●平成18(行ケ)10552 審決取消請求事件 特許権「自然蓄熱母体によ

  本日は、『平成18(行ケ)10552 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「自然蓄熱母体による直接温調と給気システム」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070702102105.pdf)について紹介します。


  本件は、拒絶審決の取消を求めた訴訟で、原告の請求が棄却された判決です。


 本件では、特許要件の審査において本願補正発明の用語の意義につき明細書の記載を参酌せずに判断している点等が参考になるかと思います。この点、引用はしていないものの、特許要件を審査する際の出願に係る発明の要旨は、原則として明細書の記載を参酌せずに判断することを示したリパーゼ最高裁判決の原則とおりであると思います。


 つまり、知材高裁(第2部 中野哲弘 裁判長)は、

『(1)本願補正発明の「温調したい空間」の意義につき


 本件補正後の「特許請求の範囲」請求項1の記載によると,そこに記載されている「温調したい空間」は,第1の輸送管,主動均熱器及び第2の輸送管を通して蓄熱伝送体を供給することによって「温度調節したい空間」を意味するものと解することができる。そして,上記請求項1には,「温度調節したい空間」について,それを限定する記載はないから,それより限定して解釈することはできない。


 本件補正後の本願明細書(甲19,21)の【実施例】には,「蓄熱伝送体103を供給される室内においては,良好な温調及び空気が新鮮である外,正圧は窓に付着するごみを減らし,汚れた空気が流れ込まないようになる。」との記載(段落【0010】),「このシステムの末端の出力は,周囲の空間と環境に対して正圧を形成するので,それは温調と新鮮な空気を供給する外,更に次の2つの機能がある。(A)室内から室外に対して正圧を形成し,新鮮な空気が洩れ出すので,外部の塵埃及び汚染は室内に入り難くなる。」との記載(段落【0015】)及び「…開放方式を採用し,新鮮な空気は蓄熱伝送体を兼ねているので,同時に新鮮な空気を供給することができ,それは人体の健康に有益であり,室外に対して正圧を形成し,それをもって汚染された空気の室内への進入を減らし,団地全体または都市に対し,総体の正圧は汚染空気の対外拡散を速くする。」との記載(段落【0017】)があり,また,【発明の効果】には,「…供給される室内に対し,温調できると共に空気が新鮮である外,正圧は窓に付着するごみを減らし,汚れ空気が流れ込まないようにする。」との記載(段落【0018】)がある。これらの記載は,本願補正発明の「温度調節したい空間」が「室内」であることを想定した記載であるということができるが,これに対応する記載は「特許請求の範囲」請求項1にはないから,本願補正発明の「温度調節したい空間」が「室内」に限られると解することはできない。


 また,原告は,本件補正後の「特許請求の範囲」請求項1には「…冬季時,前記循環システムは,前記温調したい空間外の周囲の大気から加温された新鮮な空気を温調したい空間に供給し,夏季時,前記循環システムは,前記温調したい空間外の周囲の大気から冷却された新鮮な空気を温調したい空間に供給する」と記載されており,この記載からは,冬季時と夏季時とで「温調したい空間」は同じ空間を指すものと読むのが自然であると主張するが,「特許請求の範囲」請求項1の上記記載から「温調したい空間」は当然に夏季と冬季で同じであると解することはできないし,その他,「特許請求の範囲」請求項1に「温調したい空間」は夏季と冬季で同じであると解すべき記載があるとは認められない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。


 ・・・省略・・・


(5) 以上のとおりであるから,本願補正発明は,引用発明と周知技術に基づいて容易に発明することができたとの審決の判断に誤りはない。

 原告は,審決の進歩性の判断手法は,他国の審査手法とかけ離れているとか,本願の対応外国特許は,ほぼ同じ内容又はより広い内容で,他国で成立していると主張する。

 しかし,各国で特許が成立するかどうかは,各国に出願された具体的な特許願の内容に基づいて,各国の特許法に従い独自に判断されるべきものであるところ,上記のとおり,原告から日本国特許庁に出願された発明の内容(補正明細書を含む特許願)に基づいて,我が国の特許法に従って判断すると,本願補正発明は,引用発明と周知技術に基づいて容易に発明することができたと判断されるのであって,原告の上記主張は,この判断を何ら左右するものではない。


(6) 原告は,甲14〜16は,審決で初めて引用された文献であり,これらに対して,審判の審理で出願人に反論する機会を与えられていないのは,出願人に過度に不利益となっていると主張する。

 しかし,これらは,審決において周知技術として考慮されたものであるところ,上記認定によると,これらが開示している技術は本願出願当時周知技術であったということができるから,審決で初めて引用されたとしても,そのことをもって手続違背があるということはできない。また,本判決で認定に供している甲5は,審決では引用されていないが,これも本願出願当時の周知技術を示すものとして認定に供しているから,審決で判断されていない事項について判断したものではない(最高裁昭和55年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号80頁参照)。


(7) よって,原告主張の取消事由3も理由がない。


5 結論

 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がないことになる。

 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10445 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟半導体装置及びその製造方法並びに半導体装置用絶縁基板」平成19年07月11日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070711161715.pdf
●『平成18(行ケ)10165 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟「多重音声通信やデータ通信を単一又は複数チャンネルにより同時に行うための無線ディジタル加入者電話システム」平成19年07月11日 知的財産高等裁判所』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070711160818.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『製薬協が薬価改革案、特許期間中は薬価据え置き』
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20070711AT1D1108J11072007.html
●『【中国】第三世代携帯の TD 特許巡り、中米間の争いに熱』
http://japan.internet.com/busnews/20070711/27.html
●『DJ-クアルコム、中国3G技術めぐる合意はまだ』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070711-00000014-dwj-biz
●『EricssonとSamsung、携帯通信技術でクロスライセンス契約』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070710-00000031-zdn_n-sci