●平成11(ワ)8434 特許権 民事訴訟「単クローン性抗体事件」

 本日は、『平成11(ワ)8434 特許権 民事訴訟「単クローン性抗体事件」平成12年09月29日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/3FB0B0837416AC6D49256A77000EC400.pdf)について取上げます。


 本件も、プロダクト・バイ・プロセス特許の技術的範囲について判示した著名な事件の一つであり、特許請求の範囲が製造方法によって特定されたものであっても、特許の対象は飽くまで製造方法によって特定された物であるから、特許の対象を当該製造方法に限定して解釈する必然性はないが、特許の対象を当該製造方法に限定して解釈すべき事情が存する場合には、特許の対象が当該製造方法に限定される場合があり得る、と判示した事案です。



 つまり、東京地裁(民事第四七部 森 義之 裁判長)は、


『二 原告らは、本件特許請求の範囲は、製造方法によって特定された物の特許についてのもの(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム)であり、特許請求の範囲に記載された製造方法と異なる製造方法によるものであっても、物として同一であるものは、本件発明の技術的範囲に属するところ、被告製品は、物として同一であるから本件発明の技術的範囲に属すると主張するので、判断する。

1 解釈の指針

 一般に、特許請求の範囲が製造方法によって特定されたものであっても、特許の対象は飽くまで製造方法によって特定された物であるから、特許の対象を当該製造方法に限定して解釈する必然性はない。しかし、特許の対象を当該製造方法に限定して解釈すべき事情が存する場合には、特許の対象が当該製造方法に限定される場合があり得るというべきである。


2 本件特許請求の範囲の記載

 ・・・省略・・・

(二) 「物の製造方法を記載した部分」のうち「融合細胞の取得過程」及び「単クローン性抗体の回収過程」について


 前記一2で認定した本件明細書の記載及び弁論の全趣旨によると、「物の製造方法を記載した部分」のうち「融合細胞の取得過程」及び「単クローン性抗体の回収過程」は、公知の技術であると認められる。


(三) 「物の製造方法を記載した部分」の「得られた単クローン性抗体の選別過程」と「物の性質を記載した部分」について

 前記一2で認定した本件明細書の記載によると、CEA分子上には多くの抗原決定基が存在すること、原告らは、右CEA分子上の多くの抗原決定基を五種類(個体特異的抗原決定基、CEA特異決定基、NFA−1共通決定基、NFA−2共通決定基、NCA共通決定基)に分類し得ることを提案したこと、「物の性質を記載した部分」は、右原告らの提案に係る分類を前提とする反応特異性を内容とするものであること、以上の事実が認められる。

 前記一2で認定した本件明細書の記載によると、「物の製造方法を記載した部分」の「得られた単クローン性抗体の選別過程」は、右の五種類の抗原決定基との反応特異性を確認する過程であって、「物の性質を記載した部分」によって、五種類の抗原決定基との一定の反応特異性を示すという要素により特定された単クローン性抗CEA抗体を、更に物の性質が異なるものとして特定するものではないということができる(この限度では、原告らの前記主張は、正当であるということができる。)。


3 本件特許の出願経過

 前記一1の事実によると、本件特許は、本件原出願について、特許庁の拒絶査定を受けた後に、分割出願し、本件特許請求の範囲記載のものとして特許されたこと、原告らは、右出願過程において、「引例は、方法でつくられた物として特定された本発明の特徴を明示も暗示もしていない。」などと述べて、公知技術との方法の違いを強調していたこと、本件特許請求の範囲の記載は、本件原出願の特許請求の範囲の記載に比べて、「製法によって得られた」ことを明示するなど、特定の製法によるものであることを明確にする内容になっていること、以上の事実が認められる。

4 結論

 本件原出願が行われた当時の特許法三六条五項は、特許請求の範囲について、「発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない」と規定していたから、本件特許請求の範囲の記載も、そのようなものであると解される。


 しかるところ、原告らが主張するように、「物の製造方法を記載した部分」の「得られた単クローン性抗体の選別過程」は、物の性質(反応特異性)を製造方法(選別方法)によって確認しているだけであるから、「物の性質を記載した部分」のみを充足していれば、本件発明の技術的範囲に属するとすると、「物の製造方法を記載した部分」の「得られた単クローン性抗体の選別過程」は全く無意味な記載であるということになり、特許法三六条五項の右要件に適合しないことになる。


 「物の製造方法を記載した部分」の「得られた単クローン性抗体の選別過程」は、「物の性質を記載した部分」とは別の意味を有するものと解さなければならず、そうすると、「物の製造方法を記載した部分」の「得られた単クローン性抗体の選別過程」は、「物の性質を記載した部分」で特定される物の具体的な製造方法を特定したものと解さざるを得ない。そして、そのように解することが、右3で述べた本件特許の出願経過にも適合するということができる。以上のとおり、本件においては、特許の対象を当該製造方法に限定して解釈すべき事情が存するということができる。

  しかるところ、被告製品の製造方法が、本件特許請求の範囲中の「物の製造方法を記載した部分」の「得られた単クローン性抗体の選別過程」を充足することについての主張立証はないから、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するということはできない。


三 以上の次第であるから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は理由がない。


 よって、主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


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