●平成18(行ケ)10442 審決取消請求事件「受精能を変化させる方法」

  本日は、『平成18(行ケ)10442 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「受精能を変化させる方法」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070629175601.pdf)についてご紹介します。


 本件は、改正前の特許法36条4項違反の拒絶審決の取消を求めた訴訟で、審決が支持され、原告の請求が棄却された事案です。


 つまり、知財高裁(第4部 田中信義 裁判長)は、


『1 取消事由2(明細書の記載要件判断の誤り)について
 (1) 本願の請求項1には,「黄体形成ホルモンの生物学的活性を減少させる結合剤を哺乳動物に投与することを特徴とする受精能刺激剤」との記載があり,これによれば,本願発明1は有効成分である黄体形成ホルモンの生物学的活性を減少させる結合剤を受精能刺激の効果を得る目的で用いる用途発明であると認められる。


特許法36条4項は,「発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない」と定めている。この要件を医薬についての用途発明についてみると,一般に,物質名,化学構造だけからその有用性を予測することは困難であり,明細書に有効量,投与方法,製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても,それだけでは当業者は当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから,明細書に薬理データ又はそれと同視することができる程度の記載をしてその用途の有用性を裏付ける必要があると解される。したがって,このような薬理データ等の裏付けを欠く発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に違反するものである。


(2) 原告は,前記第3の2(1)ないし(3)の記載が上記の裏付けに当たると主張する。
原告の主張する上記(1)の「たとえばB105は有効hLHレベルを約4倍減少させるのに対し,B110は有効hLHレベルを約2倍減少させる。LHレベルの低下はFSHレベルを上昇させることができる。FSHレベルが上昇すると,これらは濾胞の発達およびエストロゲンの産生をもたらす。これらレベルが適する濾胞の発達の特徴である生理学的濃度に達すると,これらは多量のFSHの分泌を阻害する。」においては,「約4倍」,「約2倍」などとおおまかな数値は示されているものの,その数値の性格からみて何らかの試験によって得られたデータであるとは解されず,薬理データであるということはできない。

上記(2)には,「10μg〜10mgの高親和性抗体(すなわちKa>5×107 M −1)の投与は,多卵胞性卵巣病を有する女性にて受精能を誘発するのに充分である。」との記載がある。これは,LH活性を減少させる特定の結合剤(高親和性抗−LH抗体(すなわちKa>5×10−7 M −1))を定量(10μg〜10mg)使用して実際に受精能刺激が得られるのかを記載したものではあるが,その得られた受精能刺激の程度が定量的に示されていない上,その投与対象は本願の請求項1が対象とする哺乳動物の一部である多卵胞性卵巣病の患者に限ったものである。

 さらに,上記(3)には,「FSH分泌における一時的かつ自律性上昇をもたらすLHに対する非中和性抗体を10μg〜10mg投与すれば,ゴナドトロピンでの処置よりも低い刺激過剰の危険性にて排卵を誘発する。この作用は抗体が体謝されあるいは循環から除去されてその効果が投与の1〜2週間以内に喪失するので一時的である。」との記載がある。しかし,上記記載では投与量こそ定量的に表記されているものの,その効果に関しては,危険性がどの程度低いのか,排卵誘発がどの程度のものであるのかは定量的に示されていないばかりか,使用する特定の結合剤(非中和性抗体)が具体的にどのようなものであるかについても記載されていない。

 以上のとおり,原告主張の上記記載(1)ないし(3)は,本願明細書においては定量的な記載がされた箇所であるということができるとしても,これらの記載だけでは,LH活性を減少させる特定の結合剤を,具体的にどれだけの量で使用すれば,LH活性の減少量がどれだけになり,実際にどの程度の受精能刺激が得られるのかを示した具体的なデータであるということはできない。また,多卵胞性卵巣病を有する女性に適用した実施例をもってしても,哺乳動物における受精能刺激剤との限定以上に対象を限定するものではない本願発明1について,一定の受精能刺激効果が得られることが理解できるように記載されているということもできない。


 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明をもってしては,受精能の刺激される対象(動物)を特定しない本願発明1において,「受精能刺激」の効果が得られることの裏付けがあるとはいえず,特許法36条4項の要件を満たしているとはいえない。


2 結論

 以上に検討したところによれば,審決取消事由2には理由がなく,本願明細書の発明の詳細な説明が特許法36条4項の要件を満たしていないから,その余の点について判断するまでもなく,審決の結論は相当であるから,原告の請求には理由がない。


 よって,主文のとおり判決する。   』

 
 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10314 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟発光ダイオードモジュールおよび発光ダイオード光源」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070702111018.pdf
●『平成18(行ケ)10402 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ビデオ装置及び映像装置」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070702103056.pdf
●『平成18(行ケ)10379 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟「ビデオテープ記録再生装置」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070702102604.pdf
●『平成18(行ケ)10552 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「自然蓄熱母体による直接温調と給気システム」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070702102105.pdf
●『平成19(行ケ)10019 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「歯車及びその歯車の製造方法」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070702100928.pdf
●『平成18(行ケ)10545 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「TOTALCARE トータルケア」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070702100237.pdf