●平成17(行ケ)10579 審決取消請求事件「像処理装置,像記録装置及

  本日は、『平成17(行ケ)10579 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「像処理装置,像記録装置及び像再現装置」平成18年10月04日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061006152034.pdf)についてご紹介します。


  本件は、特許法36条4項,5項違反の拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


  本件は、特許法36条4項の実施可能要件について判示すると共に、昨日紹介した『平成18(行ケ)10094 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「レンズ及びその製造方法」平成19年07月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070731113036.pdf)や、『平成17年(行ケ)第10042号 特許取消決定取消請求事件「偏光フィルムの製造法」平成17年11月11日 知的財産高等裁判所』(http://www.ip.courts.go.jp/documents/pdf/g_panel/10042.pdf)と同様に、特許法36条5項のサポート要件について判示している点で、参考になる事案です。



 つまり、知財高裁(第2部 中野哲弘 裁判長)は、特許法36条4項,5項について、


『3 取消事由1(特許法36条4項が規定する要件を満たしていないとの判断の誤り)について


・本願に適用される特許法(平成6年法律第116号による改正前のもの。
以下同じ)36条4項には,「…発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と規定している。


 この規定は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が,明細書及び図面に記載された事項と出願時の技術常識とに基づき,請求項に係る発明を容易に実施することができる程度に,発明の詳細な説明を記載しなければならない旨の規定であって,明細書及び図面に記載された事項と出願時の技術常識とに基づいて,当業者が発明を実施しようとした場合に,どのように実施するかが理解できないとき(例えば,どのように実施するかを発見するために,当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤等を行う必要があるとき)には,この規定の要件が満たされていないことになる。


 そこで,以上の見地に立って,原告の各主張について検討する。


 ・・・省略・・・


 したがって,本願明細書には,「フレームに記録された情報が影の有る領域と影のない領域とを有する場合に,影の有る領域を識別し,影のない領域について,再現像情報を発生する」方法について,当業者が実施できる程度の記載があるとはいえないものというべきである。

・以上のとおり,本願明細書には,本願発明について,当業者が実施できる程度の記載があるとはいえないものというべきである。


4 取消事由2(特許法36条5項が規定する要件を満たしていないとの判断の誤り)について


・前述した特許法の36条5項は,「…特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と規定した上,1号で「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。


 同号は,明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。


・審決は,「請求項17」の発明について,「実際の光源が複数有り,立体的な場面に対して,どのように有影領域部分を識別できるか不明であり,フレームの記録に同期した光源位置と再現像の所望の光源位置とを関連付ける重み係数をどのように決定するのかも不明である。」として,特許法36条5項が規定する要件を満たしていないと判断している(3頁16行〜21行)ところ,原告は,同項が規定する要件を満たしていると主張する(前記第3の1・イ)。


・「請求項17」の発明は,前記2・・の「フレームに記録された情報が影の有る領域と影のない領域とを有する場合に,再現像情報発生器によって,影の有る領域を識別し,影のない領域について,フレームの記録と同期した光源の位置と再現像のための光源の所望位置との関係に関して重み付けを行って再現像情報を発生する」発明であるところ,前記3・で述べたところからすると,本願明細書には,「光源の所望の位置との関係に対して付けられる重み係数」を求める方法について当業者が認識できる程度の記載があるとはいえない。また,前記3・で述べたところからすると,「フレームに記録された情報が影の有る領域と影のない領域とを有する場合に,影の有る領域を識別し,影のない領域について,再現像情報を発生する」方法についても,本願明細書には,当業者が認識できる程度の記載があるとはいえない。


 殊に,請求項17には,「該有影領域決定部は前記フレーム象情報から有影領域部分を識別し」と記載されているところ,フレーム像情報の輝度だけでは,影なのか,濃い色の部分なのか判断できないと考えられるが,本願明細書には,フレーム像情報から有影領域部分をいかに識別するかについての記載がない。


 したがって,「請求項17」の発明については,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないのであり,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めるに足りる証拠もないから,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」ということはできないものというべきである。


5  以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願については,特許法36条4項及び5項が規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないから,その旨の審決の判断に誤りはない。

 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。



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