●平成18(行ケ)10488 審決取消請求事件「駆動回路」知財高裁

昨日知財高裁から公表された6件(※通りすがり様の指摘により修正。)の判決中、3件も特許庁の審決が取消されています。


 さて、本日は、そのうちの一件の『平成18(行ケ)10488 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「駆動回路」平成19年07月19日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070720145555.pdf)について紹介します。


 本件は、進歩性違反の拒絶審決の取り消しを求めた訴訟で、原告の請求が認容された事案です。


 本件では、当業者が引用発明に周知技術(本件では、PWM調光技術)を適用を妨げる事情があるから、引用例の記載に接した当業者が引用発明に周知技術を適用しようとする動機付けも弱く,組み合わせの困難性があると判断した点で、進歩性の判断の際の参考になる事案かと思います。



 つまり、知財高裁(第4部 田中信義 裁判長)は、


『1 取消事由1(組合せの技術的困難性)について

 ・・・省略・・・

(5) 原告は,当業者が引用発明にPWM調光技術を適用することに想到することは困難であると主張し,被告はこれを争う。

ア 引用例のLEDランプ装置は,第2実施形態のものも,第3実施形態のものも,引用例の第4図に示されるように,商用交流電源を全波整流して得られた波状の電圧のうち,例えば40V以上の期間中の一部の期間にのみ,LEDランプ106に一定の電力を供給するようにしたものである。そして,LEDランプ106に供給される電流は,スイッチング制御回路部322により,定電流となるように制御されている。


 これに対し,PWM調光技術は,発光素子に供給する電流を一定の周期でオン・オフさせるものであり,そのままで直ちに引用例のLEDランプ装置に適用することはできない。


イ 被告は,引用例の第3実施形態の場合は,LEDランプ106に供給する電流をオン・オフさせても問題はないとし,その理由として,引用例における第3実施形態に関する前記(1)エの記載を引用する。この記載によれば,第3実施形態の電源装置部は,スイッチング制御回路部を,通常は電圧帰還型のスイッチとして機能させるが,LEDランプ106が接続された時には電流帰還型のスイッチング電源に切り替わって機能するよう制御するのであるから,PWM調光技術を適用してLEDランプ106に供給する電流をオン・オフした場合,電流がオフの期間中は,電圧帰還型のスイッチとして機能するように切り替わることになり,特段の問題は生じないというのである。


 しかし,前記(1)エの記載は,スイッチング制御回路が通常は電圧帰還型のスイッチとして機能するが,LEDランプ106が接続された時には電流帰還型のスイッチング電源に切り替わって機能するように制御されることを述べているにすぎず,これを実現するための具体的な構成については開示がない。


 また,LEDランプ106を接続した状態で,PWM調光をしようとすると,LEDランプ106を接続したまま,150Hz程度の周期で供給する電流をオン・オフすることになるが,第3実施形態の回路では,下記の回路図(引用例の第6図)のとおり,フライホイールダイオード317(電流を還流させる機能を有する。),インダクタ315(電流の変化に逆らう機能を有する。),コンデンサ620(電荷を蓄積する機能を有する。)が接続されており,応答に時間要素を有する回路構成となっていることが認められる。


 この点からすれば,LEDランプ106に流れる電流が150Hz程度でオン・オフしている状態で,電流がオフの期間中には電圧帰還型に,オンの期間中には電流帰還型に,スイッチング制御回路が速やかに切り替わるとは考えにくい。そうすると,引用例の前記(1)エの記載は,通常の場合は電圧帰還型のスイッチング電源として機能し,LEDのような電流制御型の負荷が接続されている場合は電流帰還型のスイッチング電源として機能するようなっているという以上の内容を有するものではなく,LEDランプ106が接続された状態で,これに供給する電流をオン・オフするような場合に自動的に切り替えることまでは想定したものではないと理解するのが自然である。


(6) 当業者が引用発明にPWM調光技術を適用することが困難であるとして原告が主張する「電源の破壊」等についての技術的説明は必ずしも首肯するに足りる説得力を有するものとは言い難い。


 しかしながら,その趣旨は,引用発明のLEDランプは流れる電流が一定となるように制御されるのに対し,本願発明が採用するPWM調光駆動ではLEDに流れる電流をオン・オフさせる制御を行うのであるから,制御の方法において両者はなじまないという阻害要因を原告が指摘しているものと善解することが可能である。したがって,原告が主張するように「電源の破壊」に至らないとしても,審決が引用発明にPWM調光技術を適用することを妨げる事情について十分な検討をしないまま,当業者が引用発明にPWM調光技術を適用することに困難はないと判断したことは誤りである。


 以上のとおり,発光強度を調節するという一般的要請があり,かつ,その手段としてPWM調光技術が周知であったとしても,引用例の第2又は第3実施形態のLEDランプ装置にPWM調光技術を適用することを妨げる事情があるから,引用例の記載に接した当業者が引用発明にPWM調光技術を適用しようとする動機付けも弱く,相違点に係る構成に容易に想到することができたとはいえない。


2 結論

 以上に検討したところによれば,取消事由1には理由があり,その余の点について判断するまでもなく,審決は違法なものとして取消しを免れない。

 よって,原告の請求は理由があるから審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。

 
 
追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10488 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「駆動回路」
平成19年07月19日 知的財産高等裁判所』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070720145555.pdf
●『平成18(行ケ)10062 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「建物」平成19年07月19日 知的財産高等裁判所』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070720144452.pdf
●『平成18(行ケ)10264 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「流体イオン化装置」平成19年07月19日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070720101251.pdf
●『平成18(行ケ)10339 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ロールスクリーン」平成19年07月19日 知的財産高等裁判所』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070720095702.pdf
●『平成18(行ケ)10173 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「対話型表示システム」平成19年07月19日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070720094333.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『米国特許法改正案、米下院司法委員会で承認』
http://www.yomiuri.co.jp/net/cnet/20070720nt06.htm
●『ベライゾン・ワイヤレス、米ブロードコムへの特許料支払いで合意』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070720-00000704-reu-bus_all
●『日立など4社、ICタグ利用した著作物のコピー管理システム開発
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070719-00000012-nkn-ind
●『意匠審査基準(平成18年改正意匠法対応)』(特許庁
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/h18_isyou_kijun.htm
●『意匠審査基準(平成10年及び平成11年改正意匠法対応)』(特許庁
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/isyou_kijun.htm
●『産業財産権の現状と課題〜技術経営力の強化によるイノベーションの促進〜<特許行政年次報告書2007年版>』(特許庁
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2007_index.htm