●平成12(ワ)290 特許権 民事訴訟「ホイールクレーン杭打機」

  受験生の皆様、明後日の弁理士一次試験、頑張ってください。


 さて、本日も権利濫用の抗弁が認められた『平成12(ワ)290 特許権 民事訴訟「ホイールクレーン杭打機」平成13年02月27日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C173FAFB1A8BA59549256ACA001C23DD.pdf)
について取上げます。


 本件は、特許出願前の公然実施があったと判断され、特許法29条1項2号の無効理由による権利濫用の抗弁が認められた事案です。


 つまり、大阪地裁は、


『1 争点3(2)(特許法29条1項2号違反に基づく権利濫用)について

 (1) 特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、審理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である(最高裁判所第3小法廷平成12年4月11日判決・民集54巻4号1368頁)。


(2)証拠(乙14ないし16、乙25の1、2、乙26の8)によれば、次の事実が認められる。


  ア 寺田組は、昭和51年1月30日、同52年3月28日、同年8月25日の3回にわたり、株式会社タダノから、TR−151型ラフタークレーンを1台ずつ合計3台購入し、鉄工所に勤務する澤博照に依頼して同ラフタークレーンにアースオーガー装置を取り付けるためのアタッチメントを製作させた。


 そして、寺田組は、同ラフタークレーン、アースオーガー装置、オーガースクリュー等からなるラフタークレーン搭載型杭打機を使用することにより、無振動・無騒音圧入工法(社内的には「アンギュラス工法」と呼んでいた。)による基礎杭打ち工事を、次の工事で行った(下記工事期間は、いずれも基礎杭打ち工事にかかる期間)。


  (ア) 昭和54年12月から昭和55年2月まで 神戸電鉄栄架道橋新設工事
  (イ) 昭和56年1月から同年3月まで 神戸電鉄藍那第4拱橋改築工事
  (ウ) 昭和56年12月から同57年2月まで 奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事


  イ 上記無振動・無騒音圧入工法のパンフレット(乙14)には、「ラフタークレーンの起伏シリンダーを利用した転石、岩盤掘削〈ロックオーガー〉」、「無振動・無騒音にてH鋼杭、PC杭、鋼矢板、鉄鋼矢板の施工ができます。」、「起伏シリンダーの圧入により、オーガーを強制掘進させるので転石、岩盤層での施工が可能です。」との記載がある。


 そして、同パンフレットには、同工法に用いるラフタークレーン搭載型杭打機の全体図が描かれており、それによれば、車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたラフター(ライン)クレーン(上記TR−151型)において、前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはオーガースクリューを備え、前記オーガースクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガー装置を設け、前記伸縮ブームの揺動中心点の近傍に油圧シリンダ装置の一端を枢着して設け、当該油圧シリンダ装置の他端を前記クレーン本体に枢着して設けたことを特徴とするラフタークレーン杭打機が記載されていることが認められる。


 また、同パンフレットには、上記ア(ウ)の工事現場の写真が掲載されており、そこには、オーガースクリューを地盤に押圧している途中の上記全体図と同一の構造を有するラフタークレーン杭打機が撮影されている。


 (3) 上記(2)イのパンフレットの記載及び同パンフレットの全体図及び写真には、アースオーガーの動きを支持するリーダーや、オーガースクリューを押圧するための埋設物及びワイヤーの存在は認められないことからすると、上記ラフタークレーン搭載型杭打機の油圧シリンダ装置は、アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために、伸縮ブームを牽引しラフタークレーン車の重量を用いてアースオーガー装置を強制的に押圧するものであると認められる。


 なお、被告は、上記第3、1【被告の主張】において、本件発明の「牽引装置」は、ブーム起伏機構とは異なる機構でなければならないと主張する。しかし、ブーム起伏機能を有する油圧シリンダ装置が、同時に、本件発明の牽引装置として要求される機能、すなわち、「アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために伸縮ブームを牽引しホイールクレーン車の重量を用いてアースオーガー装置を強制的に押圧する」という機能を有していれば、本件発明の「牽引装置」に当たるというべきである。


 したがって、上記ラフタークレーン搭載型杭打機の油圧シリンダ装置は、本件発明の「牽引装置」に該当するというべきである。


 そして、ラフタークレーンとホイールクレーン、オーガースクリューとスパイラルスクリューとがそれぞれ同義であることは、上記パンフレットの全体図及び写真から明らかであるから(オーガースクリューについては乙26の2も参照)、結局、上記ラフタークレーン搭載型杭打機は、本件発明の構成要件をすべて充足し、その技術的範囲に属するものであると認められる。


 しかるに、上記(3)ア記載のとおり、ラフタークレーン搭載型杭打機は、本件発明の出願日である昭和58年11月24日より前に、複数の基礎杭打ち工事において使用されていたのである。


 そして、上記パンフレットに掲載されている上記(3)ア(ウ)記載の工事現場写真によれば、同工事に使用されたラフタークレーン搭載型杭打機は不特定人がその使用状況を容易に知り得る状況の下で使用されていたものと認められる。また、施工時期は不明であるものの、上記パンフレットには、ラフタークレーン搭載型杭打機を使用した工事現場の写真が複数掲載されているところ、そのどの写真においても、ラフタークレーン搭載型杭打機を不特定人から見えないようにするための特別な措置をとっている工事現場があったとは認められないことからすれば、その他の上記(3)ア記載の工事においても、それらの工事に使用されたラフタークレーン搭載型杭打機は不特定人が知り得る状況の下で使用されたと認められる。


 そして、そのような状況で使用されたにもかかわらず、現実には不特定人に知られなかったことをうかがわせるに足る証拠はないから、ラフタークレーン搭載型杭打機は、本件発明の出願前に行われた上記(3)ア記載の工事で公然と使用されたというべきである。


 また、本件発明の内容からして、使用されているラフタークレーン搭載型杭打機を見た者は、そこから本件発明の内容を看取し得るから、ラフタークレーン搭載型杭打機が、本件発明の出願前に公然と使用されたということは、本件発明が、その出願前に公然と使用されたことを意味するというべきである。


 (4) 以上の事実からすれば、本件特許は、特許法29条1項2号の規定に違反してされたものであり、本件特許が無効であることは明らかであって(特許法123条1項1号)、無効審判請求がなされた場合には無効審決の確定により本件特許が無効とされることが確実に予見されるものというべきであるところ、本件においては特段の事情も認められないから、本件における原告による本件特許権に基づく請求は、権利の濫用として許されないものというべきである。


 したがって、原告の請求は、理由がないというべきである。


 2 よって、主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10520 審決取消請求事件 商標権「Indian Motorcycle」平成19年05月17日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070518160858.pdf
●『平成17(ネ)10119 特許権侵害差止等請求控訴事件「レンジフードのフィルタ装置」平成19年05月15日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070518140345.pdf
●『平成18(行ケ)10278 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「レンジフードのフィルタ装置」平成19年05月15日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070518132709.pdf
●『平成17(行ケ)10678 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「レンジフードのフィルタ装置」平成19年05月15日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070518134146.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『キヤノン、米Nano-Proprietary社とのSEDパネル特許訴訟で控訴』http://www.nikkeibp.co.jp/news/manu07q2/534024/
●『オープンソース特許問題、トーバルズ氏のリアクションは?』http://blogs.itmedia.co.jp/burstlog/2007/05/post_9ba8.html
●『MSの「FOSSが特許侵害」論、Googleの反応は』http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0705/18/news042.html
●『特許改革法案、下院知的財産小委員会を通過〜 制度改革に向けた一里塚、但し今後修正もあり得べし〜』(JETROhttp://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070516.pdf