●平成19(行ケ)10078 審決取消請求事件 意匠権「貝吊り下げ具」

  本日は、『平成19(行ケ)10078 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「貝吊り下げ具」平成19年06月13日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070613161820.pdf)について紹介します。


 本件は、意匠法3条2項違反の拒絶審決の取消を求めた訴訟で、請求が認容された事案です。


 意匠法3条2項の意匠の創作容易性の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知材高裁(第3部 飯村敏明裁判長)は、


『1 本願意匠と例示意匠1との対比

(1) 本願意匠は,貝の養殖に使用する貝吊り下げ具のうち,ピンを多数平行に配置し,そのピンの左右両端寄りから斜め上側中央向きで左右対称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として,そのロープ止め突起の内側直近に左右対称状に2本の連結紐を一体形成したものを上下等間隔に多数連結した部分の形状であり,これにより,それぞれの連結紐とロープ止め突起との間にほぼ三角形の空間を形成するとともに,2本の連結紐の間隔を広くして2本の連結紐と上下のピンの間にロープを配置できる広さを有する横長長方形の空間を形成している。そして,横長長方形(内側)の縦対横の比率は,約4.7対7である。また,三角形(内側)の底辺の長さと長方形(内側)の底辺の長さの比率は,約3対7である。

 これに対し,例示意匠1(甲4)のうち,本願意匠に対応する部分の意匠は,貝の養殖に使用する貝吊り下げ具のうち,ピンを上下等間隔に多数配設し,そのピンの左右両端寄りから斜め上側中央向きで左右対称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として,その間の中央に一枚のテープ状薄片を一体形成したものを上下等間隔に多数連結した形状である。

(2) 本願意匠と例示意匠1のうち本願意匠に対応する部分形状とを対比すると,以下のとおりの一致点及び相違点を認定することができる。

ア 一致点
 貝の養殖に使用する貝吊り下げ具のうち,ピンを多数平行に配置し,それぞれのピンの左右両端寄りから斜め上側中央向きで左右対称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として配設した点。

イ 相違点
 本願意匠は,一対のロープ止め突起の内側直近に左右対称状に2本の連結紐を一体形成したものを上下等間隔に多数連結し,これによりそれぞれの連結紐とロープ止め突起との間にほぼ三角形に空間を形成するとともに,2本の連結紐の間隔を広くして2本の連結紐と上下のピンの間にロープを配置できる広さを有する横長長方形空間を形成しているのに対し,例示意匠1は,一対のロープ止め突起の間に一枚のテープ状薄片を配設し,上記の各空間を形成していない点。


2 例示意匠1と例示意匠2の組合せによる創作容易性の有無

(1) 例示意匠2の内容
 例示意匠2(甲5)は,発明の名称「養殖帆立貝の掛け止め具」に係る公開特許公報(特開2003ー289743)の実施例【図1】,【図2】,【図7】として示された図面である。例示意匠2のうち本願意匠に対応する部分の意匠は次のとおりである(このうち【図1】と【図2】は意匠としては同一であるので,【図2】と【図7】の各意匠の内容を示す。)。
  【図2】
 養殖帆立貝の掛け止め具のうち,樹脂等で形成された棒状の軸部を多数平行に配設し,その間に左右対称状に一対の連結線を一体形成したものを上下等間隔に多数連結したものである。棒状の軸部と一対の連結線で形成された横長長方形の縦対横の比率は,約3対10である。なお,ロープ止め突起は存在しない。
  【図7】
 養殖帆立貝の掛け止め具のうち,樹脂等で形成された棒状の軸部を多数平行に配設し,その間にピンの左右両端寄りから斜め上側中央向きで左右対称状に向かい合う一対のロープ抜け止め片を配設し,その外側に一対の連結線をややロープ抜け止め片寄りに一対形成したものを上下等間隔に多数連結した部分形状である。

(2) 創作容易性の有無

 以上の事実を前提として,例示意匠1と例示意匠2とを組み合わせて,本願意匠を容易に創作することができたといえるかどうかについて検討する。

ア 例示意匠1と例示意匠2の図2に基づく創作容易性について

 前記1(1)のとおり,本願意匠は,一対のロープ止め突起の内側直近に左右対称状に2本の連結紐を一体形成したものを上下等間隔に多数連結し,これによりそれぞれの連結紐とロープ止め突起との間にほぼ三角形状の空間を形成するとともに,2本の連結紐の間隔を広くして2本の連結紐と上下のピンの間にロープを配置できる広さを有する横長長方形状の空間を形成しているために,中央に配置された横長長方形状,及びこれを挟むように対向配置された一対の三角形状は,ともに空間を形成している点に特徴がある。これに対して,例示意匠1は,ロープ止め突起の間に一枚のテープ状薄片のみを配設しているため,中央部には,長方形状の空間を形成していない点で大きく異なる。

