●平成18(行ケ)10339 審決取消請求事件「ロールスクリーン」知財高裁

 本日は、昨日に続いて先日出された特許庁の拒絶審決が取消された2件目の『平成18(行ケ)10339 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ロールスクリーン」平成19年07月19日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070720095702.pdf)について取上げます。


 本件では、引用発明において本願発明の作用効果(本件では、「スクリーン巻取り最終段階からさらに巻取速度を減速させるようにする」こと。)を必要とするとは認められず、そうであれば,当業者が,あえて,そのような構成を採用して引用発明に適用することが,設計事項であるとも,容易であるともいえないから,審決の判断は誤りであると判断された点で、進歩性の判断の際の参考になるかと思われます。


 つまり、知財高裁(第4部 石原直樹 裁判長)は、


『(2) 「容易想到判断の誤り」との主張について

ア 相違点1についての審決の判断は,「スクリーン巻取り初期段階から同様の減速を行っても最終段階で充分な巻取筒の減速特性が得られないような特性のブレーキを用いた場合に,言い換えれば,スクリーン巻取り初期段階からブレーキを作動させても,スクリーンの巻取速度が最終段階において加速してしまうような特性のブレーキを用いた場合,スクリーン巻取り最終段階で所望の減速特性が得られるようにするために,スクリーン巻取り最終段階からさらに巻取速度を減速させるようにすべき事は,当業者が必要に応じて適宜採用することができる設計的事項」であるというものである。


 しかるところ,スクリーンの下端には,通常,ウエイトバー等が横向きに固定されているから,スクリーンの巻取速度が巻取り最終段階において加速してしまうような場合には,ウエイトバー等が許容速度以上の速度で収容部材に衝突し,不快音を発したり破損の原因となったりするような不都合が生ずることは,例えば,特公昭56−39453号公報(乙2)に,「巻取最終時に於てスプリングの力によってスクリーン下端に固定した係止杆が巻取ドラムに激突し,これにより取付ビスが弛んだり,巻取ドラムやスクリーンを破損せしめたりし,又不快な騒音が発生したりする等の欠点がある」(2欄6ないし11行)との記載があり,容易に認識し得るところである。


 そうであれば,このような不都合を解消するため,スクリーン巻取り最終段階で,巻取速度を所望の速度とするために減速する手段を採用することは,設計事項に属する事柄というべきであり,他方,上記特公昭56−39453号公報及び実公昭58−21919号公報(乙1)には,それぞれ,スクリーンの巻取り最終段階で回転速度の加速を抑制する構成が記載されているから,本件出願当時,巻取り最終段階で巻取速度を減速するための技術手段も周知であったということができる(本件補正発明に係る特許請求の範囲は,「スクリーン巻取り最終段階からさらに巻取速度を減速する」ための具体的構成を規定するものではないから,減速のため,どのような技術手段を用いることも可能である。)。


イ しかしながら,審決自身も認定するとおり,上記アの不都合や,かかる不都合を解消するため,スクリーン巻取り最終段階で,巻取速度を所望の速度とするために減速する必要などは,いずれも,「スクリーン巻取り初期段階から同様の減速を行っても最終段階で充分な巻取筒の減速特性が得られないような特性のブレーキ・・・言い換えれば,スクリーン巻取り初期段階からブレーキを作動させても,スクリーンの巻取速度が最終段階において加速してしまうような特性のブレーキ」を用いた場合に生ずるものである。


 他方,引用発明のブレーキ(粘性ダンパ)は,審決が認定するとおり,「スクリーン巻取り初期段階から最終段階までの間,一貫して巻取筒の加速を抑圧するように減速させる事によって,ほぼ一定の巻取速度でのスクリーンの巻取りを実現するもの」であり,その「粘性ダンパ23は,スクリーンSの巻終わりに向かって加速される巻取筒Pに対してブレーキとして作用するのであり,スクリーンSの急速な巻上げに起因する巻終わりの衝撃力や騒音等の発生を防止し各部材の損傷や静粛な雰囲気,情緒の破壊を防ぎ,スクリーンSの静粛且つ緩調な巻上げを可能とする」という作用効果を奏するものと認められることも上記(1)のとおりであるから,これをもって,上記「スクリーンの巻取速度が最終段階において加速してしまうような特性のブレーキ」ということができないことは明らかである。


 もっとも,スプリングの蓄勢力に対し,制動力が小さすぎる粘性ダンパを選択したような場合を仮定すれば,引用発明の粘性ダンパであっても,「スクリーン巻取り初期段階から同様の減速を行っても最終段階で充分な巻取筒の減速特性が得られないような特性のブレーキ」に当たるといえないこともない。


 しかしながら,粘性ダンパの制動力の大きさをスプリングの蓄勢力に見合ったものとすることこそ,まさに設計事項であり,引用例1には,そのための手段も記載されている(上記(1)のア(カ))のであるから,本願補正発明に対する公知技術として引用発明を選択しながら,上記のような仮定を設定すること自体,失当といわざるを得ない(もっとも,スクリーンの巻終わりの衝突を防止しつつ,巻上げ時間の短縮を図ることを課題として,あえて,引用発明の粘性ダンパの制動力をスプリングの蓄勢力に対して小さいものとし,巻取り最終段階で巻取速度を減速することも考えられないではないが,そのような技術課題は引用例1に記載も示唆もなく,また,周知であると認めるに足りる証拠もないから,引用発明を前提として採用し得るものではない。)。


 以上のとおり,引用発明において,「スクリーン巻取り最終段階からさらに巻取速度を減速させるようにする」ことが必要となるものとは認められず,そうであれば,当業者が,あえて,そのような構成を採用して引用発明に適用することが,設計事項であるとも,容易であるともいえないから,相違点1についての審決の上記判断は誤りであるといわざるを得ず,原告主張の取消事由は,理由がある。


2 結論

 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があるので,審決は取り消されるべきである。 』

と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。



 なお、本日記の昨年の11/25(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20061115)にでもコメントしたように、昨年の6月末以降に知財高裁から出された下記の判決、すなわち、


●『平成17(行ケ)10514 審決取消請求事件 H18.6.21 「遊戯台」(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060624)』
●『平成17(行ケ)10718 審決取消請求事件 H18.6.22 「適応型自動同調装置」(6/25掲載)』(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060625)』
●『平成17(行ケ)10490 審決取消請求事件 H18.6.29 「紙葉類識別装置の光学検出部」(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060630)』
●『平成17(行ケ)10677 審決取消請求事件 H18.8.31 「メモリ制御装置」(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060904)』
●『平成18(行ケ)10053 審決取消請求事件 H18.09.28「ティッシュペーパー収納箱」(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060928)』
●『平成17(行ケ)10717 審決取消請求事件 H18.10.11「有機発光素子用のカプセル封入材としてのシロキサンおよびシロキサン誘導体」(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20061018)』


 等が出されて以降、最近まで特許庁の進歩性の判断もほとんど支持され、あまり国内では進歩性の判断について目立った判断がなく、進歩性の判断が落ち着いたのかと思っていたのですが、米国でKSR判決が出たこと等も関係して、知財高裁でも何かあったのでしょうか?