●平成17(行ケ)10857 審決取消請求事件 「工具保持具」知財高裁

本日は、『平成17(行ケ)10857 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「工具保持具」平成19年05月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070531112432.pdf)について紹介します。


 本件は、無効審決を取り消して再度審判に差し戻した場合、同一の事実に基づく限り(事実関係の変更がない限り)、再度、「無効審判請求は成立しない」と審決することは許されないと判示した事案です。直接引用していませんが、特許法167条の一時不再理効と同旨であると思います。


 つまり、知財高裁(第3部 飯村敏明 裁判長)は、

『(1) なお,本件の審決について,補足して述べる。

ア 本件は,容易想到であるとはいえない(進歩性がある)との判断をした第1次審決に対して,容易想到であるとはいえないとの審決の判断に誤り,がある旨を理由中で判示して第1次審決を取り消した前判決(確定判決)を受けて,再度無効審判手続を行った上で,進歩性がない(容易想到であるといえる)と判断して,特許を無効とした審決に対する取消訴訟である。


 ところで,特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において,審決を取り消す旨の判決が確定したときは,審判官は,特許法181条5項の規定に基づき,当該審判事件について更に審理をし,審決をすることになるが再度の審理,及び審判には,行政事件訴訟法33条1項の規定により取消判決(確定判決)の効力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断の一般にわたるものであるから,審判官は,当事者が取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断についてこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返したり,あるいは同様の主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではない。また,取消判決の拘束力に従ってした再度の審決は,その限りにおいて違法を来すことはない。


 したがって,当該発明が,特定の引用例から容易に発明をすることができたとの理由で無効審決がされた場合の取消訴訟において,本件発明が特定の引用例から容易に発明をすることはできなかったと判示して,上記審決を取り消した場合には,拘束力は,取消判決(確定判決)が示した判決理由中の判断について生ずるのであるから,再度の審判手続において,当事者において,当該発明は,別の引用例から容易に発明をすることができたと主張,立証することが許されるし,審決においてその旨を判断することも許される。このように判断しても,取消判決(確定判決)の拘束力に違反することはない。


  しかし,当該発明が,特定の引用例から容易に発明をすることができたとはいえないとの理由で「無効審判請求は成り立たない」とした審決がされた場合の取消訴訟において,本件発明が特定の引用例から容易に発明をすることができたと判示して,上記審決を取り消した場合には,再度の審判手続において同一の事実に基づく限り(事実関係の変更がない限り),再度,「無効審判請求は成立しない」とすることは審決取消判決の拘束力に反することになり許されない。すなわち,同一事実に基づく限り(事実関係の変更がない限り),取消判決(確定判決)の結論に拘束されることを意味する。行政事件訴訟法33条1項が設けられた趣旨は,司法審査によって,事実の存否及び法律判断が示された事項については,同一争点が,蒸し返され,裁判所と行政庁との間を往復することによっていつまでも紛争が終了しない事態を防止し,できる限りすみやかに紛争解決を図るためのものであることは明らかである。


イ ところで,本件についてこれを見ると,被告のした無効審判請求に対して「本件審判の請求は成り立たない」との判断をした第1次審決について,前判決は,本件発明と特表平3−500511公報(本訴における甲1−1)を主引用例として対比し,その相違点(本件発明では引込み具及び引込み具係合部が引具及びプルスタッドであって「主軸側の引具でシャンク部を引き込むためにシャンク部の先端に設けられたプルスタッド」を備えている点に係る相違点)は,同公報及び「日本工作機械工業規格プルスタッド(本訴における甲5)から当業者が容易に想到できない。」とした第1次審決の判断には誤りがある(容易に想到することができる)と判示して,同審決を取り消した。


 そうすると,本件においては,再度審理を開始した審判手続において,前判決の拘束力に従った判断をすることにより,迅速な解決を図ることができたはずであり,当事者に対しても,前判決の拘束力から離れた主張,立証をすることを禁じる指揮をすることもできたはずである。しかるに,再度の審判手続及び審決においては,拘束力の生じた前判決が基礎とした本件発明と引用例との対比とは,全く異なる引用例に基づいた対比についての審理を実施し,これに基づく判断をすることとなった。このような審判及び審決のあり方は,行政事件訴訟法33条1項が設けられた趣旨に反するものであり,速やかな紛争解決を妨げるものであるといえよう。


(2) 以上検討したとおり,審決に,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,これを取り消すべき誤りは見当たらない。よって,主文のとおり判決する。   』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成17(行ケ)10766 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「アスファル
ト混合物」平成19年07月19日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070719153452.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『米国特許法改正案、米下院司法委員会で承認』
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20353041,00.htm
●『米下院委、特許改革法案を可決=先願主義に移行へ』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070719-00000029-jij-int
●『QUALCOMMに見る「標準化と特許」』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20070719/136239/
●『【中国】Motorola が控訴撤回、携帯の特許侵害で敗訴確定』
http://japan.internet.com/allnet/20070719/27.html