●平成18(行ケ)10519等 審決取消請求事件 商標権「餃子の王将」

  本日は、『平成18(行ケ)10519等 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟餃子の王将」平成19年07月19日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070725141109.pdf)について取上げます。


 本件では、「餃子の王将」の商標登録についてのA事件と、「元祖餃子の王将」の商標登録についてのB事件とがありました。


 事案の概要から説明すると、判決文に記載の通り、

『1 原告は,昭和49年7月に京都市において設立された会社で,当初は「株式会社王将チェーン」と称していたが,その後「株式会社餃子の王将チェーン」と商号変更し,次いで平成2年12月からは「株式会社王将フードサービス」という商号となっている。社会一般には「京都王将」と称されることが多い。

 被告は,昭和52年8月に大阪市において設立された会社で,旧商号を「大阪王将食品株式会社」又は「株式会社大阪王将」と称し,平成14年からは現在の「イートアンド株式会社」という商号となっている。社会一般には「大阪王将」と称されることが多い。
2 ところで,原告(京都王将)は,下記のとおりの内容を有するA商標とB商標とを有している。

 ・・・省略・・・

4 そして,被告(大阪王将)は,自己が有する上記引用商標1ないし3に係る商標と指定商品が類似している(商標法4条1項11号)ことを理由に,特許庁に対し原告(京都王将)を被請求人として上記A商標については平成17年12月20日付けで,B商標については平成17年12月27日付けで,それぞれ商標登録の無効審判を請求した。


 これに対し特許庁は,A商標については平成18年10月20日付けで引用商標1ないし3とは「オウショウ」の称呼及び「王将」の観念を共通にする類似する商標であり指定商品も一部類似するとして,指定商品「ぎょうざ,サンドイッチ」等についてのA商標の登録は無効であり,その余は無効でないとする審決をした。


 一方,B商標については平成19年1月31日付けで,引用商標1ないし3とはその称呼・観念・外観がいずれも区別し得るから,商標において非類似であるとして,無効審判請求不成立の審決をした。


 そこで,A商標に関する上記審決に不服の原告(京都王将)が審決の取消しを求めて提起した訴訟がA事件であり,B商標に関する上記審決に不服の被告(大阪王将)がその審決の取消しを求めて提起した訴訟がB事件である。 』


であります。


 まず、A事件について、知財高裁(第2部 中野 哲弘 裁判長)は、

『(1) 請求原因ア(特許庁における手続の経緯等),イ(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。


(2) A商標の法4条1項11号該当性の有無

ア 類比判断に関する基本的視点

 商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的取引状況に基づいて判断すべきである。また,商標の外観観念,または称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,従って,上記三点のうちその一において類似するものでも,他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって,なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解すべきではない(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照。)


 また,簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,商品の購買者は,二個の商標を現実に見比べて商品の出所を識別するのではなくして,その商標を構成する文字,図形の各部分またはその総括した全体を通じて最も印象の強いものによって商品の出所を識別するのが普通である。このように,商標は,その作成者の意図如何にかかわらず,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されるとは限らず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二つ以上の称呼,観念の生ずることがあるところ,一個の商標から二つ以上の称呼,観念が生ずるものと認めることが許されるかどうかは,当該商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているか否かによって決せられるべきである(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照。)


 そこで,以上の見地に立って,A商標と引用各商標の類否について判断する。

イ 本件における事実関係

 証拠(各認定事実の末尾に摘示した)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実を認めることができる。


 ・・・省略・・・


ウ 具体的検討

(ア) 外観

A 商標は,上記認定のとおり,左側に赤の色彩を施した「餃子の」の文字を配し,その右側に赤地に白抜きの文字で大きく「王将」の文字を表し,その「王将」の文字を緑・橙・黄色の三重の括弧である「〈〈〈」,及び「〉〉〉」で挟んでなるところ,各文字部分は赤字の「餃子」のそれより若干大きく,白抜き文字で「王将」とそれぞれ表示され,配色としても緑,橙,黄色の三重括弧とその内部の王将の文字を強調する赤地よりなるものである。一方,引用商標1,2はいずれも「王将」の文字を横書きにしてなるものであり,引用商標3は,金色の将棋の駒の内部に黒字で王将と書かれたものである。


 そうすると「餃子の王将」という表示(A商標)と,「王将」という表示(引用各商標)である点で,表示内容が異なり,外観上,A商標と引用各商標とは区別できるというべきである。


 これに対し被告は,A商標の外観は「王将」の文字を三重括弧で挟み込むことにより,「餃子の」の部分より分離させ,際だたせる効果が生じ,引用各商標と外観上の同一性があるとするが,上記のとおり,外観上は,三重括弧と内部の配色や,構成文字の数等からしてA商標と引用各商標は,異なるものであるから被告の主張は採用することができない。


(イ) 称呼

 審決は,A商標の自他識別機能を果たすのは「王将」の文字部分にあり,該文字に相応して「オウショウ」の称呼が生じ,引用各商標も「オウショウ」の称呼が生じるから,称呼において両商標は共通するとした。


 しかし,A商標は「王将」の文字部分を,それ自体「餃子の」の文字よりも大きく書きまた三重括弧等で強調しているとしても,「餃子の」の文字部分も存し,また目立つ色彩である赤字で書かれていることからすれば,A商標の強調する「王将」の文字部分から「オウショウ」の称呼が生ずることは否定しえないものの,一方で「ギョウザノオウショウ」の称呼も同程度に生じることもまた明らかというべきである。


