●平成12(ワ)3157 特許権「電話用線路保安コネクタ配線盤装置事件」

  本日は、『平成12(ワ)3157 特許権 民事訴訟「電話用線路保安コネクタ配線盤装置事件」平成13年05月22日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/7A492F8580914A2049256A920027709F.pdf)について取上げます。


 本件も、均等侵害が認められた事件で、均等の5要件の判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 三村量一 裁判長)は、

『2 争点(1)イ(均等の成否)について

(1) 特許権侵害訴訟において,特許発明に係る願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品(以下「対象製品」という。)と異なる部分が存する場合であっても,(1)  当該部分が特許発明の本質的部分ではなく,(2) 当該部分を対象製品におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,(3) 上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,(4) 対象製品が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,(5) 対象製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,その対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。

 前判示のとおり,被告製品は,構成要件AないしD,F,G,J及びKを充足するが,本件相違部分において,構成要件E,H及びIを文言上充足しない。

 そこで,被告製品が,本件相違部分の存在にもかかわらず,上記の均等の5つの成立要件(以下,それぞれの要件をその番号に従い「均等の要件1」のように表記する。)を満たすことにより,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,その技術的範囲に属するものといえるかどうかについて検討する。


(2) 均等の要件2(置換可能性)について

ア 本件公報(甲第1号証)によれば,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には,次の記載があることが認められる。

 ・・・省略・・・

イ 本件明細書の「特許発明の範囲」の記載及び上記アで認定した「発明の詳細な説明」欄の記載を併せ考えると,本件発明は,接続子形プラグイン過負荷保護モジュールを接続する電話用線路保安コネクタ配線盤装置において,従来のものに比べて,接続構造上の無駄が省けるとともに,その接続の際に誤配線を防止し得るという作用効果を奏する,経済的で,正確な配線が可能な電話用線路保安コネクタ配線盤装置を提供することを目的とするものというべきである。


 乙第2号証,検乙第1号証,第2号証の1及び2並びに弁論の全趣旨によれば,被告製品においても,接続子形プラグイン過負荷保護モジュールを電話用線路のピンと接続するに当たり,従来のものに比べて,接続構造上の無駄が省けるとともに,その接続の際に誤配線を防止し得るという作用効果を奏し得ることが認められる。


 したがって,構成要件E,H及びIにおける本件相違部分を被告製品におけるものと置き換えても,本件発明の目的を達成することができ,これと同一の作用効果を奏するものと認められ,被告製品は,均等の要件2を充足する。

 なお,被告は,被告製品について,貫通孔7が切り欠き7aを備えていることにより,多数の通信線を多数の取付ピンに接続した後,切り欠き7aを介して各貫通孔7内に対応する通信線を押し込んで収容してまとめ,同時に整線することができ,また,交換設備における連続配置にも便利であり,本件発明と作用効果が異なる旨を主張するが,被告製品は,本件発明の作用効果を奏した上で,更に付加的な機能を備えているものであって,これによって被告製品が本件発明の作用効果を奏していないということはできない。


(3) 均等の要件1(相違部分が本質的部分でないこと)について

ア 均等が成立するためには,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品と異なる部分が特許発明の本質的部分ではないことを要するが,ここでいう特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的な部分,言い換えれば,当該部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。


 すなわち,特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にあるから,明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち,当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分が特許発明における本質的部分であると理解すべきであり,対象製品がそのような本質的部分において特許発明の構成と異なれば,もはや特許発明の実質的価値は及ばず,特許発明の構成と均等ということはできないと解するのが相当である。


 そして,発明が各構成要件の有機的な結合により特定の作用効果を奏するものであることに照らせば,対象製品との相違が特許発明における本質的部分に係るものであるかどうかを判断するに当たっては,単に特許請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に取り出すのではなく,特許発明を先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で,対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原理に属するものかという点から,判断すべきものというべきである。


イ 以上の観点から,まず,相違部分1が本件発明の本質的部分ではないかどうかについて検討する。


 甲第1号証によれば,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には,本件発明の「編み出し板」に関して,次の記載があることが認められる。


