●平成12(ワ)1064実用新案権 民事訴訟「作業用足場台事件」

   本日は、『平成12(ワ)1064 実用新案権 民事訴訟「作業用足場台事件」平成12年09月05日 大阪地方裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/9C660E19C149A14C49256A77000EC3E7.pdf)について紹介します。


 本件は、「キルビー最高裁事件」以後、下級審で出された権利濫用の抗弁により実用新案権侵害行為に対する差止等請求が認められなかった事案です。


 守秘義務のない取引相手への商品納入により公然実施(実用新案法3条1項2号)の特許無効の理由ありと判断されており、この点で参考になる事案かと思います。


 つまり、大阪地裁は、

『一 争点三及び五(権利濫用)について

1 実用新案登録の無効審決が確定する以前であっても、実用新案権侵害訴訟を審理する裁判所は、実用新案登録に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、審理の結果、当該実用新案登録に無効理由が存在することが明らかであるときは、その実用新案権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷平成一二年四月一一日判決・民集五四巻四号一三六八頁参照)。


 原告が、本件第一考案及び本件第三考案の出願前に、右各考案の実施品である「ダイバピッチGT一〇〇」及び「ダイバピッチGT一三〇」を村上商店に譲渡したこと(以下「本件譲渡」という。)については、当事者間に争いがなく、右譲渡に関し、村上商店が守秘義務を負っていたという事実を窺わせるに足る証拠はない。そうすると、本件第一考案及び本件第三考案は、その登録出願前に日本国内において守秘義務を負っていない者がその発明の内容を容易に知り得るような状態で実施された考案であって、「実用新案登録出願前に日本国内において公然実施をされた考案」であるから、平成五年法律第二六号による改正前の実用新案法三七条一項一号、三条一項二号により、その実用新案登録に無効理由が存在することが明らかであるというべきである。


2 原告は、原告と村上商店とは協力しあって販売活動を行い、村上商店と取引する販売店に対して原告が商品を直接納入するといった、協力関係にあったから、本件譲渡の際、村上商店は原告のために本件第一考案及び本件第三考案を秘密にすべき義務を負っていたと主張する。


 確かに、甲3の1ないし5(得意先元帳)によれば、原告は、村上商店との多くの取引において、同社が取引する販売店に対して、商品を直接納入していたことが認められるが、そのような営業上の関係から、直ちに、本件譲渡の際、村上商店は原告のために本件考案を秘密にすべき義務を負っていたとみることはできない。そして、その他の証拠によっても、原告と村上商店の関係が、単なる取引関係があるという以上に、原告の考案について村上商店が守秘義務を負うような親密ないし特別な関係にあったことを窺わせるに足る証拠はない。


 むしろ、甲3の1ないし5によれば、平成二年七月から原告と村上商店との取引が始まり、平成五年一月ころは、一か月約一五〇万円の取引があったことが認められるものの、甲8(損益計算書)によれば、原告の平成四年九月一日から同五年八月三一日までの当期製品売上高が一九億九三〇一万〇一二六円であり、当期商品売上高が七五一八万九六二四円であり、原告の全売上高のうち、村上商店との取引により生じる売上高が占める割合は、ごく一部にすぎないことが認められるのであって、このことからすると、原告と村上商店との関係は、単なるメーカーと問屋との関係にすぎなかったものと見るのが相当である。


 また、甲3の3によれば、原告は、他の取引と異なり、本件譲渡において、対象商品を村上商店に納入したと認められるが、原告は、このことをもって、右商品は、新製品として評価・検討してもらうために試供品として秘密裏に提供されたものであって、村上商店は守秘義務を負っていたと主張する。


 しかし、甲3の4によれば、原告は、平成五年二月四日にも、村上商店に対し、同社を納入先として、ダイバピッチGT一三〇を一台譲渡したことが認められる上、甲3の3の右取引においても、甲3の3、4に見られるその後の取引と同じ価格が請求されていることが認められるから、前記認定した原告と村上商店との関係に照らせば、本件譲渡を、原告が主張するような趣旨の譲渡とみることはできない。仮に原告の主張するように本件譲渡の趣旨が試供品の提供であったとしても、それは、原告が取引先である村上商店に対し、自社の新商品を紹介する趣旨であったと見るのが合理的であり、村上商店が守秘義務を負うような取引でなかったみるのが相当である。


3 以上の事実によれば、本件実用新案権に基づく、原告の被告に対する差止請求及び損害賠償請求は、権利濫用に当たり許されない。

二 よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。   」

と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。



 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10241 審決取消 特許権 行政訴訟「貝類中間育成篭」 平成19年05月16日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070516150908.pdf



 追伸2;<気になった記事>

●『米マイクロソフトオープンソースのソフトは特許侵害と主張』http://www.thinkit.co.jp/free/news/reuters/0705/16/6.html
●『「Linuxが特許侵害というMicrosoftの主張はFUD,根拠のない脅し」とオープンソース陣営』http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070516150908.pdf
●『訴訟よりもイノベーションで対応を――Sun CEOが「オープンソース対策」でコメント』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0705/16/news025.html
●『SPのUTACと半導体技術でクロスライセンス契約=米アムコア〔BW〕』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070516-00000084-jij-biz
●『日亜化学白色LED関連特許をスタンレー電気にライセンス供与』http://www.nikkeibp.co.jp/news/manu07q2/533744/
●『スタンレー電気日亜化学工業と白色LEDで提携』http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20070515AT1D1408D14052007.html
●『米国際貿易委員会、米テセラの特許侵害の申し立てで調査』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070516-00000887-reu-bus_all
●『<医療費>後発医薬品の利用で年間1.26兆円削減 財務省http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070516-00000109-mai-pol
●『「安易なコンテンツ流通」より「まず文化の保護を」――権利者団体が提言』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0705/16/news104.html
●『次世代高速無線 携帯事業者排除に各社反発』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0705/16/news035.html
●『平成18年度 特許出願技術動向調査の結果について−Part.4 情報通信−「高記録密度ハードディスク装置」「電子写真装置の全体制御技術」「最新スピーカ技術−小型スピーカを中心に−」「リコンフィギャラブル論理回路」』(特許庁)
http://www.jpo.go.jp/torikumi/puresu/puresu_18doukouchyousa4.htm