●平成18(行ケ)10523 審決取消請求事件 商標権 JACKS SURF BOARDS

 本日は、『平成18(行ケ)10523 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「JACKS SURF BOARDS」平成19年04月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070426152811.pdf)について取上げます。


 本件は、商標法50条1項の不使用取消審判の取消審決の取消を求めた訴訟で、原告の請求が棄却された事案です。


 本件では、原告が提出したパンフレットやメール等では登録商標の使用と認められなかった点で、参考になる事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 飯村敏明 裁判長)は、


『1 各使用商標の使用の事実及び本件商標との同一性について


 当裁判所は,本件訴訟における全証拠によっても,本件審判請求登録前3年以内に商標権者,専用使用権者又は通常使用権者が,取消請求に係る指定商品について,本件商標を使用したことを認めることはできず,審決には事実認定を誤った違法はないと判断する。その理由は,以下のとおりである。


(1) 本件展示会における本件商標の使用について

ア 本件展示会の開催の有無


 原告は,本件展示会において,その案内パンフレット(甲1)に使用商標1を記載し,これを使用し,また,使用商標2及び3を付したメッシュキャップ(甲2)を展示して,これを使用したと主張する。


 しかし,原告の提出した各証拠によって,原告主張に係る本件展示会が開催された事実を認定することはできないし,仮に何らかの展示会が実施されたことがあったとしても,使用商標1を記載した案内パンフレットが配布された事実及び使用商標2及び3を付したメッシュキャップが展示された事実を認定することはできない。


 まず,原告は,展示会のパンフレットであるとして,甲1を提出する。甲1は,A4版1枚のチラシ,ビラ様の印刷物であって,記載内容をみると,上から順に・・・と記載されている。


 また,原告は,原告主張に係る展示場を訪れた顧客の陳述内容を記載したものとして甲3(有限会社アクティブ・ジェネレーション取締役三上哲生名義の陳述書と題する書面)を提出する。同書面には,展示場で展示会が開催されたこと,同人が展示場を訪れたこと,甲1のパンフレットはそのときに頒布されたものであること「Jacks Surf」を表示した布製手提げ,バッグ及び「Jacks Surfbosrds」を表示した帽子(メッシュキャップ)が展示されていたことの記載があり,さらに同陳述書面には,上記の印刷物の写し,展示物の写真等が添付されている。


 しかし,甲1には,以下のような不自然な点がある。すなわち,原告は,展示会場においてパンフレットとして頒布したものであると主張する(甲3の陳述書においてもそのように陳述されている)が,甲1は,印刷物の性質,記載内容に照らして,顧客,取引先に配布するパンフレット類には見えないのみならず,会場を訪れた顧客に配布する印刷物であるならば,何故,開催場所の地図が大きく表示されているのか疑問がある。


 また,仮に,甲1が,事前に顧客等に頒布する目的で印刷されたものであると理解した場合には,そもそも,どのような商品を展示,販売しようとしているかに関する情報が全く盛り込まれていない点で不自然であること,アニメの「東映」,お菓子の「ロッテ」等の商品の一般名称等が並べて表記された上で,結びとして「様々な意味での『新しい』商品を取り揃えております」との記載がされている点でも,その内容が,宣伝広告,商品案内としての体裁を備えていないこと,さらに,甲1の中央枠内に,右側に「白雪をはじめとした日本酒T,泡盛T,焼酎T,ダッコちゃん,こえだちゃんゲイラカイト‥‥‥」等の商品の一般名称が列挙されている一方で,その左側に,使用商標1が,付された商品との関連性がなく,唐突に表示されているがこのような配列がされる合理性に乏しいこと等,甲1には社会通念に照らして営業活動の過程で用いられるものとしての不自然な点が多い。


 次に,原告は,展示会において,使用商標2及び3を付したメッシュキャップと同種のメッシュキャップを後日撮影した写真であるとして,甲2を提出する。しかし,甲2(写真)中のメッシュキャップ(左側に配置された商品)は,甲5(原告は,20種類の商品見本データであり,20種類単位で取引の対象にすると主張する)のいかなる商品にも含まれない。ものであって(色彩の点で異なる,見本データにない商品を展示会に。)出品したというのも不自然であるし,使用商標2及び3が甲1(パンフレット)に記載された使用商標1と異なるのも理解し難い。


