●平成1(行ケ)115 特許権 行政訴訟「光ビームで情報を読み取る装置

  本日は、『平成1(行ケ)115 特許権 行政訴訟「光ビームで情報を読み取る装置」平成5年06月22日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/17B375B2B6B53BD049256A7600272AEA.pdf)について取上げます。


 本件は、第1国(フランス)において構成要素(a)〜(e)からなる発明の特許出願Aをした後、第1国(フランス)において構成要素(a)〜(f)からなる発明の特許出願Bをし、その構成要素(a)〜(f)からなる発明について日本国へ出願する場合に、特許出願Bに基づいてパリ条約に基づく優先権が認められるか否かを判示した高裁事件です。結果的には、特許庁も、高裁も同じ判断で、本件の場合、その構成要素(a)〜(f)からなる発明については特許出願Bに基づく優先権は認めず、構成要素(a)〜(e)からなる発明の日本出願の公開公報に基づき進歩性なしとして拒絶されました。


 つまり、まず、特許庁の審決は、

「三 審決の理由の要点

 1 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

2 本願発明が我が国に出願される日前に頒布された昭和五〇年特許出願公開第一〇四五三九号公報(昭和五〇年八月一八日発行、以下「第一引用例」という。)には、前記(a)ないし(e)を備えた「動いているデータキャリア上に読取ビームを集束させる装置」(別紙図面二参照)が記載されており、また、昭和四九年特許出願公開第六〇七〇二号公報(以下「第二引用例」という。)には、光ビームで情報を読取る装置において、情報の読出しとビームを集束させるための位置決め測定とを共通の光検出器の出力の加算及び減算をすることによって実現することが記憶されている(別紙図面三参照)。

 したがって、本願発明は、第一引用例記載の発明に、情報の読出しをするために第二引用例記載の発明の技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

3 なお、本件出願に関して適用となる工業所有権の保護に関する一八八三年三月二〇日のパリ条約(以下「パリ条約」という。)に規定する優先権については次のとおりであり、第一引用例に基づいて本願発明の特許を拒絶することは誤りではない。

 本件出願は、一九七四年(昭和四九年)一月一五日のフランス国特許出願第七四〇一二八三号(以下「特許出願A」という。)の追加の特許出願とし、一九七五年(昭和五〇年)五月一六日にフランス国に出願された特許出願第七五一五四三三号(以下「特許出願B」という。)に基づいて、パリ条約による優先権を主張して、昭和五一年五月一七日、我が国に出願されたものである。

 パリ条約に規定する優先権は、同盟国の一国になした最初の出願に基づいてのみ発生するものであるところ、前記特許出願A、Bの明細書に共通に記載されている事項((a)ないし(e)の構成部分)については、特許出願Bは、パリ条約四条C(2)でいう「最初の出願」とは認められず、特許出願Bに基づいて発生する優先権は、先の特許出願Aの明細書に記載されている事項を除いた事項((f)の構成部分)に対するものである。

 そして、第一引用例には、特許出願Aの明細書に記載された事項((a)ないし(e)の構成部分)が記載されている。

 したがって、本件出願は、特許出願Bに基づく優先権を主張してされたものであっても、我が国に現実に出願された日前に頒布された第一引用例に記載された事項については優先権を有しないものである。

 これに対し、請求人(原告)は、パリ条約上の優先権は、一つの発明につき一つずつ発生するものであり、発明の部分毎に発生するものではないとし、また、フランス国追加特許証出願の発明は親出願の発明と共通する部分を有するが、発明としては別個のものであり、この追加特許証出願により新たな優先権が発生した等として、(a)ないし(f)の構成については特許出願Bが最初の出願であり、その明細書に記載された(a)ないし(f)の構成のすべてについて優先権を生ずる旨主張する。

 しかし、優先権は、同盟国の第一国における当該対象についての最初の出願又は最初の出願とみなされる出願だけに発生することはパリ条約四条C(2)及び(4)の規定から明らかである。この原則は、同一対象についての優先権の連鎖を避けるためのものとして広く認められているものである。


 そして、優先権が発明を構成する部分についても発生することは、四条Fの規定から明らかであり、特許出願Bに基づいて、その発明の構成部分のうち(f)の構成部分についてのみ優先権が生じると解することは何ら差し支えないものである。


 また、四条Hの規定からも、優先権が発生する出願とは、当該対象について最初に開示された出願であると解釈できるところ、特許出願Bのうち(a)ないし(e)の構成部分については特許出願Aに開示されているものであるから、(a)ないし(e)の構成部分については特許出願Aが最初の出願であり、特許出願Bが最初の出願となるものではないということができる。


 仮に、請求人の主張するとおり、特許出願Bの優先権が構成部分(a)ないし(e)に及ぶとすると、特許出願Aについて、優先期間を一二箇月と定めた四条C(2)の規定、及び、先の出願が、公衆の閲覧に付されないで、かつ、いかなる権利も存続されないで、後の出願の日までに取り下げられ、放棄され又は拒絶の処分を受け、及び先の出願が優先権の主張の基礎とされていないことを条件として、最初の出願とみなすとする四条C(4)の規定を無意味なものとし、出願人による優先期間の自発的延長を可能とすることになって、優先権制度の趣旨に甚だ反することになるものである。


 したがって、請求人の主張は理由がない。

4 以上のとおりであり、本願発明は第一引用例記載の発明に第二引用例記載の発明の技術を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法二九条二項の規定により特許を受けることができない。   』

