●平成17(ワ)3668等 特許権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件

  本日は、昨日言いましたように、『平成17(ワ)3668等 特許権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件 売掛代金等請求事件 特許権 民事訴訟 「印鑑基材およびその製造方法」 平成19年02月08日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070216171918.pdf)について紹介します。


 本件では、被告の告知・流布行為が不正競争行為防止法1項14号の不正競争行為に該当すると判断されると共に、その告知・流布行為に過失ありと判断され、告知・流布行為が差止めされると共に、被告に対し損害賠償が認められています。




  つまり、大阪地裁(第26民事部 山田知司裁判長)は、

『5 告知・流布の差止請求権の存否(前記第4の5の争点)について

(1) 証拠(甲A5ないし8,11,乙A2)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 原告は,平成16年9月初旬ころ,トップエージェントとの間で,原告商品の販売に関する東京統括代理店契約を締結する交渉を行っていたところ,トップエージェントは,同月28日,東京サンシャインアルパ内のワゴンショップにおいて,原告商品の先行販売を開始した。


イ 被告P1は,被告会社の取締役会長であって,被告会社の対外的な取引等を担当しているが,上記ワゴンショップで原告商品が販売されているとの情報を得て,同被告の関係者3名と共に,平成16年10月31日,上記ワゴンショップを訪れ,原告商品が本件特許権(当時は出願中の権利)を侵害しているから販売を中止するようにと申し入れ,原告商品のような粗悪品を売るのだったら,被告会社の商品を売りませんかとも述べた。その際,被告P1は,自分が被告会社の会長である旨名乗っている。


ウ トップエージェントは,原告との間で東京統括代理店契約を締結することを決意し,平成16年11月1日,契約締結を予定していたが,上記イの事実に鑑み,原告と被告会社との間のトラブルに巻き込まれたくないと考えて,原告との上記代理店契約を白紙撤回することとし,その旨を原告に伝えた,


エ 被告らは,平成16年11月,原告ないし被告会社の取引先に対し,原告商品が本件特許権(当時は出願中の権利)の技術的範囲に属する旨を記載した文書を配布した。


(2) この点に関し,乙A第2号証には,被告P1の上記(1)イの言動を否定する記載がある。しかし,被告らは,平成16年8月24日付けで,代理人を通じて,原告の印鑑の製造及び販売行為が当時出願中の本件特許の技術的範囲に属する旨の警告書を原告に送付しており(甲A3),また,同年11月にも,原告ないし被告会社の取引先に対し,原告商品が本件特許権(当時は出願中の権利)の技術的範囲に属する旨を記載した文書を配布している。このように,被告P1は,同年10月31日の前後に,原告商品が本件特許の技術的範囲に属すると認識して,その旨外部に表明していたのである。そうである以上,原告商品を販売していることを知ってわざわざ前記ワゴンショップに出向き,その相手方(トップエージェント)と原告商品について話をしているのに,被告P1が,この時だけは,上記認識を表明しなかったというのは不自然であって,この点に関する乙A第2号証の記載は採用することができない。


(3) 以上の事実及び前記第3の前提となる事実によれば,原告と被告会社は,いずれも印鑑の製造販売をする会社であって競争関係にあり,被告P1は,被告会社の取締役会長であって,被告会社に対して本件特許権の独占的通常実施権を許諾しているから,原告と被告P1も競争関係にあるということができる。

 上記(1)イの被告P1が,原告と代理店契約を締結する予定であるトップエージェントに対し,原告商品が当時出願中であった本件特許権を侵害する旨告知すること及び上記(1)エの被告らが,原告ないし被告会社の取引先に対し,原告商品が当時出願中であった本件特許権の技術的範囲に属する旨流布することは,いずれも原告の営業上の信用を害する行為である。


 そして,前記3及び4のとおり,原告商品及び原告方法は,いずれも本件特許を侵害していないので,被告らが告知・流布した事実は虚偽であり,このような虚偽事実が告知・流布されると,原告の営業上の信用が害されるおそれがあることは明らかである。また,被告らは,原告商品及び原告方法が本件特許権を侵害するとして争っており,今後も,原告商品及び原告方法が本件特許権を侵害することを告知・流布するおそれがある。


(4) よって,原告は,被告P1に対し,原告商品の製造・販売等が本件特許権を侵害する旨を告知・流布することについての差止請求権がある。


6 告知による損害賠償請求権の存否とその額(前記第4の6の争点)について

(1) 前記5のとおり,被告P1が,トップエージェントに対し,原告商品の販売が本件特許権(当時は出願中の権利)を侵害する旨を告知することは,虚偽の事実の告知であって,原告の営業上の信用を害する事実の告知である。

 被告P1が上記の告知をした平成16年10月31日当時は,本件特許は特許出願中であって登録されてなかったので,被告P1は,本件特許権に基づく原告商品の販売についての差止請求権を有していなかったのに,原告商品の販売中止を申し入れた過失がある。さらに,原告商品のように市場で入手できる商品に関し,原告の取引先に対して,原告商品が本件特許権を侵害する旨告知する際には,原告商品を入手して分析し,検討した上で行うべきである。

