●平成18(ワ)19650意匠権侵害差止請求権不存在確認請求事件「増幅器

 今朝は、今年中学校に上がり運動部の仮入部した長男と、学校まで一緒に走りました。最近、一緒に行動する機会が減ってきた長男と、走りながら色々と雑談ができ、なんとなく嬉しかったですね♪。
 

  さて、本日は、『平成18(ワ)19650 意匠権侵害差止請求権不存在確認請求事件 意匠権 民事訴訟増幅器付スピーカー」平成19年04月18日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070418174710.pdf)について取上げます。


  本件は、原告が意匠権差止請求権の不存在確認を求めた事件であり、意匠権の侵害が認定され、原告の請求が棄却された事案です。


 本件では、意匠の類比に関し、先行意匠との対比で本件登録意匠の特徴部分を判断しており、その意味で、創作的混同説または修正混同説の考え方を採用している点で、参考になる判決かと思います。


 また、被告(意匠権者)の登録意匠に係る物品が増幅器付スピーカーであり,原告製品は増幅器であり,いわゆる多機能物品の類似についても示しているので、この点でも参考になる判決かと思います。



 つまり、東京地裁(民事第29部 清水節 裁判長)は、


『2 類否の検討

 意匠権の効力は,登録意匠及びこれに類似する意匠に及ぶ(法23条)ところ,意匠は,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせる創作であり(法1条,2条1項),その類否は,登録意匠と対象意匠とが美感を共通にするかどうかによって判断されるが,その際には,登録意匠の創作性の程度,対象意匠に係る物品と登録意匠の意匠に係る物品との同一又は類似性などが考慮されることになる。そこで,1で認定した,本件登録意匠及び原告製品意匠の構成態様をもとに,両者の類否を検討する。


物品の類似性

ア 検討

 本件物品は増幅器付スピーカー,原告製品は増幅器であり,両物品は同一ではないから,両物品の用途・機能等から,それらの類似性を検討すると,本件物品は,増幅器及びスピーカーという,2つの機能を有する,いわゆる多機能物品であるところ,増幅器の機能において,原告製品と機能を共通にするものであり,両物品は類似すると解される。


イ 原告の主張について

(ア) 原告は,多機能物品というためには,複数の機能のそれぞれが単体として発揮され得るものでなければならないところ,本件物品は,内部的に増幅機能を有しているだけで,出力端子がないから,増幅器単体の機能を使うことは予定されておらず,原動機付自転車太陽電池付時計などと同様,多機能物品ではない旨主張する。


 しかしながら,まず,原動機付自転車及び太陽電池付時計においては,原動機が自転車という完成された主たる製品の一部品となり,太陽電池が同じく時計という完成された主たる製品の一部品となっていると理解されるものであるところ,本件物品の場合,増幅器もスピーカーも,それぞれ音源からの音を再生するために独立して不可欠の機能を有するものであって,前者が後者の一部品となるものではない。そして,登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載された意匠に基づいて定められる(法24条)のであり,本件登録意匠の願書,図面等(甲2)に,増幅器単体での機能が発揮されないことを示す記載は認められないから,本件物品は,増幅器の機能をも有する多機能物品であると解すべきである。


 なお,同図面等には,出力端子と解されるような記載は認められないところ,図面上の,外部への出力端子の有無により,増幅器としての機能に消長を来すものでないことは明らかであり,増幅器単体の機能を使うことを予定されていないとする原告の主張には,理由がない。


 したがって,原告の主張を採用することはできない。


(イ) 原告は,また,本件物品が多機能物品であるとしても,増幅器付スピーカーとして出願した以上,1意匠1出願の原則(法7条)をとる意匠法のもとでは,スピーカーとしてとらえるべきであるし,本件物品は,本体の正面がスピーカーの音声取出し用のメッシュで覆われ,出力端子もないのであって,スピーカーの機能が主たるものであるから,増幅器である原告製品とは類似しない旨主張する。

