●知財高裁大合議事件から想定される方法発明の間接侵害の及ぶ範囲

  大それた題をつけてしまいましたが、まず「一太郎事件」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/4AC9E8ED0D080C574925710E002B12CE.pdf)では、方法発明の間接侵害の及ぶ範囲として、


『(3) 本件第3発明についての特許法101条4号所定の間接侵害の成否

 前記1のとおり,「控訴人製品をインストールしたパソコン」について,利用者(ユーザー)が「一太郎」又は「花子」を起動して,別紙イ号物件目録又はロ号物件目録の「機能」欄記載の状態を作出した場合には,方法の発明である本件第3発明の構成要件を充足するものである。そうすると,「控訴人製品をインストールしたパソコン」は,そのような方法による使用以外にも用途を有するものではあっても,同号にいう「その方法の使用に用いる物・・・であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するものというべきであるから,当該パソコンについて生産,譲渡等又は譲渡等の申出をする行為は同号所定の間接侵害に該当し得るものというべきである。しかしながら,同号は,その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産,譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであって,そのような物の生産に用いられる物を製造,譲渡等する行為を特許権侵害とみなしているものではない。本件において,控訴人の行っている行為は,当該パソコンの生産,譲渡等又は譲渡等の申出ではなく,当該パソコンの生産に用いられる控訴人製品についての製造,譲渡等又は譲渡等の申出にすぎないから,控訴人の前記行為が同号所定の間接侵害に該当するということはできない。


 ちなみに,前記(1)のとおり,既に,特許庁は,平成9年2月公表の「特定技術分野の審査の運用指針」により「プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」について,また,平成12年12月公表の「改訂特許・実用新案審査基準」により「プログラムそのもの」について,それぞれ特許発明となり得ることを認める運用を開始しており,また,平成14年法律第24号による改正後の特許法においては,記録媒体に記録されないプログラム等がそれ自体として同法における保護対象となり得ることが明示的に規定されている(同法2条3項1号,4項参照,平成14年9月1日施行)。このような事情に照らせば,同法101条4号について上記のように解したからといって,プログラム等の発明に関して,同法による保護に欠けるものではない。  』

と判示しています。


 つまり、一太郎事件」では、知財高裁は、方法発明の間接侵害の効力は、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産,譲渡等する行為には及ぶものの,そのような物の生産に用いられる物を製造,譲渡等する行為には及ばない、と判示しています。




 また、もう一つの知財高裁大合議事件である「インクカートリッジ事件」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/3F833955B41D23F64925710700290024.pdf)では、方法特許発明の間接侵害の及ぶ範囲として、


『ウ 方法の使用について

 特許法2条3項2号の規定する方法の発明の実施行為,すなわち,特許発明に係る方法の使用をする行為については,特許権者が発明の実施行為としての譲渡を行い,その目的物である製品が市場において流通するということが観念できないため,物の発明に係る特許権の消尽についての議論がそのまま当てはまるものではない。しかしながら,次の(ア)及び(イ)の場合には,特許権に基づく権利行使が許されないと解すべきである。


 ・・・省略・・・


(イ) また,特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が,特許発明に係る方法の使用にのみ用いる物(特許法101条3号)又はその方法の使用に用いる物(我が国の国内において広く一般に流通しているものを除く。)であってその発明による課題の解決に不可欠なもの(同条4号)を譲渡した場合において,譲受人ないし転得者がその物を用いて当該方法の発明に係る方法の使用をする行為,及び,その物を用いて特許発明に係る方法により生産した物を使用,譲渡等する行為については,特許権者は,特許権に基づく差止請求権等を行使することは許されないと解するのが相当である。


