●平成18(行ケ)10301審決取消請求事件 商標 「Dona Benta」

  今日は、『平成18(行ケ)10301 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「Dona Benta」平成19年05月22日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070524120815.pdf)について取上げます。


 本件は、商標法4条1項19号を理由とする商標登録無効審判の棄却審決の取消しを求めた事案で、原告の請求が認容された事案です。


 本件では、商標法4条1項19号の外国周知商標についての知財高裁の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 中野哲弘裁判長)は、


『3 本件商標の法4条1項19号該当性

(1) 原告商標の周知著名性について

ア 証拠(甲3〜10,16〜24,26,32,34,35)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(ア) 原告の属するジェイマセドグループは,ブラジル国において1939年(昭和14年)9月9日に創業され,その後,ブラジル国内において,小麦粉等の製粉,食品,飲料等,主として食品分野において事業を展開し,1979年(昭和54年)から,ブラジル国産ブランドの小麦粉として「Dona Benta」の商標を使用して販売を開始した。また,ジェイマセドグループは,1989年ころからはスーパーマーケットの買い物客等を対象に,「Dona Benta」の名前を付した料理教室を同国内で開設し,1990年代には,「Dona Benta」の商標を使用した製品を,ベーキングパウダー入り小麦粉,ケーキミックス,パスタ,製パン用粉に拡大した。(甲24,32,34,35)


 本件商標の出願がなされた平成10年〔1998年〕の時点で,原告は,小麦関連商品の製造販売においてブラジル国内で第2位,世界で第8位の会社であり,ブラジル国内の製パン店5万店のうち8000店が原告製品を使用している。1997年における原告の売上げは,6億米ドルであり,南米における食品産業における最も重要な50社のリストに上げられている。(甲18,32)


(イ) 原告は,1995年12月17日付けピラシカバジャーナル紙(甲15),ブラジリアンマガジン誌1996年9月号(甲16),ロジャス・デ・コンビニエンシア誌1998年11月号(甲21),スーペルハイパー誌1998年11月号(甲22),1997年付けジャーナル・ダ・パニフィカカウ紙(甲24)等の新聞や雑誌に「Dona Benta」商標を使用した広告を掲載している。


 また,アリメントスプロセサドス誌1998年5月号(甲18)には,原告を小麦関連商品の製造販売においてブラジル国内で第2位,世界で第8位の会社で,南米における食品産業における最も重要な50社のリストに挙げられたことなどを紹介する記事が,1998年9月18〜20日付けガゼットマーカンタイル紙(甲19)には,原告を1997年の売上げが合計6億4000万レアルのブラジル国最大の食品グループの一つであり,主要製品である「Dona Benta」商品は売上げの28%を占めていることなどを紹介する記事が,それぞれ掲載されている。


(ウ) なお,ジェイマセドグループは,ブラジル国内において次の登録商標を取得している。

・・・省略・・・

イ 以上の認定事実を総合すれば,原告ないしジェイマセドグループの「Dona Benta」商標は,ブラジル国内において,1979年(昭和54年)から原告ないしジェイマセドグループの業務に係る小麦粉等の商品を表示するものとして使用されるようになり,本件商標の出願がなされた平成10年〔1998年〕の時点で,原告は,小麦関連商品の製造販売においてブラジル国内で第2位の企業となり,その間,新聞や雑誌等において「Dona Benta」商標を使用した広告も行い,その業務を紹介する記事も新聞等に掲載されていたのであるから,遅くとも本件商標の出願時(平成10年〔1998年〕9月21日)までには,ブラジル国内で需要者の間に広く認識されるようになり,その周知性は,本件商標の登録査定時(平成11年11月5日,甲2)に至るまで継続していたものと認められる。