 
 しかしながら,特許庁発行のガイドライン(乙1)によれば,多機能物品に係る意匠登録出願については,「○○付き××」という物品名として当該出願をすることが求められており,そのような多機能物品が有する複数の機能の1つに着目して,対象となる製品との間で物品の類否を検討することは,1意匠1出願の原則と抵触するものではない(原告は,多機能物品が持つ形状や機能からいずれを主とすべきか判断できない場合は,「○○付き××」と「××付き○○」とで,それぞれ別に出願することが,法7条の物品の区分が規定されている趣旨に沿うと主張するが,そのように解すべき合理的根拠はない。)。


 そして,上記(ア)で検討したとおり,本件物品は,増幅器の機能をも有すると認められるのであって,図面上出力端子の記載が認められないことや,本体部の正面がメッシュ状であることから,直ちに,当該物品の主たる機能がスピーカーであるということもできないから,原告の主張を採用することはできない。


意匠の形態面における類似性


 意匠の類否の判断は,当該意匠に係る物品の取引者・需要者において,視覚を通じて最も注意を惹かれる部分をその意匠の中から抽出し,当該部分の共通点及び差異点を検討した上,その他の部分の共通点及び差異点についても検討し,これらを勘案した結果,全体として,美感を共通にするか否かを基本として行うべきであるといわなければならない。


ア 本件登録意匠の要部

 登録意匠について,当該意匠に係る物品の取引者・需要者が,視覚を通じて最も注意を惹かれる部分,すなわち,意匠の要部を把握するに際しては,当該意匠の出願時点における公知又は周知の意匠等を参酌するとともに,当該意匠において新規な美感をもたらすべき創作性の程度の評価等を踏まえて,これを検討すべきものである。


(ア) そこで,本件出願日時点において公知であった意匠についてみると,まず,増幅器について,三角柱形状の筐体や,クレードル(受け台)状のドック部を有する意匠が公知であったことを示す証拠はない。スピーカーに関して,三角柱形状の筐体を有する意匠については,1意匠登録第829399号の意匠(車載用スピーカボックス),・・・,9意匠登録第1048788号の意匠(スピーカー)が,本件出願日時点で公知であったことが認められる(甲5,6,乙3)。


 これらのうち,1から7の意匠については,三角柱を構成する各面の全部又は一部が丸みを帯びており,7の意匠は,下部に台座部分がある上,背面の角部が切り取られており,側面から見た形状が三角形ではない(乙3)。これらの意匠の三角柱の長方形の短辺と長辺の比は,おおむね1対2から1対3であり,6の意匠では,1つの面の当該比が約1対4であるものの,他の2面は約3対4である(乙3)。8及び9の意匠は,組み立て式のスピーカーに係る意匠であり,組み立てた状態において三角柱形状の筐体を有する意匠になるところ,その三角柱の長方形の短辺と長辺の比は,約1対3である(甲5,6)。


 また,スピーカーに関して,クレードル状のドック部を有する意匠については,平成16年10月1日に,インターネット上のニュースにおい て 示 さ れ , 同 月 1 5 日 か ら ボ ー ズ 株 式 会 社 に よ り 販 売 さ れ た,「Sound Dock 」という名称のスピーカーに係る甲7意匠が,本件出願日時点で公知であったと認められるところ,そのドック部は,半円状で上面が平坦なものであり,本体部と直線上の境界をなして連設されている。


 なお,甲7意匠の本体部は,正面が中央部分に向かって凸状の曲面であり,全体的には,装着される電子機器より背が高い大型のパネル状の正面の背後に,段差のある四角い筐体が付されているような形状である(甲7)。


(イ) 本件物品は,増幅器付スピーカーであり,ドック部に音声情報が格納された電子機器を装着して利用することが予定されており,室内の,当該電子機器の装着,取外しに支障がなく,音声情報の再生に適した任意の場所に設置されることが想定されるものと認められる。そうすると,通常の使用時において,正面若しくは左右から,又は,正面若しくは左右の斜め上から俯瞰して観察される外観が当該物品の利用者の注意を惹くものであると考えられる。


