●平成13(ネ)257 特許権 民事訴訟 「複層タイヤ事件」

  本日は、『平成13(ネ)257 特許権 民事訴訟「複層タイヤ事件」平成14年04月10日 大阪高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/DE2C8FE352F247A649256BF8002017BF.pdf)について取上げます。


  本件は、一週間程前の5/22〜5/24に取上げた『平成17(ワ)12207 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「ゴーグル事件」平成19年04月19日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070426094042.pdf)や、昨年の9/26(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060926)に取上げた『平成17(ネ)10047 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「椅子式マッサージ機事件」平成18年09月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060926142643.pdf)とは逆に、特許法102条1項ただし書が適用された結果,原告によって販売できないと認定された分について特許法102条3項に基づくいわゆる実施量相当額の損害賠償額を認めた事案です。



 つまり、大阪高裁は、

『5 争点5(損害の発生及び額)について

(1) 主位的請求(特許法102条1項に基づく請求)について

 ・・・省略・・・

イ 上記販売数量に対し,被控訴人らは,控訴人の複層タイヤの知名度,控訴人の製品と被控訴人会社の製品との価格差等を理由に,控訴人は,被控訴人会社が加工又は加工販売した数量の複層タイヤを販売できたとはいえないと主張する。


(ア) 被控訴人らは,被控訴人会社の販売先14社のうち,西日本タイヤ及びトーヨージャイアントは,控訴人の存在を知っていたものの,自ら控訴人から複層タイヤを購入したことはなく,その余の取引先は控訴人の存在を知らなかった旨主張するところ,被控訴人会社の販売先作成に係る陳述書(乙8,40,41,42の1,44〜46,48,59〜62)によれば,上記主張に沿う事実(ただし,控訴人の存在を認識していたか否かについて言及しているのは,上記掲記の陳述書を提出した12社である。)が認められる。


(イ) 証拠(甲35〜42)によれば,控訴人は複層タイヤ(鉱山スチールASN10.00―20)を7万円ないし7万5000円で販売していることが認められ,一方,被控訴人会社の販売する複層タイヤの売値は別紙「A型及びB型タイヤ販売一覧表」記載のとおり1500円から1万円であるから,両者の間には7倍から50倍に至る価格差がある。証拠(乙45,48,59,61,62)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人会社は,外装タイヤに中古タイヤや再生タイヤを用いることが多く,販売先が提供した外装タイヤを用いて複層タイヤを製造することもあることが認められるが,上記の事情を考慮しても,なお上記価格差は著しいものというべきである。


 そして,販売価格差が著しいことに加え,証拠(乙44,46,48,61,62,80,81)によれば,被控訴人会社が複層タイヤを販売した取引先4社が,売値が7万5000円とすれば非常に高いとの意見を述べていること,近年,通常のタイヤの中にもトレッド部の厚さがより厚い製品が開発され,いわゆるノーパンクタイヤやウレタンタイヤなど複層タイヤに代替する製品も存在することが認められることに照らすと,複層タイヤは,パンクが起き易い場所等においてパンクの発生を減らし,外装タイヤを摩耗するまで使用するために用いられるものであり,いわばコスト軽減のために使用される製品であるから,複層タイヤを用いるか否かの判断において,上記パンクを減らすことのメリットとの比較において,複層タイヤに要するコストが重要な要素となると考えられる。


 上記のような事情に前記(ア)の事実も勘案すると,被控訴人会社が販売したA型タイヤの数量の7割については,控訴人において販売することができないとする事情があり,控訴人において販売することができたのは,被控訴人会社が販売したA型タイヤの数量のうち3割程度にとどまると認めるのが相当である。

(ウ) そうすると,損害の基礎とすべきA型タイヤの販売数量は,平成2年8月30日から平成8年2月20日までの期間は231本,平成8年2月21日から平成11年4月30日までの期間は9本となる。

ウ 控訴人の複層タイヤの1本当たりの利益について

(ア) 特許法102条1項にいう「利益の額」とは,特許権者等が侵害行為がなかったならば,販売できたであろう追加的な売上を得るに当たって,追加的に必要となると考えられる諸経費を上記売上額から控除した額であると解するのが相当である。


(イ) 前記のとおり,控訴人は複層タイヤ(鉱山スチールASN10.00―20)を7万円ないし7万5000円で販売し,証拠(甲43〜51)によれば,その材料費として,新品の外装タイヤ2万5000円ないし2万9000円,新品のチューブ1700円ないし2300円,新品のフラップ1100円ないし1600円,ホイール1500円,台タイヤ650円ないし2300円を要していることが認められる。


