●平成18年(ネ)第10007号損害賠償請求控訴事件「図形表示装置事件(2)

  今日は、昨日取上げたゲームボーイアドバンス事件(GBA事件)である『平成18(ネ)10007 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 「図形表示装置及び方法」平成18年09月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060929110516.pdf)中で引用されていた2つの最高裁判例について取上げます。


 まず、『昭和50(オ)54 実用新案権 民事訴訟 昭和50年05月27日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070313182303.pdf)は、オール事件と呼ばれる事件で、


『            主文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。
             理由
 上告代理人新長巖の上告理由について。

 実用新案の技術的範囲は、実用新案法二六条は特許法七〇条を準用しているから、登録請求の願書添付の明細書にある登録請求の範囲の記載に基づいて定められなければならないのであるが、右範囲の記載の意味内容をより具体的に正確に判断する資料として右明細書の他の部分にされている考案の構造及び作用効果を考慮することは、なんら差し支えないものといわなければならない。そして、本件登録実用新案の構造及び作用効果に関する原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む)挙示の証拠及びその説示に照らし、首肯することができ、これによれば、本件登録実用新案の所論技術的範囲に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官高辻正己
裁判官関根小郷
裁判官天野武一
裁判官坂本吉勝
裁判官江里口清雄 』


というものです。


 本最高裁判決は、「オール事件」ですね。


  次に、『平成10(受)153 医薬品販売差止請求事件 特許権 民事訴訟 平成11年04月16日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/AB240DD41982AA3C49256D2700058227.pdf)は、


『             主文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。    
              理由

 上告代理人高坂敬三、同夏住要一郎、同鳥山半六、同岩本安昭、同阿多博文、同田辺陽一の上告受理申立て理由について


一 本件訴訟は、化学物質及びそれを有効成分とする医薬品についての特許権を有していた上告人が、被上告人において、右特許発明に係る医薬品と有効成分、分量、用法、用量、効能、効果等が同一の医薬品(以下「被告製剤」という。)につき薬事法一四条所定の製造承認申請書に添付すべき資料を得るのに必要な試験を行うため、右特許権の存続期間中に被告製剤を生産し、使用した行為が右特許権の侵害に当たるとして、被告製剤の販売の差止め及び損害賠償を請求するものである。これに対し、被上告人は、右行為が特許法六九条一項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たること等を理由に、上告人の特許権を侵害したものではないと主張している。


二 【要旨】ある者が化学物質又はそれを有効成分とする医薬品についての特許権を有する場合において、第三者が、特許権の存続期間終了後に特許発明に係る医薬品と有効成分等を同じくする医薬品(以下「後発医薬品」という。)を製造して販売することを目的として、その製造につき薬事法一四条所定の承認申請をするため、特許権の存続期間中に、特許発明の技術的範囲に属する化学物質又は医薬品を生産し、これを使用して右申請書に添付すべき資料を得るのに必要な試験を行うことは、特許法六九条一項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たり、特許権の侵害とはならないものと解するのが相当である。

 その理由は次のとおりである。

1 特許制度は、発明を公開した者に対し、一定の期間その利用についての独占的な権利を付与することによって発明を奨励するとともに、第三者に対しても、この公開された発明を利用する機会を与え、もって産業の発達に寄与しようとするものである。このことからすれば、特許権の存続期間が終了した後は、何人でも自由にその発明を利用することができ、それによって社会一般が広く益されるようにすることが、特許制度の根幹の一つであるということができる。


2 薬事法は、医薬品の製造について、その安全性等を確保するため、あらかじめ厚生大臣の承認を得るべきものとしているが、その承認を申請するには、各種の試験を行った上、試験成績に関する資料等を申請書に添付しなければならないとされている。


後発医薬品についても、その製造の承認を申請するためには、あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うことを要する点では同様であって、その試験のためには、特許権者の特許発明の技術的範囲に属する化学物質ないし医薬品を生産し、使用する必要がある。


もし特許法上、右試験が特許法六九条一項にいう「試験」に当たらないと解し、特許権存続期間中は右生産等を行えないものとすると、特許権の存続期間が終了した後も、なお相当の期間、第三者が当該発明を自由に利用し得ない結果となる。この結果は、前示特許制度の根幹に反するものというべきである。


3 他方、第三者が、特許権存続期間中に、薬事法に基づく製造承認申請のための試験に必要な範囲を超えて、同期間終了後に譲渡する後発医薬品を生産し、又はその成分とするため特許発明に係る化学物質を生産・使用することは、特許権を侵害するものとして許されないと解すべきである。そして、そう解する限り、特許権者にとっては、特許権存続期間中の特許発明の独占的実施による利益は確保されるのであって、もしこれを、同期間中は後発医薬品の製造承認申請に必要な試験のための右生産等をも排除し得るものと解すると、特許権の存続期間を相当期間延長するのと同様の結果となるが、これは特許権者に付与すべき利益として特許法が想定するところを超えるものといわなければならない。


三 以上のとおりであるから、原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の被上告人の行為は特許法六九条一項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たると解すべきであって、上告人の特許権を侵害したものということはできない。原審の判断は、結論において正当である。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものであり、採用することができない。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫)  』


というものです。


 本最高裁判決は、「膵臓疾患治療剤事件」ですね。


 追伸1;<気になった記事>

●『MicrosoftSamsung が特許のクロスライセンス契約』http://japan.internet.com/busnews/20070420/12.html
●『特許改革法案を再提出 米上下両院 日欧と「先願主義」で統一 』http://www.business-i.jp/news/world-page/news/200704200022a.nwc
●『eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C.事件が米国特許訴訟に与える影響』
http://cipo.jp/morrison/column/20070420.html
●『2007年度 有識者本部員会合(第1回)議事要旨』http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/yuusiki/2007/dai1/01gijiyousi.html
●『世界初「カラー電子ペーパー」端末発売』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070420-00000058-zdn_n-sci
●『富士通、カラー電子ペーパー採用のWindows CE情報端末』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070420-00000027-imp-sci


 
 追伸2;<新たに出された知財判決>

●『平成17(ワ)1199 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「地図データ作成方法及びその装置」平成19年04月19日 東京地方裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070420154759.pdf