 一方,引用各商標からはいずれも「オウショウ」の称呼が生じるのみである。

 したがって,A商標と引用各商標とがその称呼を同一にするとまではいえないというべきである。


(ウ) 観念

 審決は,A商標引用各商標からいずれも「王将」の観念が生じるから,両商標の観念は共通するとしたが,「王将」の観念とはいかなる内容なのかについては,何らの判断を示していない。

 A商標は,観念に関し「餃子の」の部分はこれは商品を説明するも,のであるから「王将」の文字部分,特に漢字で記載されていることや,その書体からして,将棋の王将の観念が生じるというべきである。引用各商標からも,同じく将棋の王将の観念が生じると認められる。そうすると,両商標の観念は同一というべきである。


(エ) 小括

 以上によると,A商標と引用各商標とは外観において区別しうるが,称呼については場合によりこれを同じくし,観念は同一であることになる。


 そこで,指定商品を中心とした取引の実情を踏まえて,商品の出所に誤認混同をきたすおそれがあるか否かについて判断する。


(オ) 取引の実情を踏まえた検討

a  上記イで認定した事実によれば,以下の事情を指摘することができる。

(a) A商標は,原告の創始者であるGが昭和42年に開店した中華料理店に由来し,昭和47年ころからは,その後法人化した原告のチェーン店等の看板等に使用されてきたチェーン店等の看板には上記認定のとおり,三重括弧内に「餃子の」の文字を入れたもの等も使用されているが,A商標は多数の店舗で基本的な看板等として使用されてきたということができる。


 そして原告のチェーン店は昭和52年ころには75店,昭和57年には220店余りとなり,出店地域としては関西が中心で,全国的にみれば出店のない地域もある(例えば北海道など)ものの,東海,関東地区等にも進出している。全国の飲食業売上高ランキングでも昭和55年で43位,平成6年度では25位等の上位にランクされている。


(b) 一方,引用各商標は,被告が権利者であるところ,被告も昭和44年に中華料理店を開店し,大阪府を中心に全国各地に店舗を展開し,平成18年8月ころには150店に達している。被告は,店舗に「大阪王将」との看板を掲げるほか,被告D商標等も店舗に表示するなどしている。


 被告は平成5年ころからは生協を通した餃子等の冷凍食品の販売を開始し,平成13年からは市販向けに冷凍餃子の販売もスーパー等において行うようになった。被告はこれら商品の包装には「大阪王将」等を表示するほか,上記のとおり,専門店の餃子である旨の表示をしている。このように,被告による引用商標1,2の使用実態をみると「大阪王将」と結びついて使用され,これは被告が昭和44年から餃子を中心とした中華専門店を営んでいること,中華専門店であることを強調して市場で競合する大手メーカーの既存の冷凍食品(味の素食品等)と差別化することを目的とし,積極的に大阪王将という中華料理店での実績・評価と結びつけるべく使用している。ちなみに,被告は引用商標3を使用していない。


(c) そして,昭和60年12月2日の大阪地方裁判所での和解成立以来,それぞれ中華料理店を営む際,原告は「餃子の王将」と,被告は「大阪王将」と表示することとされている。


b  上記aの事情にかんがみると,共通の指定商品である餃子に関し,その取引者・需要者には,A商標は高い識別力を有し,その外観により原告の商品であることを想記させるものとして引用各商標と識別することは十分に可能というべきである。


c これに対し被告は,原告の店舗の展開が全国的とはいえず,中華料理店の役務に関する実績と異なり冷凍食品に関しての販売実績もないことなどから,原告がA商標を付した餃子を販売した場合には,被告の商品と誤認混同が生じると主張し,それに沿う証拠も提出する(乙158の1ないし4など)が,被告商品は,生協,宅配業者,スーパー等での販売のいずれも大阪王将のブランドであることを正しくアピールしていること,A商標を使用した原告の中華料理店での上記営業実績からすれば,被告の主張は上記判断に影響を及ぼさないというべきである。


(カ)  まとめ

 以上によれば,A商標と引用各商標とは,同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとは認められず,互いに類似する商標であるということはできない。そうすると,A事件の審決には,法4条1項11号にいう類否判断を誤った違法があり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものというべきである。 』

 と判示されました。


 本件の商標の類似の判断を読んでいると、最高裁判決である『平成6(オ)1102 商標権侵害禁止等 商標権 民事訴訟小僧寿し事件」平成9年03月11日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/F72BAB3A2C1D4F9F49256A8500311DC6.pdf)を思い出します。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 なお、B事件である「元祖餃子の王将」については、明日取上げます。


 
追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10148 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「電流駆動型発光装置」平成19年07月25日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070726143623.pdf
●『平成19(ネ)10022 損害賠償等請求控訴事件 著作権 民事訴訟「写真集の著作権」 平成19年07月25日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070725164336.pdf
●『平成18(行ケ)10309 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「電界制御型液晶セル」平成19年07月25日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070725163614.pdf
●『平成18(行ケ)10247 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟シリカ系被膜形成用組成物,シリカ系被膜及びその形成方法,並びにシリカ系被膜を備える電子部品」平成19年07月25日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070725162844.pdf
●『平成19(ワ)7324 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 平成19年07月25日 東京地方裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070726132242.pdf