ウ 被告は,原告が提出する証拠は,そもそも真偽不明のものがあり,頒布販売に関する事実関係も全く示されていない等と主張する。


 しかし,上記アに引用した証拠が内容虚偽のものであることを疑わせる事情は全くうかがわれない。また,これらの新聞・雑誌等の頒布販売に関する具体的事実は必ずしも明らかではないが,広告,記事自体の体裁や,原告が小麦関連商品の製造販売においてブラジル国内で第2位の企業であること等にかんがみれば,ブラジル国内の広い範囲にわたって原告の広告がなされ,紹介等もなされてきたことが推認される。


 したがって,被告の指摘する点は原告商標の上記周知性の認定を妨げるものということはできない。


(2) 商標の類否について

 本件商標は「DonaBenta」から成るものであるのに対し,原告商標は「Dona Benta」の文字から成る商標であり,これらは,構成する欧文字に相応していずれも「ドナベンタ」の称呼を生じる。そして,本件商標と原告商標は,「Dona」と「Benta」の間に1字分のスペースを置くか否かの相違にすぎず,構成する欧文字は共通であるから,外観においても類似する。なお,「Dona Benta」は,ブラジル国においてはポルトガル語で「ベンタおばさん」という意味であり,同名の料理の本の題名として知られていることが認められるが(乙1,2,6の1),ポルトガル語についてなじみの薄い我が国においてそのように認識されると認めるに足る証拠はなく,「DonaBenta」ないし「Dona Benta」から,特定の観念が生じるものとは認められない。

 以上によれば,本件商標と原告商標は,称呼が同一であり,外観も類似するものであるから,本件商標は,原告商標に類似する商標と認められる。


(3) 不正の目的による使用について

ア 証拠(甲12,甲29,乙4,9,11,17,18。枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる

(ア) 被告は,神奈川県綾瀬市に事務所を置き,食品の製造販売等を業とする株式会社であり,被告旧会社を組織変更し設立したものであるが,食肉加工品,菓子類,パスタ,豆類,小麦粉等の食材を,主としてブラジル国食材専門店に対し販売している(以下,被告及び被告旧会社を単に「被告」という。)。


(イ) 被告のインターネット・ホームページ広告(甲12)には,「当社は,日本で働く日系ブラジル人向けに,食肉加工品などの食材を作り続けて10年の実績を持っております」(1/2頁第1段落),「DONA BENTA(ドナ・ベンタ):フェイジョアーダ,ハバーダ,スープなどブラジルの懐かしい煮込み料理をレトルトでブラジルのフォルクローレに登場する「ドナ・ベンタ」という料理のとても上手なおばさんをイメージして開発いたしました。…」(同頁第4段落)などと記載されている。

 また,被告の2005年4月版商品価格表(日本語)(甲29の5,乙4)のDonaBentaに関する説明(甲29の5の8枚目)には,「ブラジルの有名なレシピ本に「ベンタおばさんの料理」があります。そこで紹介されているのは,ブラジルの家庭で母親が娘に教えている,当たり前のブラジル料理。ラテン大和は,飾り気のない素朴なブラジル家庭料理を再現した商品をシリーズ展開しています」と記載され,「DonaBenta」の商標を使用したブラジル国料理の商品が多数掲載されている。


(ウ) 被告には,本願の出願(平成10年9月21日)前からブラジル国内の食品に関する事情に接している日系ブラジル国人の従業員が在籍している。


(エ) 被告は,平成10年9月21日,本件商標について登録出願(甲29の10,乙9)し,平成11年9月28日付け手続補正書(甲29の15,乙14)により指定商品の表示を一部補正し,平成11年11月5日付け登録査定(甲29の12,乙11)を経て,平成11年12月10日に設定登録(甲29の18,乙17)を受けた。


