●平成6(オ)1083 均等侵害「ボールスプライン事件」最高裁等

  本日は、『平成6(オ)1083 特許権侵害差止等 特許権 民事訴訟「ボールスプライン事件」平成10年02月24日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/D1A36F798EA8CC1449256A8500311D97.pdf)と、『昭和53(行ツ)140 特許権 行政訴訟 昭和56年03月13日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314101908.pdf)との2件について取上げます。


 今日取上げる、1件目は、特許権の均等侵害の5要件を判示した最高裁判決です。


 2件目は、分割出願をする際、原出願の特許請求の範囲に記載された発明だけではなく、明細書に記載された発明についても分割できることを判示した最高裁判決です。

 


 つまり、まず、1件目の均等侵害につき、最高裁判所は、


『1 特許権侵害訴訟において、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)が特許発明の技術的範囲に属するかどうかを判断するに当たっては、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲を確定しなければならず(特許法七〇条一項参照)、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合には、右対象製品等は、特許発明の技術的範囲に属するということはできない。


 しかし、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、

(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、
(2)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(3)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、
(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない


ときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。


 ただし、(一)特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となるのであって、(二)このような点を考慮すると、特許発明の実質的価値は第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当であり、(三)他方、特許発明の特許出願時において公知であった技術及び当業者がこれから右出願時に容易に推考することができた技術については、そもそも何人も特許を受けることができなかったはずのものであるから(特許法二九条参照)、特許発明の技術的範囲に属するものということができず、(四)また、特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど、特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されないからである。


 2 これを本件についてみると、原審は、本件明細書の特許請求の範囲の記載のうち構成要件A及びBにおいて上告人製品と一致しない部分があるとしながら、構成要件Bの保持器の構成について本件発明と上告人製品との間に置換可能性及び置換容易性が認められるなどの理由により、上告人製品は本件発明の技術的範囲に属すると判断した。


 ・・・省略・・・


 本件では、前記のとおり、本件明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に上告人製品と異なる部分が存するところ、原審は、専ら右部分と上告人製品の構成との間に置換可能性及び置換容易性が認められるかどうかという点について検討するのみであって、上告人製品と本件発明の特許出願時における公知技術との間の関係について何ら検討することなく、直ちに上告人製品が本件明細書の特許請求の範囲に記載された構成と均等であり、本件発明の技術的範囲に属すると判断したものである。原審の右判断は、置換可能性、置換容易性等の均等のその余の要件についての判断の当否を検討するまでもなく、特許法の解釈適用を誤ったものというほかはない。

 四 右のとおり、原審の判断には、法令の解釈適用の誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法があるものというべきであって、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

 論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、前に判示した点について更に審理を尽くさせる必要があるので、これを原審に差し戻すこととする。よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。



 また、2件目の分割出願できる範囲につき、最高裁判所は、

『 ・・・特許出願人は、二以上の発明を包含するもとの出願につき。その一部を分割して一又は二以上の新たな出願とすることができ、この場合、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなされるものであるが、右の二以上の発明を包含する特許出願にあたるかどうかについては、これをもつぱら願書に添付された明細書中の特許請求の範囲における記載に限定して決すべきものか、それ以外の発明の詳細な説明ないし願書添付図面の記載内容をも含めて決すべきものかについては、右の法文上からは明らかでない。


 しかしながら、特許制度の趣旨が、産業政策上の見地から、自己の工業上の発明を特特許出願の方法で公開することにより社会における工業技術の豊富化に寄与した発明者に対し、公開の代償として、第三者との間の利害の適正な調和をはかりつつ発明を一定期間独占的、排他的に実施する権利を付与してこれを保護しようとするにあり、また、前記分割出願の制度を設けた趣旨が、特許法のとる一発明一出願主義のもとにおいて、一出願により二以上の発明につき特許出願をした出願人に対し、右出願を分割するという方法により各発明につきそれぞれもとの出願の時に遡つて出願がされたものとみなして特許を受けさせる途を開いた点にあることにかんがみ、かつ、他にこれと異なる解釈を施すことを余儀なくさせるような特段の規定もみあたらないことを考慮するときは、もとの出願から分割して新たな出願とすることができる発明は、もとの出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載されたものに限られず、その要旨とする技術的事項のすべてがその発明の属する技術分野における通常の技術的知識を有する者においてこれを正確に理解し、かつ、容易に実施することができる程度に記載されている場合には、右明細書の発明の詳細な説明ないし右願書に添付した図面に記載されているものであつても差し支えない、と解するのが相当である。


 次に、特許法旧四四条二項は、前記特許出願の分割は、特許出願について査定又は審決が確定した後は、することができないと定めており、前記のように、特許出願により自己の発明内容を公開した出願人に対しては、第三者に対して不当に不測の損害を与えるおそれのない限り、できるだけこれらの発明について特許権を取得する機会を与えようとするのが、特許制度及び分割出願制度に一貫する制度の趣旨であるから、以上の趣旨に徴するときは、分割出願は、もとの出願について査定又は審決が確定するまでこれをすることができると解するのが相当であり、このように解しても、第三者に対し不当に不測の損害を与えるおそれがあるとは考えられない。


 ・・・省略・・・


 そうすると、本件審決のように、被上告人のした原判決判示の本願発明を目的とする分割出願が、もとの出願である原判決判示の原出願につき出願公告決定があつた後に、原出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載されず、発明の詳細な説明に記載されていた発明を目的としてするものであつたことを理由に、これを不適法な分割出願であるとしてその出願日の遡及を認めることができないとすることはできず、これと同趣旨の見解のもとに本件審決を違法であるとした原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

 
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。   』


 と判示されました。


 なお、『昭和53(行ツ)101 審決取消 特許権 行政訴訟 昭和55年12月18日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/7FD7CB5A0802830B49256A8500312006.pdf)の判決文分もほぼ同旨かと思います。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 また、弁理士論文試験を受験される方は、頑張ってください!!