●平成18(行ケ)10281 審決取消請求事件 特許権「取引可否決定方法

  本日は、『平成18(行ケ)10281 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「取引可否決定方法,取引可否決定システム,中央装置,コンピュータプログラム,及び記録媒体」平成19年04月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070501112046.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決に対する取消を求めた訴訟で、原告の請求が認容され、拒絶審決が取消された事案です。


 本件では、審決で初めて引用した周知技術を示す引用文献等に対し新たに拒絶理由を通知せず反論の機会を与えずに拒絶の審決をしたため、手続き上の瑕疵に違法性があると判断され、拒絶審決が取消されました。



 つまり、知財高裁(第4部 塚原朋一裁判長)は、

『・・・

 審決の上記推論は,本件補正発明1が引用例1に記載された発明と対比した場合に有する相違点2の構成について,審決において初めて挙示した特定の周知技術を引用例として用いて行ったものというべきであり,周知技術を単に当業者の技術水準を知るためなどに補助的に用いたものということはできない。


(3) 引用例1に記載された発明に基づく容易想到性

ア 引用例1(甲1)には,次の記載がある。

・・・省略・・・

 そうすると,引用例1には,取引可否の審査に必要なデータを2つ以上のデータに分割してACAPS処理システム26に送信して順次審査,承認決定の処理を開始することについて,記載も示唆もないといわざるを得ない。


ウ したがって,当業者は,審決が認定したような特定の業務処理の手法を具体的に示されないで,引用例1の記載に接しただけの場合又は引用例1の記載のほか不特定の周知技術を参酌することが許されるとされるだけの場合には,引用例1に記載された発明について,「端末装置から中央装置に人物情報を送信する際に,第1人物情報と第1人物情報とは異なる第2人物情報との2つの人物情報に分けて送信して順次処理を開始し進行させていき,最後に第1人物情報の処理結果と第2人物情報の処理結果とに基づいて結果を通知する」ことを想到することは考え難いものといわなければならない。


エ また,「業務の中で,一方の部署から,他方の部署へ書類を送付し,他方の部署で審査処理を行う場合に,その処理に要する時間を短くするために,一方の部署でできあがった書類を順に他方の部署に送付し,他方の部署では,それらの書類を順次受け取って処理を順次開始し進行させていき,最後に順次進行させた処理の
総合的な結果に基づいて承認するか否かの結果を示す」との技術は,審決で認定したように周知技術であるとしても,審決は,特許法29条1,2項にいう刊行物等に記載された事項から容易想到性を肯認する判断過程において参酌するような周知技術として用いているのではなく,むしろ,審決の説示に照らすならば,実質的には,上記周知技術を容易想到性を肯認する判断の核心的な引用例として用いているといわざるを得ない。


(4) 本件補正発明1における相違点2に係る構成の重要性

 甲4ないし6によれば,本件補正発明1が引用例1に記載された発明と相違する「人物情報の入力及び送信を分割して並行処理する」という構成は,本願の当初明細書においても,また,その後に提出された補正書等においても,出願人である原告が一貫して強調してきた最も重要な構成の一つであり,かつ,上記の本件審査及び審判手続においても明らかなように原告が強い関心を示して審査及び審判で慎重な審理判断を求めた構成であることが優に認められるところである。他方,本件審査及び審判手続では,審査官及び審判官が,この構成が進歩性を有するか否かに対し必要な関心と思慮をもって審理し,判断したかについては,既に検討したように,遺憾ながらその痕跡を窺い知ることは困難である。


 以上のような推移の下に,審決は,その後,拒絶理由通知では挙示しなかった甲3が上記構成を相当程度に開示していると考えるに至り,改めて拒絶理由通知をすることなく,唐突に甲3に開示された周知技術を引用例として用いたものと推認される。


(5) 審決の違法性

 以上検討したように,審決が認定した「業務の中で,一方の部署から,他方の部署へ書類を送付し,他方の部署で審査処理を行う場合に,その処理に要する時間を短くするために,一方の部署でできあがった書類を順に他方の部署に送付し,他方の部署では,それらの書類を順次受け取って処理を順次開始し進行させていき,最後に順次進行させた処理の総合的な結果に基づいて承認するか否かの結果を示すこと」は,たとえ周知技術であると認められるとしても,特許法29条1,2項にいう刊行物等に記載された事項から容易想到性を肯認する推論過程において参酌される技術ではなく,容易想到性を肯認する判断の引用例として用いているのであるから,刊行物等に記載された事項として拒絶理由において挙示されるべきであったものである。

 
 しかも,本件補正発明1が引用例1に記載された発明と対比した場合に有する相違点2の構成は,本願発明の出願時から一貫して最も重要な構成の一つとされてきたのであり,出願人である原告が,審査及び審判で慎重な審理判断を求めたものであるのに,審決は,この構成についての容易想到性を肯認するについて,審査及び審判手続で挙示されたことのない特定の技術事項を周知技術として摘示し,かつ,これを引用例として用いたものであるから,審判手続には,審決の結論に明らかに影響のある違法があるものと断じざるを得ない。


 したがって,拒絶通知をした理由と異なる理由に基づいてされた措置が原告の防御の機会を与えなかったなどとして違法であるとする取消事由2は,上記の趣旨を主張するものとして理由があるものというべきである。


第5 結論

 よって,原告主張の取消事由2は理由があり,審決は取消しを免れない。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 追伸1;<気になった記事>

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http://www.chosunonline.com/article/20070505000000
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