくして,ドライバーを支障なく正確に案内できるようにしたことにあり,この構成が本質的部分であると認められる。他方,ロッドレルシリンダにおいて,スリットを密封し,バレル内に供給された圧流体を封じ込めるものとして,スチールバンドを用いることは,本件考案の本質的部分でないことも明らかである。


 この点について,被告は,構成要件Aは,いわゆる「おいて書き」の形式で記載され,本件考案の前提要件であるから,「スチールバンド」は,本件考案の本質的部分である旨主張するところ,なるほど,「おいて書き」に記載される構成は,公知技術や上位概念を表示する場合の用語例として用いられることが多いことは否定できないが,本質的部分か否かは,その記載形式だけで決定されるものではなく,前記のとおり,従前技術と比較して,当該考案の特徴がどの部分に存在するかを実質的に考察して判断すべきものであるところ,上記のとおり,本件考案の本質的部分が,バレルのスリットを挟んだ両側の側壁のうち,一方のみに案内レールを突設して,片持ち状態でドライバーを案内することにあると認められるから,被告の主張は採用できない。


(3) 次に,前記のとおり,構成要件Aの「スチールバンド」は,スリットを密封し,バレル内に供給された圧流体を封じ込める作用効果を有しているところ,この目的,作用効果を達成するためのバンドが鋼製でなければならないという技術的理由は見当たらず,イ号物件の樹脂製のベルトも,同様の目的,作用効果を有していることは,その構成から明らかであるから,ii)の置換可能性を肯認することができる。


 この点について,被告は,樹脂製バンドが,「スチールバンド」と比較して,種々の利点を有すると主張し,両者の作用効果が同一であることを否定するが,本件考案における「スチールバンド」が果たすべき役割は,上記のとおり,スリットを密封し,バレル内に供給された圧流体を封じ込めることにあり,かつそれでもって足りるから,樹脂製バンドが,この役割を果たすに際して,「スチールバンド」が有していない利点を持っているとしても,置換可能性が否定されるものではなく,被告の上記主張は,採用できない。


(4) 続いて,iii)の要件について判断するに,証拠(甲3,乙3,5の1,2)によれば,ロッドレスシリンダにおいて,スリットを密封するシールバンドとしてスチールバンド又は樹脂製ベルトを用いることは,本件考案出願当時において公知であったと認められ,これに照らせば,イ号物件の製造開始時において,当業者は,「スチールバンド」を樹脂製バンドに置き換えることを容易に想到することができたというべきである。


(5) さらに,被告は,iv)の要件に関し,イ号物件は,公知技術1,公知技術4及び公知技術5を併せれば,当業者が極めて容易に推考できたと主張するが,被告の無効主張に対する後記判断のとおり,上記の各公知技術によって,本件考案ひいてはイ号物件を容易に推考できたと認めることはできない。


(6) 最後に,被告は,原告はスリットを密封するものとして「シールバンド」を使用すべきところを誤って「スチールバンド」の名称を使用しながら,これを訂正することなく放置していると主張して,不作為による意識的除外(v)の要件)ないし包袋禁反言の法理を援用する。


 しかしながら,原告が,本件考案の出願手続において,樹脂製バンドによる構成を意識的に除外したと認めるに足りる証拠はない(甲1によれば,本件明細書中の考案の詳細な説明にも,従来技術の説明においてロッドレスシリンダの一般的な構成を示すために1回だけ「スチールバンド」の用語が使用されているにすぎないことが認められる。)上,上記の法理は,例えば出願中の審査官からの登録拒絶通知又は無効理由通知に対応して,権利者がその権利の登録ないし存続を図るべく,権利の範囲を限定し,あるいはそれを明確ならしめる特定文言を付加したなどの事情が存する場合に,後日,これに反する主張をすることは,信義則によって禁じられるという内容であるところ,本件のように,より広義の用語を使用することができたにもかかわらず,過誤によって狭義の用語を用い,かつ広義の用語への訂正をしない(このような訂正が許されるか否かはともかく)というだけでは,均等の主張をすることが信義則に反するといえないことは明らかである(均等論は,限定された場面であるにせよ,正しくこのような場合における権利の救済を認める法理である。)。


(7) 以上のとおり,イ号物件の樹脂製ベルトは,本件考案の「スチールバンド」と均等であり,構成要件Aを充足すると判断するのが相当である。 』


 と判示されました。


(※なお、細かいことですが、「イ号物件の樹脂製ベルトは,本件考案の「スチールバンド」と均等であり,構成要件Aを充足すると判断するのが相当である。」というよりは、「イ号物件は、本件考案の実用新案登録請求の範囲に記載された構成と均等であり、本件考案の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」になるのかと思います。)


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成16(ワ)11546 損害賠償等請求事件その他 民事訴訟「グラブ浚渫施工管理システムに関するプログラムの著作権侵害」平成19年07月26日 大阪地方裁判所』(認容判決) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070817154004.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『米国の特許制度は危機に瀕している――グーグルやIBMらが問題点を指摘』http://www.computerworld.jp/topics/ma/73529.html
●『Nokia、「QUALCOMM製チップの輸入禁止」をITCに求める』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0708/18/news004.html