 ・・・省略・・・


 前記認定の本件発明の作用効果に本件明細書の「発明の詳細な説明」欄における上記の記載を併せ考えると,本件発明は,接続子形プラグイン過負荷保護モジュールを接続する電話用線路保安コネクタ配線盤装置において,従来のものに比べて,その接続の際に誤配線を防止し得るという作用効果を達成するための手段として,それぞれの接続子形プラグイン過負荷保護モジュール及びこれと印刷配線パターンによって接続された無半田電線巻付けピンに対応するような位置に穴を設け,各電線をこの穴に通すことによって,これを巻き付けるべき無半田電線巻付けピンを容易に案内区別できるようにしたものであり,このような穴をもって各電線とこれを巻き付けるべき無半田電線巻付けピンの案内区別を容易にするという構成を採ったことが,従来技術に見られない本件発明の特徴的部分の一つであるというべきである。そして,構成要件Eの「編み出し板」とは,このような穴が設けられた板状の部材を意味すると解すべきであるが,ここで板状の部材という構成を採用したことについては,従来技術との関係で格別の意味を有するものではないと認められる。


 そうすると,構成要件Eの「編み出し板」に関しては,それぞれの接続子形プラグイン過負荷保護モジュール及びこれと印刷配線パターンによって接続された無半田電線巻付けピンに対応するような位置に穴を設け,各電線をこの穴に通すという構成が本件発明の特徴的部分としてその本質的部分に当たるものであり,これに対し,その穴が設けられている箇所が板状の部材であるという点や,その板状の部材を無半田電線巻付けピンに平行して取り付けたという点は,いずれも本件発明の本質的部分に当たらず,これらの点を他の構成に置き換えても,本件発明の前記特徴的部分に表れた技術思想が及ぶものと解するのが相当である。

 これを本件についてみると,乙第2号証,検乙第1号証,第2号証の1及び2並びに弁論の全趣旨によれば,被告製品は,過負荷保護モジュール8,無半田電線巻付けピン5,6に対応するような位置に,切り欠き7aを有する整線切り欠き貫通孔7を備えており,この貫通孔に各電線を通すことによって,各電線とこれを巻き付けるべき無半田電線巻付けピンの案内区別を容易にしているものと認められる。そうすると,本件発明の構成と被告製品の構成の相違点は,結局,穴が設けられている箇所が絶縁ブロックとは別体の,無半田電線巻付けピンに平行して取り付けられた板状の部材であるか,絶縁ブロックそのものであるかという点にあるにすぎず(被告製品において各貫通孔に設けられた切り欠きは,各電線を案内区別するための構成ではなく,配線作業を容易にするための付加的構成にすぎない。),この点を被告製品における相違部分1の構成に置き換えても,全体として本件発明の技術的思想と別個のものと評価されるものではない。したがって,相違部分1は,本件発明の本質的部分ではないというべきである。

ウ 次に,相違部分2が本件発明の本質的部分ではないかどうかについて検討する。
 

 ・・・省略・・・


 前判示のとおり,均等の要件1にいう特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的な部分をいう。しかるに,本件明細書の「特許請求の範囲」の記載に上記認定の「発明の詳細な説明」欄の記載を併せみても,本件発明の電話用線路保安コネクタ配線盤装置における接地の経路として,各接触子5b,接地板8,「固定する手段」たる圧着リベット9及び金具10,盤架の順で接地されるということが示されているにとどまり,本件明細書には,「接地板」,「盤架」及び「固定する手段」についての構成が,前記認定の本件発明の作用効果との関連において,その技術的思想の従来技術に見られない特徴的部分であることを示すに足りる記載はない。そうすると,構成要件H及びIにおける「接地板」,「盤架」及び「固定する手段」の構成は,これを被告製品における相違部分2の構成に置き換えても,単に接地の経路が変更されるだけであり,本件発明の作用効果との関連において,全体として本件発明の技術的思想と別個のものと評価されるものではない。


