●平成19(行ケ)10084 審決取消請求事件「ココロ KOKORO」

  本日は、『平成19(行ケ)10084 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「ココロ KOKORO」平成19年06月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070628105037.pdf)について取上げます。


 本件は、商標法50条1項による不使用取消審判請求の棄却審決の取消を求めた審決取消訴訟であり、原告の請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法50条1項による不使用取消審判請求の際の指定商品が不明確であっため、その点で手続を進行させた審判のあり方に妥当を欠く点がある、と指摘された点で、参考になるかと思います。



 つまり、知財高裁(第3部 飯村敏明 裁判長)は、

『(1) まず,本件審判手続に関して,以下の点を指摘する。

ア 本件審判手続において,原告(審判請求人)は,「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置その他の測定機械器具及びこれらに類似する商品」につき,商標登録の取消しを求めた。これに対し,被告(審判被請求人)は,原告が取消しを求めている指定商品の範囲が不明確であり,不適法な審判請求であるから,許されないものであると主張した。審決は,「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置」が具体的にどのような商品であるかを把握できなかったとしても,審判請求人が取消しを求めているのは,該商品を含む測定機械器具であり,「測定機械器具」自体は,平成3年10月31日通商産業省令第70号をもって改正された商標法施行規則の前後を問わず,その別表中に掲載されている商品表示であるから,請求人が取消を求めている商品の範囲が不明確であるとはいえないとして,審理を進めた。


イ しかし,上記の審判手続の進行には,以下のとおり,妥当を欠く点がある。

 商標法50条は,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者(以下,単に「商標権者」という。)が,各指定商品又は指定役務(以下,単に「指定商品」という。)についての登録商標を使用していない場合に,その指定商品に係る登録商標の取消審判を請求することができると規定し,この場合,審判請求登録前3年間,商標権者がその請求に係る指定商品のいずれかについての登録商標の使用をしていることが証明されない限り,その指定商品の商標登録が取り消される旨を規定する。


 ところで,取消審判請求の審理の対象たる指定商品の範囲は,設定登録において表示された指定商品の記載に基づいて決められるのではなく,審判請求人が取消しを求めた審判請求書の「請求の趣旨」の記載に基づいて決められる。そして,審判請求書の「請求の趣旨」は,?審判における審理の対象・範囲を画し,?審判被請求人における防御の要否の判断・防御の準備の機会を保障し,?取消審決が確定した場合における登録商標の効力の及ぶ指定商品の範囲を決定づけるという意味で重要なものであるから,「請求の趣旨」の記載は,客観的で明確なものであることを要するのは当然である。


 本件についてこれを見ると,審判請求書の「請求の趣旨」には,原告において取消しを求めた指定商品として「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置その他の測定機械器具及びこれらに類似する商品」が記載されていると推認されるが,同記載は,?「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置」がどのような商品を指すか,?「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置」と「その他の測定機械器具」とがいかなる関係に立つのか(前者が後者に包摂されるのか,前者が例示的意味を有するのか,前者は後者の例示であるとした場合に,後者の範囲に何らかの限定を加える趣旨を含むのか否か等),?「これらに類似する商品」の意味(「これら」が何を指すのか,類似する商品は何を意味するのか。)等の点で,著しく不明確であるといえる。


 このような場合に,審判において,何らの措置を採ることなく手続を行うことは,前記の??審理の対象の画定,??審判被請求人の防御機会の保障,??取消審決の効力の及ぶ範囲の確定等の点において,当事者及び第三者を含め,混乱を招くおそれがある。特に,仮に取消審決がされて確定した場合には,商標登録に係る指定商品から「・・・これらに類似する商品」が除外されることになるがこのような不明確な審決が,効力を生ずる事態を許すことは,いたずらに混乱を招くものというべきである


 したがって,商標登録の取消審判請求の審理する審判体としては,釈明を求める,補正の可否を検討する等の適宜の措置を採るべきであり,そのような措置を採ることなく,漫然と手続を進行させた審判のあり方には妥当を欠く点があったというべきである。


 また,本件審判手続における立証命題は,上記の「原告の請求に係る指定商品のいずれかについて登録商標が使用がされているか」であるから,必然的に,被告とATRとの間で締結した契約の詳細な内容が重要な争点となるところ,本件審判手続において,この点に関する主張及び証拠の整理が十分にされていない点においても,妥当を欠く点があったというべきである。


 もっとも,上記に指摘した点は,審判の対象に関する原告の特定の方法に原因があったものであり,原告の請求に係る登録取消審判請求を不成立とした審決の結論を左右するものとはなり得ない。


(2) 以上の次第であるから,原告の請求は理由がない。その他,原告は縷々主張するがいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。



 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ワ)10470 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟「めしや食堂」平成19年07月03日 大阪地方裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070704153844.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『米司法省、特許改革法案に関し上院司法委員長に書簡を提出』(JETRO
http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070630.pdf