イ(ア) 原告の「Dona Benta」商標がブラジル国内において遅くとも本件商標の出願時(平成10年〔1998年〕9月21日)までには需要者の間に広く認識されていたものと認められることは上記(1)のとおりであるところ,上記アに認定したところによれば,被告は日本在住の日系ブラジル国人向けのブラジル国食品を製造販売していたものであり,上記出願時より前からブラジル国内の食品に関する事情に接している日系ブラジル国人の従業員が在籍していたのであるから,被告は,上記出願当時,「Dona Benta」が原告の業務に係る商品を表示する商標であることを認識していたものと認めるのが相当である。そして,被告が本件商標を使用する商品の主な需要者は,在日の日系ブラジル国人であり,原告商標の上記周知性にかんがみると,これらの需要者の多くは,原告ないしジェイマセドグループの業務に係る商品表示として原告商標を認識していること,及び,本件商標の出願当時,被告においてもこのことは認識していたものと推認される。

 そうすると,それにもかかわらず被告において,原告商標と極めて類似する本件商標をあえて採用し,登録出願したのは,ブラジル国において広く認識されている原告商標の名声に便乗する不正の目的をもってしたものと認めるのが相当である。


 被告従業員B作成の平成17年4月6日付け陳述書(甲29の2,乙1)には,「1 私は,日系ブラジル人で,株式会社ラテン大和の従業員です。平成10年2月に入社し,…現在マーケティング部の部長として食品の商品開発を行っています。仕事でブラジル国内の食品に関する情報にも接しております。2 ラテン大和で,1998年に「Dona Benta」という商標権を取得してレトルト食品に使用していますが,当時,ブラジルで「Dona Benta」という名称の商品があったことは知りませんでした…」と記載されているが,同陳述書は,被告の従業員が本件無効審判の証拠として提出するために作成されたものであり,本件商標の出願がなされた平成10年〔1998年〕9月の時点で,原告が小麦関連商品の製造販売においてブラジル国内で第2位,世界で第8位の会社であり,南米における食品産業における最も重要な50社のリストに挙げられていたことに照らすと,「当時,ブラジルで「Dona Benta」という名称の商品があったことは知りませんでした」との記載部分は,にわかに措信し難い。


(イ) また,被告は,「Dona Benta」とは,ベンタおばさんという意味で,著名な作家である「MONTEIRO LOBATO」の話の中に出てきた人物であり,ブラジル国おけるベストセラーの料理本(甲29の20,乙19)の題名も「DONA BENTA」であるから,「Dona Benta」は,原告商標が唯一の由来となっているものではなく,被告が本件商標を使用することは全く不自然なものではないと主張する。


 確かに,証拠(甲29の7,20〜22,乙6の1,乙19〜21)によれば,「Dona Benta」とは,ブラジル国では「ベンタおばさん」の意味であり,ブラジル国で1940年に初版が発行された料理本の書名は「DONA BENNTA」であり,これまで100万部以上が出版されているベストセラーであることが認められる。そして,上記(3)イのとおり,被告のインターネット・ホームページ広告(甲12)に「DONA BENTA(ドナ・ベンタ):フェイジョアーダ,ハバーダ,スープなどブラジルの懐かしい煮込み料理をレトルトでブラジルのフォルクローレに登場する「ドナ・ベンタ」という料理のとても上手なおばさんをイメージして開発いたしました。…」(1/2頁第4段落),2005年4月版商品価格表(日本語)(甲29の5,乙4)のDonaBentaに関する説明(甲29の5の8枚目)に「ブラジルの有名なレシピ本に「ベンタおばさんの料理」があります。そこで紹介されているのは,ブラジルの家庭で母親が娘に教えている,当たり前のブラジル料理。ラテン大和は,飾り気のない素朴なブラジル家庭料理を再現した商品をシリーズ展開しています」と記載されていることなどに照らせば,上記料理本の書名「DONA BENNTA」も,被告が本件商標を採用した理由の一つになっていることは否定できないかもしれない。


 しかし,被告は,前記のとおり,本件商標の出願当時,「DonaBenta」が原告の業務に係る商品を表示する商標であることをも認識していたと認められるのであるから,被告が本件商標を採用した理由の一つに上記料理本の存在があるとしても,本件弁論に顕出された一切の事情を考慮すると,このことが,原告商標の名声に便乗する不正の目的をもって本件商標を採用したとの上記認定を妨げるものということはできない。