(ウ) 以上を踏まえて検討すると,本件登録意匠の要部は,上記1において認定した本件登録意匠の構成態様のうち,基本的構成態様1及び2並びに具体的構成態様6とを組み合わせた形状,すなわち,平坦な正三角形の左右側面1,2と,正三角形の各辺を短辺とし,長手方向全長を長辺とする平坦な長方形の正面3,底面4及び背面5とで形成される正三角柱の形態をなす本体部6を有し(基本的構成態様1),本体部6の正面3に連設され,正面3の中央下部から前方に,上方から見て半円形に突出し,正面3と境界7は,正面から見て円弧状をなし,上方から見て中央部分で本体部6方向にやや湾曲した弓状をなす,ドック部8を有し(基本的構成態様2),さらに,本体部6の三角柱の長方形の面3,4,5が,それぞれ,短辺と長辺の比は1対4の長方形である(具体的構成態様6)形状であると認められる。


 この点,原告は,上記いずれの部分も公知ないし周知の意匠であることから,これらを要部ということはできない旨主張する。しかしながら,各部分について公知ないし周知の意匠があることから,直ちに,これらを組み合わせた部分が要部と認められなくなるものではなく,意匠を全体的に観察した場合に,当該部分が意匠全体の支配的位置を占め,意匠的まとまりを形成し,看者の注意を最も惹くときは,要部と認められるところ,本件全証拠によるも,面が平らな三角柱形状の筐体とドック部とを組み合わせた意匠は他に見当たらないのであるから,これらを組み合わせた部分は,新規なものであり,看者である取引者・需要者の注意を惹く要部であるというべきである。したがって,原告の上記主張は理由がない。


 なお,原告は,本件物品は,音を出すという性質,用途から,正面から観察される外観が注意を惹くものであり,その場合,本件登録意匠と上記甲7意匠との差異は,ドック部の突出程度,電極形状,ボタンの有無だけであって,上記の要部として認定した形状は本件登録意匠の要部足り得ない旨主張するが,上記(イ)のとおり,本件物品は,正面からだけではなく,左右又は正面若しくは左右の斜め上から俯瞰して観察される外観も,利用者の注意を惹くものと認められるから,原告の主張を採用することはできない。


イ 本件登録意匠及び原告製品意匠との共通点及び差異点


 そこで,次に,本件登録意匠及び原告製品意匠との共通点及び差異点についてみると,以下のとおりであると認められる(甲2,3)。
(ア) 共通点

 ・・・省略・・・

(イ) 差異点

 ・・・省略・・・

ウ 本件登録意匠及び原告製品意匠の類比

(ア) 上記イ(ア)のとおり,本件登録意匠及び原告製品意匠とは,基本的構成態様1及び1’並びに2及び2’並びに具体的構成態様4及び4’,5及び5’(ただし,端子の両端の突起の有無については相違する。)並びに6及び6’の点で共通する。


(イ) そうすると,上記ア(ウ)のとおり,本件登録意匠の要部は,平坦な正三角形の左右側面1,2と,正三角形の各辺を短辺とし,長手方向全長を長辺とする平坦な長方形の正面3,底面4及び背面5とで形成される正三角柱の形態をなす本体部6を有し(基本的構成態様1),本体部6の正面3に連設され,正面3の中央下部から前方に,上方から見て半円形に突出し,正面3との境界7は,正面から見て円弧状ををなし,上方から見て中央部分で本体部6方向にやや湾曲した弓状をなすドック部8を有し(基本的構成態様2),さらに,本体部6の三角柱の長方形の面3,4,5は,それぞれ,短辺と長辺の比が1対4の長方形である(具体的構成態様6)形状であるところ,原告製品意匠も,本件登録意匠の要部と共通の構成態様を有することになる。