 本件展示会については,事前の準備状況,会場及び他の展示物の状況,展示会開催に関する新聞,雑誌等への広告状況,来場者数,従業員やアルバイト・スタッフに対する指示文書,展示会場の写真等一切の証拠が提出されていないなどの弁論の全趣旨を総合勘案すると,原告主張に係る本件展示会が開催された事実を認定することは到底できず,また,仮に何らかの展示会が実施されたことがあったとしても,使用商標2及び3を付したメッシュキャップが展示されたとの事実を認定することはできない。


 なお,使用商標2,3を付したメッシュキャップを本件展示会おいて展示した旨の原告の主張に関しては,甲2の1,2は,原告の自認するとおり,本件審判請求登録後に原告会社従業員によって撮影されたものであるから,同証拠によって当該メッシュキャップが本件展示会に展示された事実を認め得るものではなく,その他,これを認めるに足りる証拠は提出されていないから,展示の事実を認めることはできない。


 以上のとおり,本件展示会の開催の事実,展示の事実を認めることができないので,原告の主張は失当である。


イ 本件商標と使用商標1との同一性

 なお,念のため,本件商標と原告が使用したと主張する使用商標1についての同一性について判断する。
 

 本件商標は別紙商標目録記載のとおり「JACKS SURF」の英文字と「BOARDS」の英文字(標準文字)を同じ大きさの同じ書体で二段に横書きにしてなるものである。本件商標は「JACKS SURF BOARDS」全体,又は「JACKS SURF」と「BOARDS」の2つの部分からなるものと解され,見る者の目をひく部分は,「JACKS SURF BOARDS」又は「JACKS SURF」の部分である。これらの部分からは「ジャックスサーフボード」又は「ジャックスサーフ」の称呼を生ずる。


 これに対し,使用商標1は,太い線描いた菱形図形の内部に,白抜きの大きなデザイン文字で「JACKS」と横一列に表記され,その下部にようやく読みとれる程度の小さな文字で「SURFBOARDS」と横一列に表記されたものである。使用商標1は,その外観において,本件商標と著しく異なるものであり,また,見る者の目をひくのは白抜きの大きなデザイン文字で「JACKS」と横一列に書した部分であるから,これにより「ジャックス」の称呼を生ずる。そうすると,使用商標1は,本件商標と外観及び称呼において相違するものであって(仮に何らかの観念を生じ得るとすれば,観念も異なる。),本件商標と社会通念上同一とは認められない。


(2) コックスに対して販売した商品における使用

ア コックスへの商品販売の有無


 原告は,コックスに対して使用商標2ないし4を付したメッシュキャップを販売したと主張し,その事実を示す証拠として,甲4ないし甲7を提出する。


 しかし,これらの証拠によっては,原告が平成16年4月末頃にコックスに対して使用商標2ないし4を付したメッシュキャップを販売した事実を認めることができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。


 まず,甲4は,その成立が真正であるか否かはさておき,その記載内容に照らすならば,コックスから原告あてに発行された仕入伝票であって,・・・これからは,商品コード「00389001」の商品が, 平成16年4月21日に発注され,同月27日に納品されたことがうかがえるものの,同伝票には当該商品に付されていた商標,すなわちメッシュキャップのワッペンの図柄に関する事項は一切記載されていない。


 また,原告は,上記商品コード「00389001」の見本データとして甲5を提出し,同号証には使用商標2ないし4と同一のワッペンを付したメッシュキャップが掲載されているから,甲4により示された平成16年4月21日発注に係る取引の対象となった商品は,使用商標2ないし4を付したメッシュキャップであったことが明らかであると主張する。しかし,甲5は,単に16種類の色彩・縫製等のメッシュキャップ本体に9種類の構成・色彩のワッペンを組み合わせた,合計20種類のメッシュキャップの図柄を掲載したA4版一枚の印刷物であって,その右上に「#00389001」の表記はあるものの,それ自体には,印刷物の用途,作成者,作成日時等は一切記載されておらず,誰が何の目的で作成し,どのような態様で保管されていたものであるのかは一切不明である。そして,甲5の作成等の事情についてうかがい知ることのできる証拠は,一切提出されていないから,当該書証により,平成16年4月における原告とコックスの取引の対象となった商品の態様を認定することはできない。

 さらに,原告は,平成16年9月3日に,当時,使用商標3を付した原告商品(甲4)についてコックスから購入した顧客から,同商品のツバの部分にマチ針が刺さっていたとのクレームがあったため,同事故に関するクレームを受けたことがあり,その経緯によれば,原告がコックスに対して使用商標3を付したメッシュキャップを販売していた事実が明らかであると主張し,その証拠として,コックスの従業員である今岡良宏から原告の従業員である野田にあてて送信された電子メール(甲6)及び当該電子メールに添付されたマチ針が刺さったメッシュキャップを撮影した写真(甲7)を提出する。



