●平成18(行ケ)10555 審決取消請求事件「MINI MAGLITEの立体商標」

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 さて、本日は、『平成18(行ケ)10555 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「MINI MAGLITE立体商標」平成19年06月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070628103140.pdf)について取上げます。


 本件は、MINI MAGLITEマグライト)の立体商標について商標法3条1項3号の拒絶審決の取消を求めた訴訟で、同法3条2項の使用の結果の識別が認定されて拒絶審決が取消された事案です。


 つまり,知財高裁は、

『1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について

(1) 立体商標における商品の形状
立体商標は,商品若しくは商品の包装又は役務の提供に供する物自体の形状をも対象とする。
 ところで,商標法は,3条1項3号で「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む,価格若しくは。)生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができない旨を,同条2項で「前項3号から5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨を,4条1項18号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を,26条1項5号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」に対しては,商標権の効力は及ばない旨を,それぞれ規定している。

 このように,商標法は,商品等の立体形状の登録の適格性について,平面的に表示される標章における一般的な原則を変更するものではないが,同法4条1項18号において,商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標については,登録を受けられないものとし,同法3条2項の適用を排除していること等に照らすと,商品等の立体形状のうち,その機能を確保するために不可欠な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないとしているものと理解される。

 そうすると,商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない形状については,商品等の機能を効果的に発揮させ,商品等の美観を追求する目的により選択される形状であっても,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものであれば,立体商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく(もっとも,以下のイで述べるように,識別機能が肯定されるためには厳格な基準を充たす必要があることはいうまでもない。),また,出願に係る立体商標を使用した結果,その形状が自他商品識別力を獲得することになれば,商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきである。

イ 以上を前提として,まず,立体商標における商品等の形状が商標法3条1項3号に該当するか否かについて考察する。

(ア) 商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美観を際だたせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえ
る。
  そうすると,商品の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるものであり,そのような目的のために採用されると認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するのが相当である。
(イ) また,商品等の具体的形状は,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるが,一方で,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,通常は,ある程度の選択の幅があるといえる。しかし,同種の商品等について,機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状として,同号に該当するものというべきである。けだし,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないからである。

(ウ) さらに,需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには,商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば,商標法3条1項3号に該当するというべきである。けだし,商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に,商品等の機能の観点からは発明ないし考案として,商品等の美観の観点からは意匠として,それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば,その限りおいて独占権が付与されることがあり得るが,これらの法の保護の対象になり得る形状について,商標権によって保護を与えることは,商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有する点を踏まえると,商品等の形状について,特許法,意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり,自由競争の不当な制限に当たり公益に反するからである。

(2) 本願商標の商標法3条1項3号該当性
ア 本願商標は,別紙「商標目録」のとおりの構成よりなるものである。
 これによれば,本願商標に係る形状は,次のような特徴を有している。
A ライト頭部は,円筒形のフェイスキャップをその上部に有すること。
B ライト頭部は,上記A記載のフェイスキャップとフェイスキャップ直径を最大径部とし,胴体部分と接続される側を最小径部とする放物体から成ること。
C 上記B記載の放物体部分のうち,フェイスキャップと接する位置の周縁には,レンズに対して垂直方向の細かい直線の溝模様があること。
D ライト胴体部は円筒形をなし,その胴体部分の中央部分周縁には,斜め方向に交差した細かい平行線の帯状の溝模様があり,その底部にはテールキャップが嵌め込まれ,テールキャップ底部がほぼ半円形部分につき両側から穿たれて中央残部に1つの穴が設けられていること。
E ライト頭部の長さの胴体部の長さに対する比率がおおむね0.4に設定されていること,ライト頭部最大径の胴体部直径に対する割合がおおむね1.4に設定されていること,及び上記比率の設定によりライト頭部から胴体部にかけて,全体としてすらっとした輪郭が構成されていること。
イ 本願商標の上記形状についていえば,ライト頭部がやや大きめである点は光度の大きさに関連し,放物体部分のフェイスキャップと接する部分の溝模様は光度の調整のしやすさに,胴体部の中央部分における溝模様は握り易さにそれぞれ資するものであり,また,テールキャップ底部に設けられた1つの穴はストラップ等を取り付けるためのものである。そして,ライト頭部から胴体部にかけての全体としてのすらっとした輪郭は美観を与えるために採用されたものということができる。これらによれば,上記の各特徴は,いずれも商品等の機能又は美観に資することを目的とするものというべきであり,需要者において予測可能な範囲の,懐中電灯についての特徴であるといえる。そうすると,本願商標の形状は,いまだ懐中電灯の基本的な機能,美観を発揮させるために必要な形状の範囲内であって,懐中電灯の機能性と美観を兼ね備えたものと評価することができるものの,これを初めて見た需要者において当該形状をもって商品の出所を表示する標識と認識し得るものとはいえない。

(3) 以上検討したところによれば,本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するものというべきである。


2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について

(1) 立体商標における使用による識別力の獲得

 前記のとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として商標法3条1項3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定している(商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標を除く。同法4条1項18号。)