 また,前記のとおり,例示意匠2の図2には,棒状の軸部を多数平行に配設し,その間に左右対称状に一対の連結線を一体形成したものを上下等間隔に多数連結しているため,棒状の軸部と一対の連結線により横長長方形の空間が形成されている。しかし,例示意匠2の図2には,ロープ止め突起が設けられていないので,横長長方形状と対向配置された一対の三角形状の空間が形成されていない点,横長長方形状も,本願意匠においては,おおむね5対7であるのに対して,例示意匠2の図2においては,おおむね3対10である点で,本願意匠と例示意匠2の図2の全体の印象は,やはり大きく異なる。

 ところで,そもそも,樹脂等で形成された棒状の軸部を連結する場合に,連結部の形状をどのようにするか,どのような部材を用いるか,一つとするか複数とするか,仮に連結紐を選択したとしても,その間隔をどのようにするか,他の部材(ロープ止め突起等)との配置関係をどのようにするかについては,機能面からの制約を考慮したとしてもなお,様々な意匠を選択する余地があるといえる。

 そうすると,本願意匠と例示意匠1との相違点である「連結のための一枚のテープ状薄片」を,例示意匠2の図2の2本の連結紐に置き換えることによって,本願意匠の特徴である「2本の連結紐をロープ止め突起近くに配設し,その結果それぞれの連結紐とロープ止め突起との間にほぼ三角形に空間を形成すると共に,2本の連結紐の間隔を広くして2本の連結紐と上下のピンの間にロープを配置できる広さを有する横長長方形空間を形成すること」は,当業者において容易に創作し得たということはできない。

イ 例示意匠1と例示意匠2の図7に基づく創作容易性について前記のとおり,例示意匠2の図7には,2本の連結線は,それぞれロープ抜け止め片の外側に配設され,一対のロープ抜け止め片の間に配設されていない点,横長長方形状と対向配置された一対の三角形状の空間が形成されていない点で大きく異なる。

 そうすると,本願意匠と例示意匠1との相違点である「連結のための一枚のテープ状薄片」を,例示意匠2の図7の2本の連結紐を配設することによって,本願意匠の特徴である「2本の連結紐をロープ止め突起内側直近に配設し,それぞれの連結紐とロープ止め突起との間にほぼ三角形に空間を形成すると共に,2本の連結紐の間隔を広くして2本の連結紐と上下のピンの間にロープを配置できる広さを有する横長長方形空間を形成すること」は,当業者にとって容易に創作し得たということはできない。

ウ 被告の主張するその他の創作容易性について

 被告は,①細長い棒状のピンの中央部の上側に左右対称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として形成した態様のものが多数見られること,②連結紐を2本一対として一体状に形成することも普通に行われること,③2本の連結紐の間隔を適宜変更して形成することはありふれた手法であることを理由に,連結紐部分を2本一対の連結紐に置き換えることは容易であるから,本願意匠も,当業者にとって容易に創作できたと主張する。

 しかし,本願意匠のうち個々の構成態様が,ありふれているものであっても,本願意匠は,2本の連結紐をロープ止め突起近くに配設し,その結果それぞれの連結紐とロープ止め突起との間にほぼ三角形に空間を形成すると共に,2本の連結紐の間隔を広くして2本の連結紐と上下のピンの間にロープを配置できる広さを有する横長長方形空間を形成したものであって,その全体の印象として,特有のまとまり感のある,本願意匠の特徴を選択することは,当業者が容易に創作し得たとはいえないから,被告の上記主張は理由がない。

 もっとも,本願意匠は,例示意匠1,例示意匠2やその他の公知意匠との相違点に照らすと,その登録意匠の範囲(意匠法24条)は,広範なものとはいえないと考えられる。

エ 以上のとおり,本願意匠は,例示意匠1及び例示意匠2によって当業者が容易に創作することができたということはできない。


3 結論
 以上に検討したところによると,本願意匠は,その出願前に日本国内において広く知られた形態に基づいて当業者が容易に創作することができたとの審決の判断は誤りであるから,原告の請求は理由がある。
よって,主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10066 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「建築用板材」 平成19年06月14日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070614152222.pdf
●『平成19(行ケ)10036 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「三段熨斗付き紐丸冠瓦」平成19年06月14日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070614145414.pdf
●『平成18(行ケ)10453 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「鉛を含まないはんだ」平成19年06月14日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070614144559.pdf
●『平成19(ネ)10001 商号使用禁止等請求控訴事件 その他 民事訴訟「ジャパン・スポーツ・マーケティング株式会社」平成19年06月13日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070613163733.pdf
●『平成18(行ケ)10087 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成19年06月13日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070613162437.pdf
●『平成19(行ケ)10078 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「貝吊り下げ具」平成19年06月13日 知的財産高等裁判所』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070613161820.pdf
●『平成17(ワ)153等 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟平成19年06月12日 大阪地方裁判所』(認容判決)/PDFhttp://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070614102502.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『米最高裁が特許の有効性の基準に新たな指針を示す』http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/yoshida20070613.html
●『2007/06/14-12:09 第一三共、カナダで経口抗菌剤めぐる特許訴訟に勝訴』http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2007061400416
●『第一三共、カナダで経口抗菌剤めぐる特許訴訟に勝訴』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070614-00000148-jij-biz
●『第1回 契約にかかわる法律を知る 』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070604/273431/