 というものです。



 そして、東京高裁は、

『 ・・・省略・・・

2 パリ条約によれば、いずれかの同盟国において正規に特許出願をした出願人又はその承継人は、最初の出願の日から一二箇月間は他の同盟国における特許の出願について優先権を有し、その優先期間満了前に当該他の同盟国においてされた出願は、その間にされた他の出願、当該発明の公表又は実施等によって不利な取扱いを受けないと規定されている(四条A(1)、B、C(2))。

 そして、優先権制度の趣旨に照らし、優先権の対象となるためには第一国出願に係る出願書類全体により把握される発明の対象と第二国出願に係る発明の対象とが実質的に同一であることを要すると解するのが相当である。このことは、同条約四条H項が「優先権は、発明の構成部分で当該優先権の主張に係るものが最初の出願において請求の範囲内のものとして記載されていないことを理由としては、否認することができない。ただし、最初の出願に係る出願書類全体により当該構成部分が明らかにされている場合に限る。」と規定していることからも明らかである。

 しかし、同条約四条F項によれば、同項は発明の単一性を要件として、いわゆる複合優先及び部分優先を認めており、第二国出願に係る発明が第一国出願に係る発明の構成部分とこれに含まれていない構成部分を含んでいるときは、共通である構成部分と第一国出願に含まれていない構成部分とがそれぞれ独立して発明を構成するときに限り(すなわち、この両構成部分が一体不可分のものとして結合することを要旨とするものでないときに限り)、共通である構成部分については第一国出願に係る発明が優先権主張の基礎となることに照らすと、第一国に最初にした出願に係る発明と後の出願に係る発明とが右のような関係にある場合に、第二国に後の出願に係る発明と同一の構成を有する発明について出願するとき、優先権主張の基礎とすることができる特許出願は、第一国に最初にした出願に係る発明と共通の構成部分については、最初にした特許出願であり、これに含まれていない構成については後の特許出願である、と解すべきである。


 ・・・略・・・


5 以上認定したところによると、特許出願Aに係る発明は、構成要件(a)ないし(e)からなる、それを読取装置として利用することを前提とした光ビームの情報記録への焦点集束装置であり、特許出願Bに係る発明は、特許出願Aに係る発明の焦点集束装置に、これにより焦点が集束された光ビームの反射光の光量を検知して情報を読み取る装置(f)を付加した、構成要件(a)ないし(f)からなる情報読取装置である。


 そして、第二引用例に審決認定の技術内容が記載されていることは、当事者間に争いがなく、これによれば構成要件(f)に係る情報読取装置は、特許出願Bに係る発明の出願前当業者に知られていた技術的手段であると認められ、また本願発明のデータキャリアDのような情報担持物によって変調された光ビームから情報を読み取る装置は、それ自体一つの発明を構成し得るものである(本願発明に関しても、仮に、光ビームの焦点集束は既存の技術手段を用いるとして、特許請求の範囲に前記の構成要件(f)のみを記載して情報読取装置の発明として特許出願がされた場合、それは発明の単一性を損なうものではなく、一つの発明に係る特許出願として適法として扱われることに疑問の余地はない。)。

 特許出願Bに係る発明は、特許出願Aに係る発明の構成要件(a)ないし(e)(焦点集束装置)に構成要件(f)(情報読取装置)を付加したものであるが、その付加そのものに技術的な創作性があるというものでもなく(それは特許出願Aに係る発明自体が目的としたところである。)、特許出願Bは、構成要件(a)ないし(e)からなる焦点集束装置の発明と構成要件(f)からなる情報読取装置の発明とを単純に組み合わせたものにすぎない。

 したがって、本件は、第一国(フランス国)にした後の出願である特許出願Bに係る発明が同国に最初にした出願である特許出願Aに係る発明の構成部分とこれに含まれていない構成部分を含んでおり、両構成部分がそれぞれ独立して発明を構成する場合において、第二国(我が国)に後の出願である特許出願Bに係る発明と同一の構成を有する発明(本願発明)について特許出願した場合に該当する、というべきである。


 以上のことからすると、本願発明の構成要件(a)ないし(e)からなる構成部分については、特許出願Aが最初の出願となるものであり、本件出願は、その発明の全てについてフランス国の出願に基づく優先権を主張せんとする限り、構成要件(a)ないし(e)からなる構成部分については特許出願Aに基づき、構成要件(f)からなる構成部分については特許出願Bに基づき、それぞれ優先権を主張する必要があったというべきである。

 しかし、本件出願は、特許出願Aがされてから一二箇月を経過した後にされたものであることは明らかであるから、本件出願において、特許出願Aに基づく優先権を主張することはできず、ただ、(f)の構成部分について、最初の出願となる特許出願Bに基づいて、その部分についてのみ優先権を主張することができるだけである。

 したがって、本件出願がされる前に我が国において頒布された構成要件(a)ないし(e)が記載された第一引用例は、本件出願を拒絶するにおいて引用することができる刊行物であるというべきである。

 これに対し、原告は、特許出願Aに係る発明と特許出願Bに係る発明とは別個の発明であるから、構成要件(a)ないし(f)のすべてについて、特許出願Bが最初の出願である旨主張する。

 確かに、構成要件(a)ないし(e)からなるA発明と構成要件(a)ないし(f)からなるB発明とは、構成要件(f)の有無について相違しており、また構成要件(f)が構成要件(a)ないし(e)のいずれかと実質的に同一ということもできないので、両者に発明としての同一性はないが、特許出願Aに係る発明と特許出願Bに係る発明とが前述のような関係にある場合においては、本願発明の構成要件(a)ないし(e)については特許出願Aが最初の出願であると認めるべきであるから、原告の右主張は採用できない。


 したがって、審決が特許出願Bにより優先権を主張することができるのは構成部分(f)についてのみであるとし、第一引用例をもって本願発明の進歩性を否定するための引用例として用いたことに誤りはない。   』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。