●平成17(行ケ)10775審決取消請求事件「スピーカ用振動板の製造方法

  本日は、『平成17(行ケ)10775 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「スピーカ用振動板の製造方法」平成18年12月07日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061208152230.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、プロダクト・バイ・プロセス・クレームによる特定が許されるのは,当該発明の対象となる物の構成を製造方法と無関係に直接的に特定することが,不可能ないし困難である等,その物の製造方法によって物自体を特定することに合理性が認められるような例外的な場合に限られる等、と判示した事案です。


 つまり、知財高裁(第3部 三村量一 裁判長)は、

『4 取消事由4(本件特許発明2についての認定判断の誤り)について

(1)本件明細書(甲7)の特許請求の範囲の請求項2の記載は,「請求項1の製造方法を用いて,二層以上を重ね合わせて堆積する多層構造のスピーカ用振動板。」というものであるから,本件特許発明2は,「製造方法の発明」である請求項1を引用する形式で記載されているものの,「製造方法の発明」ではなく,「物の発明」であることが明らかである。すなわち,上記特許請求の範囲の記載は,物(プロダクト)に係るものでありながら,その中に当該物に関する製法(プロセス)を包含するという意味で,いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するものである。


 物の「製造方法」ではなく,「物の発明」について特許を得ようとする者は,本来,当該発明の対象となる物の構成を直接的に特定すべきであり,プロダクト・バイ・プロセス・クレームという形式による特定が許されるのは,当該発明の対象となる物の構成を製造方法と無関係に直接的に特定することが,不可能ないし困難であるか,不適切であり,その物の製造方法によって物自体を特定することに合理性が認められるような例外的な場合に限られるというべきであるが,その場合にも,当該製法はあくまでもその結果製造される「物」の構成を一義的に特定するための指標として機能するものであって,当該製造方法とは異なる方法により製造された物であっても,「物」の構成が客観的に同一であれば,当該発明に包含されるものと解するのが相当である。


  そうすると,「物の発明」である本件特許発明2の新規性及び進歩性について審理するに当たっては,上記特許請求の範囲における「請求項1の製造方法を用いて」との記載は,「製造方法の発明」の要件として規定されたものではなく,「多層構造のスピーカ用振動板」という物の構成を特定するために規定されたものという以上の意味を有しないというべきであるから,本件特許発明2の要旨は,最終的に得られた「多層構造のスピーカ用振動板」それ自体に係るものと解すべきである。換言すると,本件特許発明2は,本件特許発明1に係る製造方法とは異なる方法によって製造された「多層構造のスピーカ用振動板」であっても,本件特許発明1に係る製造方法によって製造された「多層構造のスピーカ用振動板」と客観的に同一の構成を有するものであれば,これを包含するものというべきである。


 したがって,「製造方法の発明」である本件特許発明1が,甲1発明ないし甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないとしても,「物の発明」である本件特許発明2について,これと客観的に同一ないし類似する構成の「物」が先行して存在したこと等を理由として,その新規性ないし進歩性を否定する余地が否定されるものではない。


(2) しかしながら,本件では,審判手続の段階において原告(請求人)が主張した本件特許発明2(物の発明)に係る特許の無効理由が,本件特許発明2は,本件特許発明1(製造方法の発明)が進歩性を欠くのと同様の理由で,進歩性を欠くということに尽きるものであり,「物の発明」である本件特許発明2に固有の理由を主張したものではないことについて,当事者間に争いがない(本件特許発明1に係る製造方法によって製造された「多層構造のスピーカ用振動板」と客観的に同一の構成の「多層構造のスピーカ用振動板」を当業者が容易に発明をすることができたかどうかは,審判請求の対象となっていない。)。


 そして,審決が,本件特許発明1に係る特許について「本件審判の請求は,成り立たない」としたことに誤りがないことは,上記1ないし3において説示したとおりである。


 そうすると,審決が,本件特許発明2に係る特許について「本件審判の請求は,成り立たない」としたことは,その結論において相当というべきである。原告主張の取消事由4は理由がない。


5 結論

 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決にこれを取り消すべき誤りは認められない。


 したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10061 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「CUBS」平成19年08月08日』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070808163449.pdf
●『平成18(行ケ)10419 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「液体の吸引判別方法およびこの方法により駆動制御される分注装置」平成19年08月08日』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070808163105.pdf
●『 平成18(行ケ)10550審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「固体高分子電解質燃料電池」平成19年08月08日』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070808162633.pdf
●『平成18(行ケ)10406 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「hPTH(1−37)配列由来のペプチド」平成19年08月08日』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070808150402.pdf
●『平成18(行ケ)10471等 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「地下水中のハロゲン化汚染物質の除去方法」平成19年08月08日』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070808145234.pdf
●『平成18(行ケ)10527 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「揚液装置」平成19年08月08日』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070808144703.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『2007/08/08-16:56 シカゴ・カブスのロゴ商標認める=特許庁の審決取り消し−知財高裁』http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2007080800727


 ・・・上記『平成19(行ケ)10061 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「CUBS」平成19年08月08日』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070808163449.pdf)事件のようです。


●『シカゴ・カブスのロゴ、UBSとは似てません 知財高裁』http://www.asahi.com/national/update/0808/TKY200708080319.html
●『「カブスと読めます」 日本選手活躍でロゴ認知』http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007080801000550.html
●『マイクロソフトに対する損害裁定が無効に、「MP3」特許訴訟で』http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djBSI8954.html
●『MicrosoftとLucentのMP3特許侵害訴訟,地裁がMS不利の評決を覆す 』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070808/279281/?ST=win
●『GoogleLinux関連特許を無償提供する特許管理会社「OIN」に参加』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070808/279317/?ST=oss
●『GoogleLinux特許管理会社「OIN」に参加 』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0708/08/news019.html
●『グーグル、Linux特許共有会社「OIN」とライセンス契約 』http://www.computerworld.jp/news/trd/74269.html
●『「MSはオープンソースコミュニティを分断した」――Ubuntu創設者』http://www.atmarkit.co.jp/news/200708/08/ubuntu.html
●『簡単!特許情報を活用しよう アイスクリームの特許 』
http://www.business-i.jp/news/for-page/chizai/200708080001o.nwc
●『製薬大手、米で大型新薬申請へ――特許切れ対策急ぐ』
http://markets.nikkei.co.jp/kokunai/hot.cfm?id=d1d0703x07&date=20070807
●『インド高裁、改良薬特許認めず・ノバルティスの請求棄却』
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20070807AT2M0700207082007.html
●『黄禹錫博士のES細胞国際特許、すべて「不適正」』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070808-00000009-yonh-kr
●『WSJ-米連邦地裁判事、「クアルコムは証拠を隠ぺい」と判断』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070808-00000020-dwj-biz
●『「米QUALCOMM社がH.264の規格策定で不正行為」,米連邦裁判所が判断』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070808/137668/