●平成18(行ケ)10091 審決取消請求事件 商標権「元祖餃子の王将」

  本日は、B事件である『平成18(行ケ)10091 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「元祖餃子の王将」 平成19年07月19日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070725141109.pdf)について取上げます。


 B事件では、A事件の被告(大阪王将)が原告になり、A事件原告(京都王将)の「元祖餃子の王将」についての商標登録無効審判の棄却審決の取消を求めた事案で、その棄却審決が取消された事案です。



 つまり、知財高裁(第2部 中野 哲弘 裁判長)は、

『2 B事件について

(1) 請求原因ア(特許庁における手続の経緯),イ(B事件審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。

 そこで,以下,被告主張の取消事由について判断する。


(2) 取消事由3につき

 被告は,審決は,B商標からも引用各商標からも同一の「オウショウ」の称呼「王将」の観念が生じ,外観も「王将」の部分に同一性が認められ, 非類似とはいえないから,審決の認定は誤りであると主張する。

B商標は,前記第3(2)ア(ア)のとおり,原告により平成7年12月16日に出願され平成14年4月12日に設定登録されたものであり,その構成は,前記のとおり「元祖餃子の王将」の文字を同書同大に等間隔にまとまって横書きしてなり,指定商品は,第30類の「餃子,サンドイッチ,すし,ピザ,べんとう,ミートパイ,ラビオリ」とするものである。一方,引用各商標については,上記のとおりである。


ア 外観

 審決は,原告が実際に使用している標章の「餃子の王将」の文字が一般消費者に相当程度知られていることを前提とし,創始者等の意味を有する「元祖」の文字部分を略して「餃子の王将」の部分をもって外観が把握されるとし,一方引用商標3に関しては,将棋の王将としての外観が生じるとして,外観上区別しうるとした。


 しかし,B商標は,上記認定のとおり「元祖餃子の王将」の文字を同書同大に等間隔にまとまって横書きしてなるものであり,一方,引用商標1,2は,いずれも「王将」の文字を横書きにしてなるもので,引用商標3は,金色の将棋の駒の内部に黒字で王将と書かれたものである。


 そうすると,外観上,B商標と引用各商標は区別しうるが,B商標においては,文字や配列,配色等に特段の特徴はなく,かえって引用商標1,2とは漢字の「王将」を横書きする点において共通し,外観上の差異はそれほど顕著とはいえないというべきである。


イ 称呼

 審決は,上記アのとおり,原告による使用により「餃子の王将」の部分をもって称呼が把握される場合があるとして,B商標は「ガンソギョウザノオウショウ」又は「ギョウザノオウショウ」の称呼のみを生じ,一方,引用商標1,2は「オウショウ」の称呼が生じ,構成音数及び語調語感に顕著な差異を有するから,称呼上明確に区別しうるとした。


 しかし,「元祖」の意味に関し,広辞苑(第5版)によれば,「?一家系の最初の人。?ある物事を初めてしだした人。創始者」の意味であるところ(B事件甲159) ,この部分に格別の識別力があるとは認めらない。


 加えて,B商標は「元祖餃子の王将」の文字を同書同大にして横に並べただけであり,餃子が食品名を表し「の」は格助詞であることから,「餃子の」の部分が,格別の自他識別機能を有さず,また直ちに原告の店舗名を想記させるほどの特徴も有していないことから「オウショウ」のみの称呼が生じる場合もあるというべきである。


 そうすると,B商標は「ガンソギョウザノオウショウ」,「ギョウザノオウショウ」又は「オウショウ」の称呼を生じ,一方,引用各商標からは「オウショウ」の称呼が生じることから,B商標と引用各商標の称呼は構成音数及び語調語感にさほどの差異があるとは認められないというべきである。


ウ 観念

 審決は,B商標は,原告の中華飲食店での使用標章である「店舗名(餃子の王将)」を想記,観念するとし,引用各商標は「将棋の王将」の観念を生じるとした。

 しかし,B商標は,上記のとおり「元祖餃子の王将」と横書きに書すだけのものであるから,原告の店舗名がそれなりに一般消費者に周知であるとはいえるとしても,そこから直ちにB商標から原告の店舗名である「餃子の王将」を観念するとするには飛躍があるというべきである。


 このことは,例えば「王将の餃子」は,あまりにも有名で,「王将餃子」と聞いて学生時代を懐かしむ組合員さんも多いのではと思いますが,王将には「京都王将」と「大阪王将」と二つの別会社があります。私たちに生協仕様の冷凍餃子を作って下さっているのは「大阪王将」です(機関誌せいきょう,乙55)とするもの「王将って,大阪の店と京都の店,別々の,経営なのでしょうか? (乙87の12のブログ),「餃子の王将」(京都王将)と勘違いしている人が結構いるかもね(乙84のインターネット掲示板への投稿。」)等からしても「元祖餃子の王将」とのB商標の表記から,直ちに原告の店舗名を想記するとまではいえないことが明らかである。


 そうすると,B商標からは「元祖」,「餃子の」の部分に格別の識別力が生じないことから「王将」の部分につき,将棋の王将の観念が生じるというべきである。そして,引用各商標からは将棋の王将の観念が生じるから,両商標の観念はほぼ同一というべきである。


エ 小括

 上記認定を総合すると,B商標と引用各商標とは,外観において一応区別しうるもののそれほど顕著な差異とはいえず,称呼については構成音及び語調語感にさほどの差異はなく,観念についてはほぼ同一というべきである。


オ 取引の実情を踏まえた検討

 そして,指定商品(主として餃子)の取引の実情を踏まえて商品の出所に誤認混同をきたすおそれがあるか否かについて検討すると,原告がB商標を実際に使用しているとの証拠もなく,また,原告の使用する「餃子の王将」と「元祖」とを組み合わせるなどした表示も使用していないことから,商品の出所に誤認混同をきたすおそれがないとはいえないというべきである


 原告は「餃子の王将」についてはこれを標章として使用しており,著名である旨も主張するが「元祖餃子の王将」として標章を使用している事実は認められず,また上記のとおり,「元祖餃子の王将」の文字から「餃子の王将」の部分だけが取り出され認識されるほどに著名であるとまで認めることはできない。よって,原告の主張は採用することができない。

カ まとめ

 以上によれば,B商標と引用各商標とは,観念をほぼ同一にし,称呼上及び外観上の差異も顕著とはいえないものであるから,同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがある類似の商標であるといえる。

 そうすると,B事件の審決には,法4条1項11号にいう類否判断を誤った違法があり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものというべきである。


3 結論

 以上のとおりであるから,A事件審決の取消しを求める原告の請求は理由があり,B事件審決の取消しを求める被告の請求も理由がある。

 よって,訴訟費用の負担について,その2分の1ずつを原被告に負担させるのを相当と認めて,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10440 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ねじ穴有効深さ測定方法」平成19年07月25日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070726153818.pdf
●『平成18(行ケ)10395 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ボルト」平成19年07月25日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070726153514.pdf
●『平成18(行ケ)10407 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「化学的機械的研磨用の多層の止め輪を有するキャリア・ヘッド」平成19年07月25日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070726153027.pdf
●『平成17(行ケ)10721 特許取消決定取消請求事件 特許権「化学的機械的研磨用の多層の止め輪を有するキャリア・ヘッド」平成19年07月25日 知的財産高等裁判所』』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070726144137.pdf