●平成11(行ケ)437「光ディスク用ポリカーボネート成形材料事件」

  本日は、『平成11(行ケ)437 特許権 行政訴訟「光ディスク用ポリカーボネート成形材料事件」平成14年06月11日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/62E81DB7C37575F249256C2A0017EA0B.pdf)について取上げます。


 本件も、プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて判示した事件であり、プロダクト・バイ・プロセス・クレームによる発明について、その特許要件となる新規性あるいは進歩性を判断する場合,当該製法要件については、発明の対象となる物の構成を特定するための要件として、どのような意味を有するかという観点から検討して,これを判断する必要はあるものの,それ以上に,その製造方法自体としての新規性あるいは進歩性等を検討する必要はないこと、等を判示した事案です。



 つまり、東京高裁(第6民事部 山下 和明 裁判長)は、


『1 本件発明について

 本件発明を特定する特許請求の範囲の記載が,「ハロゲン化炭化水素を溶媒としてビスフェノールとホスゲンとの反応によって得られ,低ダスト化されたポリカーボネート樹脂溶液に,ポリカーボネート樹脂の非或いは貧溶媒を沈殿が生じない程度の量を加え,得られた均一溶液を45〜100℃に保った攪拌下の水中に滴下或いは噴霧してゲル化し,溶媒を留去して多孔質の粉粒体とした後,水を分離し,乾燥し,押出して得られるポリカーボネート樹脂成形材料であって」との表現により,発明とされるのがポリカーボネート樹脂成形材料であることを明らかにしつつ,そのポリカーボネート樹脂成形材料の製造方法を規定した上で(以下「本件製法要件」という。),「該ポリカーボネート樹脂中に含有される重合溶媒であるハロゲン化炭化水素が1ppm以下である光ディスク用ポリカーボネート成形材料。」との表現により,発明とされるポリカーボネート樹脂成形材料の用途を特定しつつ,同樹脂中のハロゲン化炭化水素の含有量が1ppm以下であるとの構造を規定しているものである(以下「本件構造要件」という。)。


 本件発明が,製造方法の発明ではなく,物の発明であることは,上記特許請求の範囲の記載から明らかであるから,本件発明の上記特許請求の範囲は,物(プロダクト)に係るものでありながら,その中に当該物に関する製法(プロセス)を包含するという意味で,広い意味でのいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するものである。


 そして,本件発明が物の発明である以上,本件製法要件は,物の製造方法の特許発明の要件として規定されたものではなく,光ディスク用ポリカーボネート成形材料という物の構成を特定するために規定されたものという以上の意味は有し得ない。


 そうである以上,本件発明の特許要件を考えるに当たっては,本件製法要件についても,果たしてそれが本件発明の対象である物の構成を特定した要件としてどのような意味を有するかを検討する必要はあるものの,物の製造方法自体としてその特許性を検討する必要はない。


 発明の対象を物を製造する方法としないで物自体として特許を得ようとする者は,本来なら,発明の対象となる物の構成を直接的に特定するべきなのであり,それにもかかわらず,プロダクト・バイ・プロセス・クレームという形による特定が認められるのは,発明の対象となる物の構成を,製造方法と無関係に,直接的に特定することが,不可能,困難,あるいは何らかの意味で不適切(例えば,不可能でも困難でもないものの,理解しにくくなる度合が大きい場合などが考えられる。)であるときは,その物の製造方法によって物自体を特定することに,例外として合理性が認められるがゆえである,というべきであるから,このような発明についてその特許要件となる新規性あるいは進歩性を判断する場合においては,当該製法要件については,発明の対象となる物の構成を特定するための要件として,どのような意味を有するかという観点から検討して,これを判断する必要はあるものの,それ以上に,その製造方法自体としての新規性あるいは進歩性等を検討する必要はないのである。


  本件発明は,光ディスク用ポリカーボネート成形材料において,含有される重合溶媒であるハロゲン化炭化水素が記録膜を腐食させる原因となっていることを見いだし,同成形材料中に含有される重合溶媒であるハロゲン化炭化水素を1ppm以下とするとの構成により,記録膜の腐食による劣化,破壊が生じにくいように改善したものであって,本件製法要件は,含有されるハロゲン化炭化水素が1ppm以下であるとのポリカーボネート成形材料を製造するための製造方法であるものの,このこと以外に,本件発明の対象であるポリカーボネート成形材料の構造ないし性質,性状その他の構成自体を特定するための要件としての特段の意味を有するものであると解することはできない。このことは,本件明細書の次の記載から明らかである。


 ・・・省略・・・


 本件発明においては,本件発明の対象となる物は,本件構造要件により十分に特定されている。このことは,本件明細書の上記記載から明らかである。本件発明における本件製法要件は,本件特許の対象である光ディスク用ポリカーボネート成形材料の構成を特定するための要件としては,ポリカーボネート樹脂中に含まれる量が1ppm以下とされているハロゲン化炭化水素が,ビスフェノールとホスゲンとの反応によってポリカーボネート成形材料が得られる際の重合溶媒であることを意味する以外には,特段の意味を有するものと解することはできない。


 要するに,本件製法要件は,本件特許の対象である「ポリカーボネート樹脂中に含有される重合溶媒であるハロゲン化炭化水素が1ppm以下である光ディスク用ポリカーボネート成形材料。」を製造するための方法を単に特許請求の範囲に記載したものにすぎず,それ以上に出るものではないのである。


 そうである以上,物の発明である本件発明に特許を付与する要件となる新規性あるいは進歩性等を判断するに当たっては,本件製法要件は,本件発明の構成を特定する要件としては,上記の程度の意味しか有していないことを前提とした上で,これを判断すべきことになるのは,当然である。  』

 と判示されました。


 なお、同日に出された『平成13(行ケ)84 特許権 行政訴訟「光ディスク用ポリカーボネート成形材料事件」平成14年06月11日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/FEAD2B26D7B1A1A849256C2A0017EA0C.pdf)も同旨のことを判示しています。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。