●平成18(行ケ)10048 審決取消請求事件「可塑性食品の移送装置事件

  本日は、『平成18(行ケ)10048 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「可塑性食品の移送装置事件」平成19年07月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070731114717.pdf)について取上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、知財高裁における「発明者ないしは共同発明者の意義」について述べていますので、冒人出願や職務発明制度等が絡んでくる点で、重要な判決例ではないかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 三村量一 裁判長)は、

『当裁判所は,本件発明は,Yを発明者の一人とする発明ではあるものの,同人の単独発明ではなく,Xをも発明者(共同発明者)とする発明と認められ,本件発明の共同発明者としてXが存在するということはできないとした審決の認定は誤りであって,この誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから,審決を取り消すべきものと考える。その理由は,次のとおりである。


発明者(共同発明者)の意義について
 発明者とは,特許請求の範囲に記載された発明について,その具体的な技術手段を完成させた者をいう。ある技術手段を発想し,完成させるための全過程に関与した者が一人だけであれば,その者のみが発明者となるが,その過程に複数の者が関与した場合には,当該過程において発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者が発明者となり,そのような者が複数いる場合にはいずれの者も発明者(共同発明者)となる。


 ここで,発明の特徴的部分とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分をいう。


 けだし,特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にあるから,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分の完成に寄与した者でなければ,発明者ということはできないというべきだからである。


2 本件発明の特徴的部分について

 そこで,本件発明の特徴的部分について,検討する。

(1) 本件明細書(甲10)には、特許請求の範囲(前記第2,2)のほか,次の記載がある。


 …省略…


(2) 本件明細書の上記(1)の各記載によれば,従来,「可塑性食品の移送装置として外筒内に軸方向ほぼ全長にわたって外筒内に回転軸と一体にスクリューを形成し,前記回転軸を外筒外に設置した電動機の駆動によって回転させることで,外筒の基端部に設けた供給口から供給した餡などの可塑性食品を,回転軸とスクリューとの一体的な回転によって外筒の先端側に移送し,その先端に設けた送出口から送り出すもの」が用いられていたところ,可塑性食品の流動性が低い場合などに,食品がスクリューに絡みついてこれと共に回転してしまい,食品の移送ができないという問題の解決手段として,外筒の内周面に,その軸方向に沿う直線状又は螺旋状に,条溝を形成していたが,このような従来技術には,外筒の内周面の加工や使用後の洗浄が困難であるという課題があったので,本件発明は,これを解決するため,外筒の内周面に条溝を形成することに代えて,外筒に挿入する軸の外周面に条溝を形成することにより,加工及び使用後の洗浄を容易にするとともに,餡などの流動性の低い可塑性食品や粘着性がある可塑性食品を,ブレードと共回りすることなく,外筒の先端に設けた送出口に移送し,その前方に送り出すことができるようにしたものということができる。


 そうすると,本件明細書の特許請求の範囲に記載された本件発明の構成のうち,「外筒内に軸方向ほぼ全長にわたって,外周面に前記供給口と対向する部分から先端に至る条溝が形成してある軸を挿入し,前記軸の外周面と前記外筒の内周面とに内縁と外縁とがそれぞれ摺接して回転する螺旋状の送出用ブレードを,軸と外筒との間に介在させ,」「前記軸を非回転または送出用ブレードの回転より低速に回転するようにした」点(以下「特徴的部分」という。)が,上記の従来技術にはない構成であって,本件発明における課題解決手段を基礎付ける特徴的部分であると解するのが相当である。



 ・・・省略・・・


(4) 小括

 以上検討したところによれば,本件発明と甲15発明とを対比検討するまでもなく(原告は,本件発明と甲15発明が実質上同一でないことを認めていると解される。),本件発明については,Yの関与の下において完成されたものであるが,その特徴的部分についてXが創作的に寄与したものと認められるから,本件発明は,Yの単独発明ではなく,Xを共同発明者とする発明と認めるのが相当である。


5 結論

 以上のとおり,本件発明についてXを単独発明者とする発明であるとの原告主張は採用できないが,本件発明は少なくともXを共同発明者とする発明であるとの原告主張は是認すべきものであり,これと異なる認定判断を前提とする審決は,取消しを免れない。


 したがって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。



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