●昭和58(ワ)3453 実用新案権 民事訴訟「架構材の取付金具」大阪地

 本日は、『昭和58(ワ)3453 実用新案権 民事訴訟「架構材の取付金具」昭和59年04月26日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/0153A568405FDFB449256A76002F8B11.pdf)について紹介します。


 本件は、通常の通常実施権、すなわち非独占通常実施権について差止請求権および損害賠償請求権が認められないことを判示した判決例です。


 つまり、大阪地裁は、


『一 請求原因一1の事実(日本鋼管が本件実用新案権を有すること)は当事者に争いがなく、同2のうち原告が本件考案につき通常実施権を有することは成立に争いのない甲第三号証により認められる。そして原告の右通常実施権が非独占的なものであることは原告の認めるところである。


二 そこで、このような非独占的な通常実施権に損害賠償請求権及び債権者代位権に基づく差止請求権が認められるか否かにつき検討する。


1 本件の如き通常実施権は債権であり、排他性を有しないものの、権利の不可侵性という一般論からいえば、債権侵害の不法行為を肯定することも可能である。しかしながら右侵害のすべてが不法行為を構成するのではなく、不法行為の成否は、当該権利の性質、侵害行為の態様などを総合して決められなければならない。

 そこで本件における非独占的通常実施権についてこの点をみることとする。

 実用新案法一九条二項には、「通常実施権は、……設定行為で定めた範囲内において業としてその登録実用新案の実施をする権利を有する。」と規定しており、右の規定よりすれば、通常実施権の許諾者は、通常実施権者に対し、当該実用新案を業として実施することを容認する義務、すなわち実施権者に対し右実施による差止・損害賠償請求権を行使しないという不作為義務を負うに止まりそれ以上に許諾者は実施権者に対し、他の無承諾実施者の行為を排除し通常実施権者の損害を避止する義務までを当然に負うものではない。


 また、当然のことながら、通常実施権を設定した実施許諾者は、更に複数の者に実施させる権利を有すると共に無承諾で当該考案を実施している第三者を放置する自由をも有しており、したがつて非独占的な実施権者は常に同種権利者による競合実施の結果生ずることのある売上げ減などの損害を受けうる立場にあるといわなければならない。


 そして、実用新案の侵害者が侵害行為により受けた利益をもつて権利者の損害と推定する旨の実用新案法二九条一項及び実用新案の実施に対し通常受けるべき金銭すなわち実施料相当額を権利者の損害額として請求できる旨の同条二項には、権利者として実用新案権者と専用実施権者のみが記載されている。


 右のような非独占的通常実施権の性質及び侵害者の利益による損害の推定規定・実施料相当の損害に関する規定中の権利者として通常実施権者が記載されていないことなどに鑑みると、第三者が具体的に実施権者の実施行為を妨害する挙に出たような場合は格別、実用新案権者の承諾なしに当該考案を実施しているだけでは、いまだ非独占的通常実施権者に対する権利侵害があつたということはできず、結局右侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことに帰する。


2 次に、債権者代位権に基づく差止請求権行使の可否につきみる。

 債権者代位制度は、元来債務者の一般財産保全のためのものであり、特定債権保全のために右行使を許すのは、その本来の趣旨からして、自ずから限度があり、例えば、順次転売された不動産の最終買主が自己の売主に対する登記請求権を保全するため売主の前主に対して有する移転登記請求権を代位行使する場合(大審院明治四三年(オ)第一五二号同年七月六日判決、大審院民事判決録一六輯五三七頁)、土地賃借人がその占有を第三者に不法に侵害されたことを理由に、賃貸人たる土地所有者の有する妨害排除請求権を代位行使する場合(大審院大正九年(オ)第七五二号同年一一月一一日判決、大審院民事判決録二六輯一七〇一頁)には、債務者の無資力の立証を要することなく代位権の行使が許されると解されるところ、右事案における権利は、それぞれ不動産の登記請求権、占有を伴う不動産利用権といつた重畳的な行使が許されない性質のものである。ところが、非独占的通常実施権は重畳的に権利行使が可能であることは前記説示のとおりであるから、特定債権の保全のため代位権の行使が例外的に許されている右の各場合とは性質を異にし、債権者代位権による保全は許されないというべきである。


 しかも前記説示のとおり、非独占的通常実施権者の許諾者に対する請求権が当該考案の実施を容認させる不作為請求権の性質を有するものであり、第三者による侵害の存否が許諾者の実施権者に対する債務の履行・不履行に拘りがない(なお本件においても、日本鋼管が原告に対し、第三者の侵害行為を差止めるべき作為義務を特約したことを認めしめる証拠はない)以上、通常実施権者が許諾者の有する侵害者に対する妨害排除請求権を代位行使するこによって許諾者の実施権者に対する債務の履行が確保される関係にはないのであるし、本件全証拠によるも日本鋼管が無資力であるとは認められないから、結局実施権者は許諾者に対し債権者代位による保全の必要性をも欠くといわざるを得ない。


三 以上のとおり、原告の被告らに対する本訴請求は、いずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。