 本件登録意匠の要部は,同様の組合せを有する意匠が他にはなく,新規な,創作性の高い意匠であると認められるのであり,このような要部の構成態様を共通して有することは,本件登録意匠及び原告製品意匠の類否判断に,大きな影響を与えるものといわなければならない。


(ウ) 他方,差異点について検討すると,まず,ドック部に設けられた端子の両端の突起の有無(具体的構成態様5,5’)については,一般に,他の電子機器を装着するための端子とその周辺部分に関して,装着する機器に合わせて適宜取替えができることもあると考えられ(原告製品についても,ドック部のコネクタ部分として,取替部品が付されている。甲3),その形状の違いが美感にもたらす影響は大きくないこと,また,本件登録意匠に設けられた突起は特異な形状であるとも認められないことから,この点の差異は,本件登録意匠及び原告製品意匠の類否において,大きな意味を有するものであるとは認められない。

(エ) 本体部の正面の小孔の有無(具体的構成態様8,8’)についても,オーディオ関連機器において,正面の再生された音声が拡散される表面に小孔が設けられていることは,極めてありふれた形状であり(乙8),また,小孔の大きさはほぼ均一で,正面全面に規則正しく形成されて,何らかの模様を感得させるような形状ではないことからすれば,この点の差異は,本件登録意匠及び原告製品意匠の類否において,大きく影響するものではない。


(オ) 本体部の正面及び背面との境界線の上縁の,正面から見て右端付近のボタンの有無(具体的構成態様9,9’)については,当該ボタンの大きさが意匠全体に占める割合はごく小さく,また,境界線からの突出の程度もわずかであって,正面視した場合には,看者がボタンの存在に容易に気づかない程度であることからすれば,この差異は微差にとどまるというべきである。


 原告は,電子機器におけるボタンが,ユーザーとのインターフェイスの部分であり,ユーザーがとりわけ注目すると主張するが,上記説示のとおり,当該ボタンの意匠全体に占める割合及びその突出の程度を考慮すれば,ユーザーがとりわけ注目する部分とは認められず,上記主張は採用できない。


(カ) ドック部の形状の差異(具体的構成態様3,3’)については,全体的には,本件登録意匠において平坦であるのに対し,原告製品意匠においては上面が一部が切り取られたドーム状になっているが,原告製品意匠でも,その切り取られた部分はほぼ平坦な形状となっており,正面から観察する場合の印象に大きな差異をもたらさないことからすれば,この差異についても,両意匠の類否に与える影響は大きくない。


(キ) 本体部に透明な部分があるか否か,その内部に真空管が設けられているか否かの差異(具体的構成態様7,7’)については,オーディオ関連機器において,透明なハウジングの内部に真空管が設けられている形状が多数認められる(乙4〜6)ものの,機器の左右両端の,長手方向外向きに真空管が装着されている形状は見当たらないことからすれば,相応に,看者の受ける印象に影響を与えるものといえる。しかしながら,上記(イ)で検討したとおり,本件登録意匠の要部の持つ新規性,創作性の程度と,それを原告製品意匠と共通にすることが,意匠の類否判断に大きく影響を及ぼすものである以上,上記差異は,両意匠における前記共通性,類似性を凌駕するものではないと評価するのが相当である。


(ク) 小括

 以上からすると,本件登録意匠と原告製品意匠との差異点は,微差にとどまるものであるか,相応の特徴をもたらすとしても,共通点との対比において,その影響は限定されるものであるから,両意匠は,全体として,看者に対して同一の美感を与えるものであると認められる。


3 まとめ

 したがって,原告製品意匠は,本件登録意匠に類似する。


第4 結論

 以上の次第で,被告は,原告に対し,法37条1項に基づく,原告製品意匠に係る原告製品の製造,使用,譲渡,貸渡し若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出の差止請求権を有することになり,同差止請求権が存在しないことの確認を求める原告の請求は理由がないことになるから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。  』

と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照下さい。