(ウ) 一方,証拠(甲68の1〜3,10)によれば,控訴人の帳簿上の粗利益は,昭和63年8月が47万円(販売数16本),平成元年8月が80万円(販売数35本),平成2年8月が60万円(販売数24本),平成3年8月が12万円(販売数4本)と算出されていることが認められるから,上記期間における複層タイヤ1台当たりの平均粗利益は,2万5189円(1,990,000/79)となる。


 上記帳簿上の粗利益の算出経過は明確ではないものの,売値から前記(イ)記載の材料費を控除すると,3万3300円ないし4万5050円となり,甲56によれば,複層タイヤの製造に要する労務費は1本当たり約1000円であり,その製造には,5万円ないし10万円のグラインダーのほか特に高価な機械,工具は必要がないことが認められる。そうすると,上記平均粗利益の額2万5189円は,当該複層タイヤの製造,販売に応じて増減する間接費を控除したものと推認され,控訴人の複層タイヤ1本当たりの利益の額は2万5189円とするのが相当である。

エ 以上によれば,控訴人の損害は,平成2年8月30日から平成8年2月20日までの期間は581万8659円,平成8年2月21日から平成11年4月30日までの期間は22万6701円となる。

オ なお,控訴審において,控訴人は,特許法102条1項による損害の基礎として,A型タイヤの販売数量である803本全部とすべきである旨主張し,他方,被控訴人らは,仮に被控訴人会社の製品がなかったとしても,控訴人は,自らの製品を販売できなかったものであるから,同法102条1項但書により,損害はなかったこととなると主張する。しかし,前記イ(ア),(イ)の事情を考慮すると,当裁判所も,被控訴人会社が販売したA型タイヤの数量の7割について,控訴人において販売することができないとする事情があるものと認める。したがって,控訴人及び被控訴人らの前記主張は,いずれも採用することができない。


(2) 予備的請求(特許法102条3項に基づく請求)について

ア 前記(1)イ記載のとおり,被控訴人会社が販売したA型タイヤのうち,7割については,控訴人において販売することができないとする事情があるとして,その部分に関しては同法102条1項による請求ができないが,この部分についても,無許諾の実施品であることに変わりがないから,同法102条3項の相当な対価額の賠償請求は認められるものと解される。

 そして,控訴人において販売することができないとして除かれた販売数量は,平成2年8月30日から平成8年2月20日までの期間は540本,平成8年2月21日から平成11年4月30日までの期間は24本であり,上記数量に対応する売上高を,各期間のA型タイヤの売上高の7割とみなして計算すると,平成2年8月30日から平成8年2月20日までの期間は297万7520円(4,253,600×0.7),平成8年2月21日から平成11年4月30日までの期間は12万7400円(182,000×0.7)となる。


イ 本件発明の実施に対し受けるべき実施料の率は,甲70によって認められるゴム製品の実施料率の業界相場や本件発明の内容,発明品の種類,用途等を考慮すると,3%が相当である。

ウ よって,控訴人が同法102条3項に基づいて賠償を受けるべき損害額は,平成2年8月30日から平成8年2月20日までの期間は8万9325円(2,977,520×0.03),平成8年2月21日から平成11年4月30日までの期間は3822円(127,400×0.03)となる。

エ なお,控訴人は,同項に基づく損害額の算定に当たり,実施料率に乗ずべき販売価格としては,控訴人のエンドユーザーに対する小売価格を採るべきである旨主張するが,実施料相当額の算定に当たっては,実際の実施料率に基づいて実施料額を算定する場合と同様,侵害者である被控訴人会社の実際の売上高に前記実施料率を乗じる方法によるのが相当であり,控訴人の上記主張も採用することはできない。

(3) 上記(1)及び(2)の損害額の合計は,平成2年8月30日から平成8年2月20日までの期間は590万7984円,平成8年2月21日から平成11年4月30日までの期間は23万0523円となる。

 各期間に対応した弁護士費用,弁理士費用は,平成2年8月30日から平成8年2月20日までの期間は60万円,平成8年2月21日から平成11年4月30日までの期間は3万円が相当であり,同費用を加算した損害額の合計は,平成2年8月30日から平成8年2月20日までの期間は650万7984円,平成8年2月21日から平成11年4月30日までの期間は26万0523円となり,総合計は676万8507円となる。   』

と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 なお、本件の原審である『平成8(ワ)1635  特許権 民事訴訟 平成12年12月12日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/70E98BB1B63C494249256A7700168A69.pdf)も、同様に、原告が販売することができない部分について無許諾の実施品であることに変わりがないから、102条3項の実施量相当な賠償請求を認められると判断しています。