●昭和48(ネ)2395 特許権 民事仮処分「スパイラル紙管製造機事件」

 本日は、特許法概説にも掲載されている『昭和48(ネ)2395 特許権 民事仮処分「スパイラル紙管製造機事件」昭和50年02月27日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/89EFEF702C37DB4C49256A76002F88D7.pdf)について取上げます。


 本件は、特許法概説に「出願経過参酌の原則」を採用して判断した判決例として紹介されている事案です。
 


 つまり、東京高裁は、

『一 被控訴人が、その主張通りの本件特許を有すること、および控訴人が被控訴人の主張通りの(イ)号製品を製造していることは、当事者間に争いがない。


二 本件仮処分における被保全権利の有無は、(イ)号製品が本件特許の技術的範囲に属するか否かにある。


 そこで、本件特許と(イ)号製品とを対比することとする。本件特許と(イ)号製品とがそれぞれ被控訴人の主張するとおりの構成を有することは、当事者間に争いがない。この両者を比較してみると、本件特許と(イ)号製品は、静止状の巻芯の一側方に駆動プーリーを、該巻芯の他側方に始末二個のプーリーをそれぞれ設け、該始末プーリーを相互の角度を任意に調節することができるようにした二個の腕に支持させ、駆動プーリーと始プーリーとにわたり巻芯外周を一巻する状態において始ベルトを架設し、駆動プーリーと末プーリーとにわたり巻芯外周を始ベルトと逆方向に一巻する状態において末ベルトを架設している点で構成を同じくする。


 しかしながら、

(一)駆動プーリーは、本件特許では一個で基点プーリーと呼称されその位置は不動であるのに対し、(イ)号製品では、二個でその位置は移動できるようになつており、(二)本件特許では始末プーリーは、基点プーリーよりV字状に出る二本の腕に支持されているのに対し、(イ)号製品では始末プーリー4、5と駆動プーリー3、3′は交叉するところで支軸10で枢着されている腕6、7の両端にそれぞれ取付けられ、二本の腕および駆動プーリーと始末プーリーにそれぞれ架設されている二本のベルトはX字状を呈している点で構成を異にしている。したがつて、(イ)号製品は、本件特許の「静止状の巻芯の一側方に一個の基点プーリーを設け、」という構成要件を欠くものといわなければならない。


三 被控訴人は本件特許と(イ)号製品とでは駆動プーリーの数に相違はあるけれども、その作用効果は全く同一であり、前記構成の差異は設計上の微差に過ぎず、両者の置換は極めて容易であるから、(イ)号製品は本件特許の技術的範囲に属すると主張し、その作用効果について二点を挙示している。


 第一の作用効果は巻芯外周を一巻する始ベルトと末ベルトの巻く方向を逆にすることによつて巻芯が曲ることを防止し紙管を常に真直に保持することができるという点にあり、(イ)号製品もこれと同様な構成を有する以上、これと同じ作用効果を有することは明らかである。


 第二の作用効果は両ベルトが巻芯を巻く位置をできるだけ近接させることによつて紙管の糊目が完全に密着し重合部分に間隙の介在しない良質の製品を製造することができるという点にある。しかしながら、成立に争いのない疎甲第二号証によれば、本件特許公報の発明の詳細な説明にはかような作用効果については記載されておらず、むしろ前記効果は両ベルトの巻方を逆方向にすることによつて生ずる旨記載されていることが認められる。したがつて、本件特許に被控訴人の主張する第二の作用効果があると認めるわけにはいかない。


 のみならず、同号証によれば、本件特許の作用効果として以上のほかに次のことが記載されていることが認められる。


 二本のベルトは基点プーリーによつて常に廻転を同調させられるものであるから、一方のベルトがスリツプしても、他方のベルトは基点プーリーによつて常に同調させられ、両ベルトの廻転は常に同一であるから、相互関係上相牽制して進行不能に陥る欠点がない。さらに、両ベルトの不同調に基く製品の一方側へのふくれ上り等を起す欠点もない。


 そして、(イ)号製品においては二本のベルトが別々に設けられた二組のプーリーによつて廻転するのであるから、前記記載の二つの作用効果をいずれも有しないことはいうまでもない。

 被控訴人は前記公報に記載された二つの作用効果は附随的なものであるばかりでなく、そこに記載された作用効果は全くあり得ないものであつて、そのことは公報の記載自体から明白であると主張する。


 しかしながら、前記公報の記載に徴しても明らかなように、被控訴人は本件特許にはかような作用効果があると主張し、これがあるものとして登録が許されたのである。それ故、現実にそのような作用効果が生ずるかどうかは別として、その記載の訂正もないまま自らその作用効果を否定するようなことは、信義則に照して許されないものといわなければならない。


 してみれば、本件特許と(イ)号製品とはその作用効果を異にするから、被控訴人の均等の主張は容認することができない。


四 以上の理由により、(イ)号製品は、本件特許の技術的範囲に属さないから、これに属することを前提とする被控訴人の仮処分申請はその余の点について判断するまでもなく、失当であつて、却下をまぬがれない。よつて、これと判断を異にする原判決を取消すこととし、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第七五六条の二に則り、主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 進歩性なしの中間処理の際、引例との差異を反論するため、作用効果の差異を主張し過ぎると、特許になっても、権利活用の際、色々と制限されるということですね。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸;<気になった記事>

●『米議会で特許法改正に向けた動きが加速』
http://www.yomiuri.co.jp/net/cnet/20070724nt14.htm
●『米議会で特許法改正に向けた動きが加速』
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20353270,00.htm
●『米国特許レポート(5)Microsoft v. AT&T---ソフトウエア特許侵害の抜け穴』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070723/136487/?ref=BPN