 したがって,相違部分2は,本件発明の本質的部分ではないというべきである。


 この点,被告は,「接地板」の技術的意義について,印刷配線板に電圧に耐える機能(サージ耐量)を付与したものであり,本件発明の本質は,印刷配線板の裏面に設けた接地板により,印刷配線板にサージ耐量を付与したところにある旨を主張する。しかし,本件明細書には,接地板のこのような機能について示唆する記載は一切なく,被告の上記主張を裏付けるに足りる証拠はない。被告の主張は,採用できない。

エ 以上によれば,本件相違部分は,いずれも本件発明の本質的部分ではなく,被告製品は,均等の要件1を充足する。


(4) 均等の要件3(容易想到性)について

 各電線とこれを巻き付ける第1及び第2の無半田電線巻付けピンの案内区別を容易にするための穴を設けるについて,ピンに並行して取り付けられた板状の部材である「編み出し板」を備えることに代えて,絶縁ブロックに貫通孔を備えるという構成にすることは,結局,穴を設ける箇所を絶縁ブロックと別体の部材とするか絶縁ブロック自体とするかという違いにすぎないものであって,何らかの工夫を要するというものでもなく,これが当業者にとって格別困難なものであるということはできない(前記のとおり,被告製品の各貫通孔に設けられた切り欠きは,付加的構成であるから,その構成容易性は,本件発明との間での均等の成否を判断するに当たっての容易想到性の判断には影響しない。)。


 また,電話用線路保安コネクタ配線盤装置における接地経路として,接地用接触子,接地板,装置を盤架に固定する手段,盤架という経路に代えて,接地用幅広肉厚パターンの端部,接地用固定軸,アース線接続圧着端子という経路にすることも,当業者が設計事項として任意に決定し得るものであって,当業者にとって何らの困難も想定できない。

 したがって,被告製品の製造時において,当業者は,本件相違部分を被告製品におけるものと置き換えることに,容易に想到することができたというべきであり,被告製品は,均等の要件3を充足する。


(5) 均等の要件4について

 被告製品の構成については,それが本件発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものであることにつき,被告において具体的な公知技術との関係でこれを主張して争うものではなく,これをうかがわせるに足りる事情も証拠上認められない。


(6) 均等の要件5について

 本件において,各電線とこれを巻き付ける第1及び第2の無半田電線巻付けピンの案内区別を容易にするための穴を設けるについて,絶縁ブロックに貫通孔を備えるという構成を採ることや,電話用線路保安コネクタ配線盤装置における接地経路として,接地用幅広肉厚パターンの端部,接地用固定軸,アース線接続圧着端子という経路にすることが,本件発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的除外されたものに当たるなど,均等の成立を妨げる特段の事情については,被告において具体的な事情を主張して争うものではなく,そのような事情の存在をうかがわせる証拠もない。したがって,被告製品は,均等の要件5を充足する。


(7) 以上によれば,被告製品は,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,その技術的範囲に属するというべきである。


3 争点(2) について

 前判示のとおり,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するものと解される以上,被告が本件特許権の出願公告日である平成2年2月7日以降平成12年1月までの間に被告製品を製造・販売していた行為は,本件特許権を侵害する不法行為に当たり(平成6年法律第116号による改正前の特許法52条1項,2項参照),原告は,被告に対し,その特許侵害行為によって受けた損害の賠償を請求できるというべきである。


 原告は,特許法102条3項に基づき,本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を,自己が受けた損害としてその賠償を請求するものであるが,本件発明の属する技術分野,被告製品の単価,製造販売に係る数量及びその期間,配線盤装置の需要状況,被告会社の事業規模など,本件訴訟に提出された全証拠及び弁論の全趣旨により認められる諸般の事情に加え,平成10年法律第51号による特許法改正によって現行の特許法102条3項の規定が新たに設けられた趣旨をも併せ勘案すれば,本件発明を実施して被告製品を製造する場合に受けるべき金銭の額に相当する額としては,被告製品の販売額の4パーセントと認めるのが相当である。そうすると,原告は,被告に対し,被告製品の販売金額3782万3250円の4パーセントに当たる151万2930円を自己が受けた損害の額として,その賠償を請求できるというべきである。

4 結論

 以上によれば,原告の請求は,151万2930円及びこれに対する不法行為の後の日である平成12年2月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

 よって,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。