 しかし,・・・電子メールの本文には,添付メールを送信したこと,メッシュキャップの写真に関する説明が一切ないこと等の点において,その文章の表現振りは,取引者間で生じた事故に関するクレームを記載したメールとしては,極めて不自然である。電子メール作成日は,作成者が使用するコンピュータで設定した日時に依存して記録されるものであるから,日時を改ざんすることが容易であり,また,送受信が完了した電子メールの内容を改ざんすることも容易であるから,電子メールの作成日等の記載は,当該日時に当該内容のメ ールの送受信が行われたことを証明する客観的な証拠にはならない。


 ・・・省略・・・


 以上のとおり,原告が,平成16年4月末ころ,使用商標2ないし4を付したメッシュキャップを,コックスに対して販売した事実を認めることができないので,原告の主張は失当である。


イ 本件商標と使用商標4との同一性

 なお,念のため,本件商標と原告が使用したと主張する使用商標4についての同一性について判断する。


 使用商標4は,略楕円形の図形の内部に略十字の図形,略十字の右下に大きな「JACKS」の英文字,右上に小さな「HANTINGTON」の英文字,左下に小さな「SURFBOARDS」の英文字が配置されたものであり,その外観において本件商標と著しく異なる。使用商標4において,見る者の目をひくのは,商標全体又は十字の右下に大きな英文字で「JACKS」と記載された部分であり「ジャックス」のみの称呼,又,はこれに加えて「サーフボーズ」及び「ハンティングトン」の称呼を生ずることはあるものの「ジャックスサーフボード」又は「ジャックスサーフ」の称呼を生ずることはない。そうすると,使用商標4は,本件商標と外観及び称呼において相違するものであって(仮に何らかの観念を生じ得るとすれば,観念も異なる。),本件商標と社会通念上同一と認められない。


2 審判手続における手続上の瑕疵について


 原告は,審判手続において被告(請求人)の提出した審判事件弁駁書に対して答弁する機会を与えられなかった点に,手続上の瑕疵があると主張する。


 しかし,審判手続において,相手方当事者の主張立証に対して反駁の機会を与えるかどうかは,特段の事情のない限り,審判官の裁量にゆだねられているものであり,本件審判手続において,被告(請求人)が平成18年7月3日付けで特許庁に提出した審判事件弁駁書に対して,原告が反論する機会を与えられなかったとしても,そのことから直ちに審判手続に違法があったということはできないし,特段の事情の主張,立証もない。また,原告(被請求人)が審判手続において提出した乙2(本件訴訟における甲2)等に関して,審判長から釈明等がなかったことも,もとより審判手続上の瑕疵に当たらない。


3 結論


 以上によれば,本件における全証拠に照らしても,結局,本件商標については,本件審判請求登録前3年以内に商標権者,専用使用権者又は通常使用権者がこれを使用したことについて,原告による証明がないことに帰するから,本件商標の登録を取り消すべきものとした審決の認定判断に誤りはなく,また,審判手続に原告主張の手続上の瑕疵も認められない。原告の主張する取消事由には理由がなくその他審決にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。

 よって,主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10499 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟『無線式ドアロック制御装置』平成19年04月25日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070426153727.pdf
●『平成17(行ケ)10680 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「投入紙幣識別機構を有する自動販売機』平成19年04月25日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070426153727.pdf
●『平成18(行ケ)10523 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「JACKS SURF BOARDS」平成19年04月25日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070426152811.pdf
●『平成18(ネ)10088等 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「分割型漏れ電流測定器」 平成19年04月25日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070426151107.pdf
●『平成17(行ケ)10751 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「耐応力亀裂性難燃性ポリカーボネート/ABS成形コンパウンド」平成19年04月25日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070426133454.pdf
●『平成18(行ケ)10335 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「抗アレルギー効果増強製造法及び本法を用いて製造された機能性飲食品」平成19年04月25日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070426115013.pdf

追伸2;<気になった記事>

●『華立通信:特許侵害でサムスンを提訴、5月にも開廷か』http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0428&f=it_0428_003.shtml
●『【中国】華立通信:特許侵害でサムスンを提訴、5月にも開廷か』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070428-00000005-scn-cn
●『情報技術の特許取引センター、上海に設立 国が認定』http://www.asahi.com/international/jinmin/TKY200704280177.html
●『情報技術の特許取引センター、上海に設立 国が認定』http://www.people.ne.jp/2007/04/27/jp20070427_70569.html