(ウ) 被告は,本件商標の出願に際しては,その可否の調査及び登録手続を専門家である弁理士に依頼して誠実に行っており(乙6の1,2,乙7,8),原告商標へのただ乗りの意図は全くないとも主張する。


 しかし,被告が引用する上記乙6の1,2(被告がC国際特許事務所に送信した平成10年9月7日付けファックス送信書),乙7,8(商標調査報告書)によれば,被告は,本件商標の出願に際し,C国際特許事務所に依頼して,我が国内における「Dona Benta」に類似する商標の有無を調査したことが認められるが,原告商標はブラジル国において広く知られている商標であるものの我が国では商標登録されていないのであるから,被告が上記調査をしたとの事実は,被告が原告商標の名声に便乗する不正の目的をもって本件商標を採用したとの上記認定を何ら左右しない。


(エ) さらに,被告は,仮に原告商標がブラジル国内において一定の知名度があったとしても,複数の国で著名であるいうほどでもない商標に関しては,本件商標の出願時において,当該主体(原告)が当該商標の下で現に日本に進出中であるか,近々日本に進出することを計画しているということを出願人(被告旧会社)が認識していない限りは,法4条1項19号に該当することはないと主張する。


 しかし,法4条1項19号の「不正の目的」とは,同号括弧書きにあるように,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正な目的をいうのであり,これを被告主張のように限定して介さなければならない理由はない。そして,被告は,原告商標の名声に便乗する目的をもって本件商標を採用したことは上記認定のとおりであるところ,これが不正の利益を得る目的に該当することは明らかというべきであるから,被告の上記主張は採用できない。


(4) 小括

 以上に検討したところによれば,原告商標は,本件商標の出願時(平成10年〔1998年〕9月21日)及び登録査定時(平成11年11月5日,甲2)において原告の業務に係る商品を表示するものとしてブラジル国内で需要者の間に広く認識されていたものであるところ,本件商標は,原告商標と類似の商標であって,かつ,被告は,ブラジル国において広く認識されている原告商標の名声に便乗する不正の目的をもって本件商標を取得し使用をするものと認められる。


 したがって,本件商標は,法4条1項19号に違反するものといわなければならない。


4 結論

 そうすると,本件商標の法4条1項19号該当性を否定した審決の認定判断は誤りであり,審決は取り消しを免れない。


 よって,原告の本訴請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。   』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10003 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「電子ショッピングシステム」平成19年05月24日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070525133022.pdf
●『平成17(ワ)27193 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟「遊技機」平成19年05月22日 東京地方裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070525092517.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『SEDテレビの発売延期 キヤノン、特許訴訟で』http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007052501000473.html
●『キヤノン、SEDテレビの販売再延期 』http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070525AT1D2506Q25052007.html
●『キヤノン、SEDテレビ発売延期 特許訴訟が障害に 』http://www.sankei.co.jp/keizai/sangyo/070525/sng070525001.htm
●『キヤノン東芝SEDテレビの発売を「当面の間」見送り』
http://www.phileweb.com/news/d-av/200705/25/18493.html
●『NokiaQUALCOMMを逆提訴,「6件の特許を侵害された」』http://www.nikkeibp.co.jp/news/it07q2/534714/
●『NokiaQUALCOMMを特許侵害で逆提訴』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0705/25/news015.html
●『フィンランドNokia社が米QUALCOMM社に反訴,損害賠償と差し止めを要求』http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070525/133154/
●『NokiaQualcommを逆提訴 - 特許侵害問題は泥沼化の様相』http://journal.mycom.co.jp/news/2007/05/25/021/
●『Novell、「MSとの特許契約はオープンソースのためになる」と擁護』http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0705/25/news049.html
●『ソニー、「Blu-ray Disc」技術をめぐり訴えられる』http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20349557,00.htm