●大阪地裁の「ゴーグル事件」と知材高裁の「椅子式マッサージ機事件

  先月末の5/23(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070523)に取上げた『平成17(ワ)12207 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「ゴーグル事件」平成19年04月19日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070426094042.pdf)と、昨年の9/26(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060926)に取上げた『平成17(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「椅子式マッサージ機事件」平成18年09月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060926142643.pdf)とは、特許法102条1項ただし書が適用された結果,原告によって販売できないと認定された分について特許法102条3項に基づくいわゆる実施量相当額の損害賠償額を認めないと判断した点では、一致しています。



 また、知財高裁の「椅子式マッサージ機事件」では、「4 侵害行為がなければ権利者が販売することができた物について」のところで、


『4 侵害行為がなければ権利者が販売することができた物について

 特許法102条1項本文は,民法709条に基づき逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり,侵害者の譲渡した製品の数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売することができた製品の単位数量当たりの利益額を乗じた額を,特許権者等の実施能力の限度で損害額と推定することとした規定であると解すべきである。


 そして,同項ただし書は,侵害者が同項本文による推定を覆す事情を証明した場合には,その限度で損害額を減額することができることを規定したものであり,このような「販売することができないとする事情」としては,特許権者等が販売することができた物に固有な事情に限られず,市場における当該製品の競合品・代替品の存在,侵害者自身の営業努力,ブランド及び販売力,需要者の購買の動機付けとなるような侵害品の他の特徴(デザイン,機能等 ,侵害品の価格などの事)情をも考慮することができるというべきである。

と判示されています。


 また、大阪地裁の「ゴーグル事件」では、「特許法102条1項ただし書に該当する事情について」のところで、


『(ア) 特許法102条1項は,権利者の逸失利益の算定を容易にするために設けられた規定であり,同項本文は,侵害者の譲渡した製品の数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売することができた製品の単位数量当たりの利益額を乗じた額を,特許権者の実施能力の限度で損害額と推定することを規定し,同項ただし書は,侵害者が同項本文による推定を覆す事情を証明した場合には,その限度で損害額を減額することができることを規定したものと解するのが相当である。そして,同項ただし書の販売することができないとする事情としては侵害品の価格侵害品の販売ルート,競合品の存在,侵害品の譲渡数量に占める当該特許発明の寄与度等の事情を考慮することができると解するのが相当である。

 と判示されています。


 つまり、大阪地裁の「ゴーグル事件」も、知財高裁の「椅子式マッサージ機事件」も、102条1項による損害額を、特許権者等の実施能力の限度で損害額と推定し、102条1項但し書きの「販売することができないとする事情」として,市場における当該製品の競合品・代替品の存在,侵害者自身の営業努力等の事情を考慮するとものと判断しています。


 これに対し、主に東京地裁から、特許法102条1項は,排他的独占権という特許権の本質に基づき,特許権を侵害する製品と特許権者の製品が市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定とし、侵害者の営業努力(具体的には,侵害者の広告等の営業努力,市場開発努力や,独自の販売形態,企業規模,ブランドイメージ等が侵害品の販売促進に寄与したこと,侵害品の販売価格が低廉であったこと,侵害品の性能が優れていたこと,侵害品において当該特許発明の実施部分以外に売上げに結び付く特徴が存在したこと等)や,市場に侵害品以外の代替品や競合品が存在したことなどをもって,同項ただし書にいう「販売することができないとする事情」に該当すると解することはできない、と判断する判決例も出されています。


 
 なお、特許法102条1項については、「特許判例百選[第三版]」のP188〜189の「91  特権不実施の場合における方102条1項の逸失利益」という題で掲載されていますので、こちらも参照願います。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ワ)8019 特許出願人変更等請求事件 特許権 民事訴訟「軽車両用風防及び自転車」平成19年06月04日 大阪地方裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070606093117.pdf
●『平成18(行ケ)10274 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟「高密度コネクタおよび製造方法」平成19年05月31日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070606120004.pdf
●『平成18(行ケ)10315 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「デジタルコンテンツの配信方法およびデジタルコンテンツの配信システム」平成19年05月30日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070606160607.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『シャープが台湾の液晶メーカー「ハンスター」を特許侵害で提訴(シャープ)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=1485
●『カナダ企業がソニーを提訴 PS3特許侵害で米地裁に 』http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200706060051a.nwc
●『PS3などのコンテンツ保護技術に関する特許侵害でソニーらを提訴
http://www.nikkeibp.co.jp/news/manu07q2/535811/
●『Microsoft/Eolasの「Webブラウザプラグイン特許」係争,米特許商標局が中核特許の再審査に同意』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070605/273678/?ST=security