 その理由は,(i) この場合においても,譲受人は,これらの物,すなわち,専ら特許発明に係る方法により物を生産するために用いられる製造機器,その方法による物の生産に不可欠な原材料等を用いて特許発明に係る方法の使用をすることができることを前提として,特許権者からこれらの物を譲り受けるのであり,転得者も同様であるから,これらの物を用いてその方法の使用をする際に特許権者の許諾を要するということになれば,市場における商品の自由な流通が阻害されることになるし,(ii) 特許権者は,これらの物を譲渡する権利を事実上独占しているのであるから(特許法101条参照),将来の譲受人ないし転得者による特許発明に係る方法の使用に対する対価を含めてこれらの物の譲渡価額を決定することが可能であり,特許発明の公開の代償を確保する機会は保障されているからである(この場合には,特許権者は特許発明の実施品を譲渡するものではなく,また,特許権者の意思のいかんにかかわらず特許権に基づく権利行使をすることは許されないというべきであるが,このような場合を含めて,特許権の「消尽」といい,あるいは「黙示の許諾」というかどうかは,単に表現の問題にすぎない。)。』

 と判示しています。


 つまり、「インクカートリッジ事件」では、知財高裁は、方法発明の間接侵害の効力は、専ら特許発明に係る方法により物を生産するために用いられる製造機器や、その方法による物の生産に不可欠な原材料等には及ぶ、と判示しています。


 以上の2つの大合議事件からすると、知財高裁は、101条4項、5項の方法発明の間接侵害については、あくまで単純方法発明や製造方法発明自体を実施する装置や製造装置、その製造方法発明の実施に必要な原材料(※製造方法発明でいう「出発物質」ではないかと考えます。)等を保護しているものと考えているようです。


 よって、知財高裁における方法発明の間接侵害の効力が及ぶ範囲を考えると、方法発明の効力範囲は、間接侵害によりその物の生産に用いる部品等までも保護される可能性がある物の特許発明の効力範囲より狭いように思われますが、製造方法発明の場合、その製造方法発明の実施に必要な原材料(出発物質)等にも間接侵害が及ぶ場合があるという考えは従来なかったように思われ、この点においては効力範囲が拡がったような感を受けますし、製造装置発明の場合、製造物やその製造装置の実施に必要な原材料(出発物質)等には効力が及ばないので、製造物やその製造装置の実施に必要な原材料(出発物質)等には効力が及ば場合がある製造方法発明は、製造装置発明と合わせると、強固な権利のとり方が可能になるのでは、と思います。


 特に、化学分野や製薬分野における製造方法発明の場合、その製造物だけでなく、その製造方法発明の実施に必要な原材料等にも効力が及ぶ場合があるとすると、製造物自体の発明や、製造装置発明と合わせると、とても強い権利になるのではと思います。


 
 追伸;<気になった記事>

●『特許庁、特許審査着手見通し時期照会の対象拡大』
http://news.braina.com/2007/0508/move_20070508_001____.html
●『キヤノンが年初来最高値更新、米国におけるSED関連訴訟の公判審理が終了』http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read?f=200705071401
●『キヤノンと米ナノ社のSED 特許訴訟 公判審理が終了』http://www.phileweb.com/news/d-av/200705/07/18348.html
●『キヤノンSEDの特許技術をめぐる米社との訴訟の公判審理が終了』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=1328
●『SED特許訴訟で公判審理が終了、「Nano社は損害を被ってない」』http://www.nikkeibp.co.jp/news/manu07q2/532876/
●『キヤノン、次世代薄型テレビの世界販売を視野=内田社長』http://www.thinkit.co.jp/free/news/reuters/0705/08/2.html
●『「米国外で製造のWindowsMicrosoftに特許侵害の責任無し」,最高裁が判断』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070507/270017/
●『中国の専門家と提携。チャイナビジネス・サポートセンターを開設 業務提携』http://pressrelease-jp.com/press/10076/20070508/
●『米国国際貿易委員会(ITC)トヨタ社ハイブリッド・システムに「シロ」の最終決定』(JETROhttp://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070501_3.pdf
●『USPTO が制度調和に関し意見募集を開始』(JETROhttp://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070504.pdf
●『模倣品被害の実態』(特許庁
http://www.jpo.go.jp/torikumi/mohouhin/mohouhin2/jittai/jittai.htm
●『特許審査着手見通し時期照会について』(特許庁
http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/search_top.htm