●平成10(ワ)11674 意匠権 民事訴訟「包装用かご事件」大阪地裁

  本日は、『平成10(ワ)11674 意匠権 民事訴訟「包装用かご事件」平成12年09月12日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/9B8AB82E2122A9CB49256A77000EC32F.pdf)について取上げます。


  本件は、意匠権侵害訴訟において、本件意匠と被告意匠とが非類似と判断されるとともに、被告に類似範囲について先使用権(意匠法第29条)が認められ、原告の請求が棄却された事案です。



 つまり、大阪地裁(小松一雄 裁判長)は、


『一 争点1(本件登録意匠と被告意匠の類似性)について

1 本件登録意匠と被告意匠の異同について
 前記のとおり、本件登録意匠と被告意匠の構成とは、別紙「本件登録意匠及び被告意匠の構成の対照」において「同左」と記した部分において共通し、その余の部分において相違していると認められる。

2 本件登録意匠の要部について

 ・・・省略・・・

(3) 以上認定のような本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物(乙1ないし6)に記載された意匠及び公然知られた意匠(被告旧製品の意匠)を参酌すると、前記(一)で認定した本件登録意匠の外観上目立つ部分のうち、単位かごのコーナーリブの形状、特に各単位かごの四隅がすべて四分の一円形状に形成されており、単位かごを四枚連結した状態の中央部分が、各コーナーリブ四個によって略円形状を形成している点(構成F(2))が、公知意匠とは異なる新規な形状であって、看者の注意を惹く意匠の要部に当たるものと認めるのが相当である。


3 本件登録意匠と被告意匠との類否について

(一) 以上を前提に本件登録意匠と被告意匠との類否を検討すると、両者はいずれも、全体形状が四枚の単位かご2を上から見て横長の田字形に連結した包装用かご1である点、(構成Aとa)、各単位かご2の基本形状が、?多数の小さな通水孔3を網目状に形成した底板4を有し、この底板4の周囲に立ち上げた側壁5を設けた上面開口の容器であり(構成B(1)とb(1))、?上、下から見ると、いずれも隅丸長方形であり(構成Cとc)、?開口部から底部にかけて漸次下すぼまりになっており、包装用かご1及び単位かご2を積み重ねることができ(構成Dとd)、?単位かご2の上端には、外方向に折り返した鍔部24が形成されており、鍔部24の垂れ壁27は単位かご2の高さの約6ないし7分の1くらいで短い(構成Iとi)という基本形状の点で共通しているが、前記のとおり、これらの形状は、本件登録意匠固有の特徴部分ではないから、この点が類似しているからといって、本件登録意匠と被告意匠とが類似しているとはいえない。


 また、本件登録意匠と被告意匠との間には、その他の共通点(E(1)ないし(3)とe(1)ないし(3)、Gとg、Hとh)も存するが、いずれも乙5、乙6及び被告旧製品の単位かごに見られるものと大差のないありふれた形状であるから、この点が類似しているからといって、本件登録意匠と被告意匠とが類似しているとはいえない。

(二) 他方、本件登録意匠と被告意匠は、包装かご1の中央部のコーナーリブの形状を異にしており(F(2)とf(2))、この点は前記のとおり、本件登録意匠の外観上目立つ部分であって、しかも公知意匠には見られない特徴的部分における相違であり、相違の程度も、本件登録意匠では中央部が全体として円形状を形成しているのに対し、被告意匠では中央部が全体として×状を形成しているというように大きく異なっているから、この相違が全体の美感の相違に与える影響は無視し得ないというべきである(なお本件登録意匠と被告意匠との間には他にも種々の相違点があるが、いずれも目立たない小さな部分であり、意匠全体の美感という観点から見た場合には、その相違による影響はわずかなものというべきである。)。