 そして,原告商品を分析すると,内部に棒状体が存在し,シート体と棒状体の間隔が非常に狭く,本件明細書の実施例とは相当異なり,構成要件Cを充足するか否かに問題があることが分かるから,これについての十分に検討し,これを踏まえて「虚偽」とならないような方法を採る義務があった。ところが,証拠(乙A7)によれば,被告P1が原告商品を入手して分析したのは平成17年5月ころであって,平成16年10月31日までには原告商品を入手すらしておらず,ゆえに,原告商品の分析も行っていなかった過失があることが認められ,この過失により,被告P1は,上記虚偽の事実の告知に至ったものと認められる。


 したがって,上記の虚偽事実の告知行為により原告に生じた損害について,被告P1は,民法709条の不法行為責任を負う。また,被告P1の上記告知行為は,被告会社の事業の執行について行われたことは,前記5(1)に認定した事実から明らかであるから,被告会社は,被告P1の行為につき,民法715条の使用者責任を負う。


(2) 前記5(1)イのとおり,被告P1が,原告と代理店契約を締結する予定であったトップエージェントに対し,原告商品が当時出願中であった本件特許権を侵害する旨告知することにより,上記(1)ウのとおり,トップエージェントは,平成16年11月1日に締結する予定であった原告との代理店契約を白紙撤回することを決定し,その旨原告に伝えたのであるから,原告が,トップエージェントと代理店契約を締結できなかったことにより生じた損害は,上記の被告P1の虚偽事実の告知行為と因果関係がある損害である。


(3) 証拠(甲A5,9,11)によれば,原告は,トップエージェントと代理店契約を締結できなかったことにより,次のとおり,合計775万1200円の損害を被ったことが認められる。

ア 加盟金相当額600万円

 原告代理店契約書(甲A9)10条によれば,原告は,トップエージェントと東京統括代理店契約を締結することにより,トップエージェントから加盟金600万円を受領することができ,同金額については後にトップエージェントに対して返還する必要がないと認められるので,原告の損害は600万円である。

イ 印鑑(12ミリメートル)の得べかりし販売利益72万3750円

 原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントに対し,印鑑(12ミリメートル)を1本1100円で750本販売することになっていたこと,印鑑(12ミリメートル)の製造単価は135円であることが認められるので,原告の損害は72万3750円である。

ウ 印鑑(16ミリメートル)の得べかりし販売利益34万6250円

 原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントに対し,印鑑(16ミリメートル)を1本1575円で250本販売することになっていたこと,印鑑(16ミリメートル)の製造単価は190円であることが認められるので,原告の損害は34万6250円である。

エ 印鑑ケースの得べかりし販売利益2万5000円

 原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントに対し,印鑑ケースを1個700円で100個販売することになっていたこと,印鑑ケースの仕入れ単価は450円であることが認められるので,原告の損害は2万5000円である。

オ ディスプレイの得べかりし販売利益8万6200円

 原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントに対し,ディスプレイ一式を26万8400円で販売することになっていたこと,ディスプレイ一式の仕入価格は18万2200円であることが認められるので,原告の損害は8万6200円である。


カ 和風小物の得べかりし販売利益4万円

 原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントに対し,和風小物一式を10万円で販売することになっていたこと,和風小物式の仕入価格は6万円であることが認められるので,原告の損害は4万円である。

キ 研修費の得べかりし利益20万円

 原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントから研修費20万円を受領し,原告の従業員がトップエージェントの従業員に対し,研修を実施することになっていたことが認められるので,原告の損害は20万円である。

ク 備品一式の得べかりし販売利益33万円

 原告は,トップエージェントと代理店契約を締結することにより,トップエージェントに対し,備品一式(商品ポスター,広告用パネル,はさみ,やすり,チラシ,セロテープ,ボールペンなど)を35万円で販売することになっていたこと,備品一式の仕入価格は合計2万円以下であることが認められるので,原告の損害は33万円である。

ケ 原告は,地域保証金120万円について,

 原則として返還されないので,その全額が原告の損害となると主張するので検討する。


・・・省略・・・

 以上の次第で,地域保証金120万円については,上記契約書によっても原則として返還不要であったか否かが定かではないので,これが損害であるとする立証が不十分であるといわざるを得ない。


7 本件特許権侵害による損害賠償請求権の存否とその額(前記第4の7の争点)
について

 前記2,3のとおり,原告商品の製造販売は,本件特許権を侵害しないので,被告会社の原告に対する本件特許権侵害による損害賠償請求権はない。


8 相殺額の判断

 被告会社は,原告に対し,前記第3の7(5)のとおり,112万1610円の売掛金債権を有し,これを前記第3の7(3)(4)の各債権合計226万9765円と対当額で相殺することができる。被告会社が相殺の意思表示をしたことは前記第3の7(6)のとおりであるから,被告会社は,原告に対し,前記第3の7(3)(4)の各債権の相殺後の残額114万8155円について支払義務がある。


9 よって,本件の原告の請求は,主文第1項ないし4項の限度において理由があるから認容し,その余は理由がないからいずれも棄却し,主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。