 商品等の立体形状よりなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。

 そして,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要する。もっとも,商品等は,その販売等に当たって,その出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であることに照らせば,使用に係る立体形状に,これらが付されていたという事情のみによって直ちに使用による識別力の獲得を否定することは適切ではなく,使用に係る商標ないし商品等の形状に付されていた名称・標章について,その外観,大きさ,付されていた位置,周知・著名性の程度等の点を考慮し,当該名称・標章が付されていたとしてもなお,立体形状が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったか等を勘案した上で,立体形状が独立して自他商品識別機能を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。


(2) 本願商標の商標法3条2項該当性
ア そこで,上記の観点から,本願商標が使用により自他商品識別機能を備えるに至っているかどうかを判断する。後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。


 ・・・省略・・・


イ 以上認定した事実を総合すれば,次の点を指摘することができる。

(ア) 本件商品は,本願商標と同一の形状を有し,その指定商品に属するものであるところ,原告により1984年(昭和59年)に米国において発売されて以来,形状を変更せず,一貫して同一の形状を備えていること。

(イ) 我が国においては,本件商品は,1986年(昭和61年)に本格的な輸入販売が開始された後,三井物産を総代理店として販売が拡大され,2000年3月期には売上高5億7700万円,本数にして60万7000本,2001年3月期には売上高5億0800万円,本数にして55万1000本に達し,2007年(平成19年)2月現在における販売小売店舗数は約2700店舗に及んでいること。

(ウ) 本件商品は,1985年(昭和60年)から雑誌記事において頻繁に掲載されるようになり,新聞雑誌等を中心に多額の広告費用を掛けて多数の広告が掲載されていること。

(エ) 本件商品は,その形状が,従来の懐中電灯に見られないものとしてデザイン性を高く評価され,我が国やドイツなどにおいてデザイン賞を受賞しているとともに,米国及びドイツの美術館の永久コレクションとして保存されているものであり,需要者の間でも,その堅牢性,耐久性と並んでデザイン性が関心を集めていること。

(オ) 本件商品の広告宣伝においても,堅牢性,耐久性と共にデザイン性が強調されており,本件商品の写真のみを掲げた広告など,本件商品の形状を需要者に印象づける広告宣伝が行われていること。

(カ) 原告は,我が国の内外において,本件商品に類似した形状の他社の懐中電灯に対して販売の差止めを求める法的措置を採っており,その結果,本件商品と類似する形状の商品は市場において販売されていないこと。

(キ) 本件商品には,フェイスキャップの周囲に,登録商標記号(○にR記号)が極めて小さく右肩部分に添えられた右側頭部様図形,同様に登録商標記号が極めて小さく右肩部分に添えられた「MINI MAGLITE」の英文字及びそれよりも小さな(原告の名称)の「MAG INSTRUMENT」英文字が記載されているが,これらの記載がされている部分は,本件商品全体から見ると小さな部分であり,また,文字自体も細線により刻まれているものであって,目立つものではないこと。

(ク) 原告の主力商品は本件商品を中心とするマグライトシリーズの懐中電灯であり,また,原告の名称である「MAG INSTRUMENT」は当該懐中電灯との関連を示すだけの内容であって,当該名称自体に独立した周知著名性は認められないこと。


ウ 上記に挙げた点に照らせば,本件商品については,昭和59年(国内では昭和61年)に発売が開始されて以来,一貫して同一の形状を維持しており,長期間にわたって,そのデザインの優秀性を強調する大規模な広告宣伝を行い,多数の商品が販売された結果,需要者において商品の形状を他社製品と区別する指標として認識するに至っているものと認めるのが相当である。本件商品に「MINI MAGLITE」及び「MAG INSTRUMENT」の英文字が付されていることは,本件商品に当該英文字の付されている前記認定の態様に照らせば,本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認める上での妨げとなるものとはいえない(なお,本願商標に係る形状が,商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標といえないことはいうまでもない。)。
ライト頭部がやや大きめで胴また,被告の提出に係る乙号各証には,体部分が円筒形の形状を有する他社の懐中電灯が複数掲載されているものの,前記1(2)ア記載のA〜Eの特徴をすべて備えた懐中電灯は存在しない。

 そうすると,本願商標については,使用により自他商品識別機能を獲得したものというべきであるから,商標法3条2項により商標登録を受けることができるものと解すべきである。

(3) 以上検討したところによれば,本願商標は,商標法3条2項により商標登録を受けることができるものであるから,本願商標を同項に該当しないと判断して商標登録を受けることができないとした審決の判断には誤りがある。


3 結論
 以上によれば,審決の判断には誤りがあり,この誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから,審決は違法なものとして取消しを免れない。
 よって,主文のとおり判決する。   』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10529 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「Love passport」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070702095302.pdf
●『平成19(ネ)10014 商号使用差止等控訴事件 不正競争 行政訴訟杏林製薬」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070629180330.pdf
●『平成18(行ケ)10442 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「受精能を変化させる方法」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070629175601.pdf
●『平成18(行ケ)10338 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「長尺物のパッケージ」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070629174111.pdf
●『平成18(行ケ)10208 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「カラーセーフブリーチ増強剤,それを用いた組成物および洗濯方法」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070629173237.pdf
●『平成18(行ケ)10076 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「映像信号受信装置」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070629171754.pdf
●『平成18(行ケ)10002 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟「薬剤包装装置」平成19年06月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070629165027.pdf