●昭和50(ワ)2564 実用新案権 民事訴訟「貸しロッカー事件」

  本日は、『昭和50(ワ)2564 実用新案権 民事訴訟「貸しロッカー事件」昭和52年07月22日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/7AFF5138F57B06DF49256A76002F899E.pdf)についてご紹介します。


 本件は、機能的クレームは明細書に記載された実施例に限定解釈されると判示した事案です。


 現在は、特許法104条の3の無効の抗弁が認められることに成った以上、かかる機能的クレームの実施例限定解釈が現在も有効なものか否かは不明ですが、「磁気媒体リーダー事件」や「アイスクリーム充填苺事件」』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/D402E4412BAC70154925701B000BA3DE.pdf)と並び、機能的クレームの解釈の著名な事件ですので、覚えておいて損はないかと思います。


 つまり、東京地裁は、


『二 本件考案の構成要件

 成立に争いのない甲第一号証(本件実用新案公報)によれば、本件考案の構成要件は、次のとおりであることが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

1 鍵2の挿入により硬貨投入口8を開き、
2 鍵2の抜取りにより硬貨投入口8を閉じる、
3 遮蔽板9を設けた、
4 貸ロツカーの硬貨投入口開閉装置。


 右認定の事実によれば、本件考案にかかる右装置は、(イ)鍵の挿入又は抜取りという手段と(ロ)これにより作動する遮蔽板という手段とを有するものということができる。


三 本件考案の権利範囲

1 しかしながら、すでに判示したところからすれば、本件考案の実用新案登録請求の範囲に記載されているところは、鍵の挿入又は抜取りにより、貸ロツカーの硬貨投入口を開閉する装置を構成する課題の提示のみであるというべきである。すなわち、すでに判示したとおり、本件考案においては、右課題の解決のために鍵の挿入又は抜取りという手段及び遮蔽板という手段を具体的に挙げているので、右課題の解決を示しているかのように見られるが、右各手段についての表現は、抽象的であり、右各手段が具体的にいかなる中間的機構を有すれば、鍵の挿入又は抜取りという動作と遮蔽板の作動という動作とを連動させることができるかについては、実用新案登録請求の範囲の記載のみによっては知ることができないから、右のような抽象的な記載をもって、何ら右課題の解決を示したものということはできない。


 しかして、実用新案権の技術的範囲は、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(実用新案法第二六条、特許法第七〇条)ところ、本件考案は、その明細書の右のような抽象的な実用新案登録請求の範囲の記載のみによっては、とうてい、その技術的範囲を定めることはできないものというべきである。そこで、本件考案の技術的範囲を定めるためには、右明細書の考案の詳細な説明の項及び図面の記載に従い、その記載のとおりの内容のものとして、限定して解さなければならない。


したがって、本件考案の構成要件を具備した装置がすべて本件考案の技術的範囲内にあるものということはできない。


2 ところで、被告は、本件考案はその実用新案登録請求の範囲の記載が右のように抽象的であるので、権利として不成立であり、そうでないとしても、その権利範囲が特定されず、さらに、その構成要件のすべてが公知であって、新規性を欠くから、原告の本件実用新案権に基づく権利の行使が許されない旨主張する。しかしながら、本件実用新案権が権利として成立している以上、被告主張のような事実があるとしても、この権利が無内容のものであり、したがって、実質的にその登録が無効のものとして、取り扱うことはできないから、本件考案の技術的範囲は、右1のとおり限定して解されるべきであり、この範囲における権利の行使が許されないものとはいえない。したがって、被告の右主張は、理由がない。


3 しかして、前示甲第一号証(本件実用新案公報)によって、本件考案の明細書の考案の詳細な説明の項及び図面の記載を参酌して、本件考案の技術内容を区分説明すれば、次のとおりであることが認められる。


(1) 鍵2の挿入又は抜取りによって進退する作動棒6を設け、
(2) 作動棒6の一端が操作軸7の下方のクランクアーム部7aに当接し、
(3) 操作軸7の上部は直角に折曲され、その先端はピン13により軸着された遮蔽板9の突片10に当接し、
(4) 遮蔽板9の下端部は、ピン13により軸着され、その中間部においてコイル状発条14の一端を係止している。
(5) 硬貨投入口開閉装置。


四 本件物件の構造

 請求原因五の事実は当事者間に争いがなく、右事実と本件物件を表示するものであることについて当事者間に争いのない別紙目録の記載によって、本件物件の構造を区分説明すれば、次のとおりであることが認められる。
(1′) 鍵8の挿入によって突出し、鍵8の抜取りによって、コイルバネの押圧力により表側に押し出される進退杆9を設け、
(2′) 進退杆9には、その上部が斜状に形成された突片14が取り付けられ、この突片の上部は上下動板15の下端に設けられたローラ16と当接し、
(3′) 上下動板15の上部は、ピン23により回転自在枢着された遮蔽板21の下端に設けられた突出棒22に当接している、
(4′) 硬貨投入口開閉装置。

五 本件考案と本件物件との対比

 そこで、本件物件と本件考案とを対比すると、本件物件においては、本件考案における操作軸7を欠くから、この点において、本件考案の右三の3、(3)の要件を備えていないものである。したがって、本件物件は、その余の点について判断するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属しないものである。


六 原告の均等の主張

 原告は、本件物件について、鍵の抜挿という直線運動を遮蔽板を回動させる運動に変える構造について、クランク機構を利用するかカム機構を利用するかは設計上の問題にすぎず、カム機構を利用する本件物件はクランク機構を利用する本件考案の均等物である旨主張する。しかし、すでに判示したとおり、本件考案の技術的範囲は、明細書の考案の詳細な説明の項及び図面の記載のとおりの内容のものとして、限定して解さなければならない。


 ところで、前示甲第一号証によれば、本件考案については、その詳細な説明の項及び図面の記載には原告主張のようなカム機構を利用することに関する記載はないから、カム機構を利用することは、その技術的範囲に属しないものといわなければならない。したがって、原告の右主張は、理由がない。


六 してみれば、本件物件が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする原告の本請請求は、その余の点について、判断するまでもなく、失当として、棄却されるべきであるから、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり、判決する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。

 
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