(三) これらの検討からすれば、本件登録意匠と被告意匠との間には、その基本的な形状を含めて共通点が多々存するものの、相違点の印象が共通点の印象を凌駕し、意匠全体としては視覚的印象を異にするというべきであるから、被告意匠は本件登録意匠と類似するとはいえない。


二 争点2(先使用)について

 前記1で判示したところからすれば、原告の請求はその余の争点の判断に進むまでもなく、いずれも理由がないことに帰するが、念のために被告の先使用の主張についても判断することにする。

1 前記認定のとおり、被告は、昭和六三年ころから被告旧製品を製造、販売したと認められるが、証人【E】の証言によれば、被告は、前記神戸地裁の事件が提起された後に、被告旧製品の連結部の形状を、隣接する単位かごの接辺のほぼ全長にわたって薄板が設けられていたものから、右接辺の二か所のみを薄膜で連結する形状に変更した(その現物が検乙3である。)と認められ、さらに、その後、平成五年ころに、証人【E】らが出願した前記考案(甲3の5)を開発したことに対応して、連結部をそれに応じた形状のものに変更するとともに、L字状脚を、ラップを巻く際に引っかかって破れる等の苦情が需要者からなされたことから取り払う変更を行い、これによって現在の被告製品となったことが認められる。

2 このように被告が製造、販売していた四枚物の包装用かごは、本件登録意匠の出願前の被告旧製品から、出願後に連結部の改造がなされ、さらに現在の被告製品へと形状が変更されていることから、原告は、仮に被告旧製品の意匠については被告に先使用権が成立するとしても、被告旧製品と現在の被告製品とでは形状が変更されているから、現在の被告製品には先使用権の効力は及ばないと主張する。


 そこで検討するに、意匠法二九条は、「意匠登録出願に係る意匠を知らないで自らその意匠若しくはこれに類似する意匠の創作をし、…意匠登録出願の際…現に日本国内においてその意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者」は、「その実施…をしている意匠…の範囲内において、その意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権を有する」と規定するが、ここにいう「実施をしている意匠の範囲」とは、登録意匠の意匠登録出願の際に先使用権者が現に日本国内において実施をしていた具体的意匠に限定されるものではなく、その具体的意匠に類似する意匠も含むものであり、したがって、先使用権の効力は、意匠登録出願の際に先使用権者が現に実施をしていた具体的意匠だけではなく、それに類似する意匠にも及ぶと解するのが相当である。


 なぜなら、意匠の創作的価値は、当該具体的意匠のみならずそれと類似する意匠にも及び、意匠権者は登録意匠のみならずそれと類似する意匠も実施をする権利を専有する(意匠法二三条)という制度の下において、先使用権制度の趣旨が、主として意匠権者と先使用権者との公平を図ることにあることに照らせば、意匠登録出願の際に先使用権者が現に実施をしていた具体的意匠以外に変更することを一切認めないのは、先使用権者にとって酷であって、相当ではないからである。


 ところで、被告が本件登録意匠の出願当時に実施していた被告旧製品と現在の被告製品の各意匠については、前記のとおり、連結部の形状とL字状脚の有無の二点において相違がある。このうちまず、連結部の形状の相違は、各連結容器を分離する機能の面からすれば、カッターが必要か否かという相違があるから、重要な構造であるとはいえるものの、意匠全体の美感という観点からすれば、包装用かごを手にとって斜め上方から観察した場合でも、ほとんど視界に入らないものであって、意匠全体の美感に影響を及ぼすものとはいえない(そしてこの点は、原告自身も、本件登録意匠と被告意匠との類否の争点において主張するところである。)。また、L字状脚も、包装用かごの底部の四隅に設けられた小さな突片にすぎないから、その有無が意匠全体の美感に影響を及ぼすものとはいえない。


 したがって、現在の被告製品の意匠は、被告旧製品の意匠の類似範囲に属するというべきであるから、被告は、被告意匠について、先使用権を有するというべきである。


第五 結論

 以上によれば、その余について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。   』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。