●平成17(ネ)10119 特許権侵害差止等請求控訴事件「レンジフードの

  本日は、『平成17(ネ)10119 特許権侵害差止等請求控訴事件「レンジフードのフィルタ装置」平成19年05月15日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070518140345.pdf)について紹介します。


 本件は、原審原告の差止請求等に係る「レンジフードのフィルタ装置」に関する特許権が、無効理由ありとされ差止請求等は認められず、原審原告が原審被告らによる被告製品の製造販売が本件特許権の侵害である旨の虚偽の事実を告知,流布する行為が不正競争防止法2条1項14号に該当する不正競争行為に該当するか等が争点5として争われた事案です。



 本件では、原審原告の行為は不正競争防止法2条1項14号に該当する不正競争行為に該当するため、その行為の差止めは認められたものの、故意又は過失までは認められなかったため、謝罪広告及び損害賠償の請求(不競法14条)は認められませんでした。


 なお、謝罪広告及び損害賠償の請求(不競法14条)には、故意又は過失が要件になっていますが、不正競争防止法2条1項14号等の不正競争行為の差止請求(不競法3条1項めには、故意又は過失は要件ではありません。



  つまり、知財高裁は、


『争点5(原審原告が,原審被告らによる被告製品の製造販売が本件特許権の侵害である旨の虚偽の事実を告知,流布するという,不正競争防止法2条1項14号に該当する不正競争行為をしたか。また,これについて,原審原告に故意又は過失があるか)について、

『(1)上記第2の1の(1)の事実によれば,原審原告にとって,原審被告らは「競争関係にある他人」に当たるものと認められる。


 また,同(7)の事実に,乙第26,第28,第49,第50号証,第53号証の1,2及び弁論の全趣旨を総合すれば,原審原告は,本件特許権の登録後である平成16年10月以降原審被告らの被告製品販売先である日本生活協同組合連合会コープ九州事業連合,コープきんき事業連合及び千趣会に対し,直接書面により,又は他者を介して,被告製品が本件特許権を侵害するものである旨の告知をしたことが認められるところ,上記1のとおり,本件発明に係る特許は,無効審判において無効とされるべきものであって,被告製品が本件特許権を侵害するということはできない。


 そうすると,原審原告による上記行為は,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当するものと認められる。


 したがって,同法3条1項に基づき,その差止めを求める原審被告らの請求は理由がある。


(2) しかしながら,原審原告による上記行為が,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当するものと認められるのは,本件発明に係る特許が,無効審判において無効とされるべきものであるという点にある。そして,特許権者において,特定の者の製造する物品が当該特許権の侵害品である旨を第三者に対し警告する場合には,その製造者に対し警告する場合と比べ,より一層の慎重さが要求されるとしても,上記1の本件特許に係る無効事由の内容に照らし,また,上記2のとおり,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属すると認められることにかんがみると,本件においては,特許権者である原審原告が具体的な無効事由につき出願時又はそれ以降にその存在を疑って調査検討をすることを期待することができるような事情は認め難いから,原審原告による上記行為につき,故意過失があったとまでは直ちに認めることはできない。


 なお,上記第2の2の(7)の事実に上掲証拠を総合すれば,原審原告は,上記行為において,日本生活協同組合連合会,コープきんき事業連合などに対し送付した書面に,本件特許に係る特許証と,本件特許出願に係る公開公報(特開平11−300130号)を添付したことが認められ,この事実によれば,送付を受けた日本生活協同組合連合会等は,原審原告が,上記公開公報記載の発明について特許権を取得したかのように誤認するおそれがあるものと推認されるが,そうであるからといって,本件発明に係る特許が,無効審判において無効とされるべきものであるという事由により,被告製品が本件特許権の侵害品に当たらないという点に関する原審原告の故意過失を基礎付けるということはできない。


(3)したがって,原審原告に対し,謝罪広告及び損害賠償を求める原審被告らの請求は理由がない。


4 以上によれば,原審原告の請求は全部理由がないから棄却すべきであり,原審被告らの,被告製品に対する,本件特許権に基づく製造販売差止請求権の不存在確認を請求する部分に係る訴えは,不適法として却下すべきであり,その余の原審被告らの請求のうち,原審被告らが原判決別紙物件目録2記載の製品を製造販売することが,原審原告の前項記載の特許権を侵害する旨を,原審被告らの取引先その他の第三者に告知流布することの差止めを求める部分は,理由があるから認容し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであって,これと一部異なる原判決をそのように変更することとし,訴訟費用の負担につき民訴法67条,64条を適用して,主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 なお、今年出た『平成17(ワ)3668等 特許権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件 売掛代金等請求事件 特許権 民事訴訟 「印鑑基材およびその製造方法」 平成19年02月08日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070216171918.pdf)では、告知・流布の不正競争行為に過失ありと判断され、告知・流布行為が差止めされると共に、損害賠償が認められていますので、本事件については明日、ご紹介します。


 ともかく、特許権者は、特許になったとしても不用意に取引先などに警告等すると、後々大変なことになる可能性があるので、慎重な行動が必要かと思います。