●平成18(行ケ)10450 審決取消請求事件 商標権「スピードクッキング

  本日は、『平成18(行ケ)10450 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「スピードクッキング SpeedCooking」平成19年04月10日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070413172952.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標法3条1項3号違反の拒絶審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、棄却された事案です。


 本件では、商標法3条2項の主張が認められなかった判断の点で、参考になるものと思います。



  つまり、知財高裁(第4部 塚原朋一裁判長)は、


『1 取消事由2(商標の同一性に関する判断の誤り)について

 便宜上,取消事由2から判断する。

(1)本願商標と全く同一の構成から成る商標が,原告によって使用されてきたことを認めるに足りる証拠はない。

 しかるところ,原告は,平成13年11月以降,原告が使用してきた商標につき,1初期においては,小さく緑色で横書きされた「Speed Cooking」の欧文字と,その下に大きく赤色で「スピード」及び「クッキング」の各片仮名文字を横書きに二段に表して成るもの(甲第1号証等) ,2その後,小さく緑色で横書きされた「Speed Cooking」の欧文字と,その下に大きく赤色で「スピードクッキング」の片仮名文字を横書きして成るもの(甲第66号証等)であるとした上(以下,これらの商標を,順次 「使用1の商標」, 「使用2の商標」という。),これらの商標が,実質的に本願商標と同一である旨主張するので,まず,この点につき判断する。


 なお,原告は,平成19年1月30日以降は,小さく緑色で横書きされた「SpeedCooking」の欧文字と,その下に大きく赤色で「スピードクッキング」の片仮名文字を横書きして成るものの使用をしている旨主張するが,登録出願に係る商標が,商標法3条1項各号又は同条2項に該当するか否かは,査定時(審判請求があったときは審決時)を基準として判断すべきものであるから,本件においては,審決後である平成19年1月30日以降の使用に係る商標の構成態様は,判断の対象となり得ない。


(2) 商標法3条1項3号が,同号所定の商標につき商標登録を受けることができないとする趣旨は,同号所定の商標は,例えば商品(役務)の質,内容等の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占的使用を認めることを,公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合,自他商品(役務)識別力を欠き,商標としての機能を果たさないことによるものであると解され,他方,同条2項が,同条1項3号等所定の商標であっても,使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る商品(役務)であることを認識することができるものについては,商標登録を受けることができるとする趣旨は,特定人が,当該商標を,その者の業務に係る商品(役務)の自他識別標識として,永年の間,他人に使用されることなく,独占的排他的に継続使用した実績を有する場合には,当該商品(役務)に係る取引界においては,事実上,当該商標の当該特定人による独占的使用が事実上容認されているといえるので,他の事業者にその使用の機会を開放しておく公益上の要請が乏しくなるとともに,当該商標が,自他商品(役務)識別力を獲得したことにより,商標としての機能を備えるに至ったことによるものと解される。


 ところで,同条2項の規定上,同項によって商標登録が認められるのは,使用されていた商標に限られることは明らかであるが,上記のように,同条1項3号等の規定に対する例外規定である同条2項の規定は,当該商標が,特定人によりその業務に係る商品(役務)の自他識別標識として使用されてきた事実に基づく,公益上の要請の後退及び自他商品(役務)識別力の取得という現象に基礎を置くものであって,当該「使用」の範囲に含まれない構成態様の商標には,同条2項により商標登録を受けることを許容する根拠が認められるわけではない(すなわち,当該「使用」の範囲に含まれない構成態様の商標が,なお同条1項3号等に当たる場合であれば,上記公益上の要請及び識別力の欠如という状態が存在する)のであるから,同条2項の適用において,登録出願に係る商標と使用されていた商標との同一性は厳格に判断されるべきものと解するのが相当である。


(3) 本件出願に係る商標(本願商標)は,いずれも標準文字のみによる「SpeedCooking」の欧文字と,「スピードクッキング」の片仮名文字を,横書きに,欧文字と片仮名文字の間に1字分の空白を設けた上で,一連に表して成るものである。


 これに対し,使用1の商標の構成態様(甲第1号証)は,全体を3段に分けて表し,上段は「Speed」の欧文字と「Cooking」の欧文字を,横書きに,その間に1字分の空白を設けた上で,一連に表して成り,中段は「スピード」の片仮名文字を,下段は「クッキング」の片仮名文字を,それぞれ横書きに表して成るものであって,中段の文字の左端は上段の文字の左端と比べ,また,下段の文字の左端は中段の文字の左端と比べ,それぞれ右方にずれているが,そのずれ幅は,中段は上段と比べわずかであるのに対し,下段は中段と比べ,ほぼ1文字文ずれており,書体は,上段の欧文字も,中,下段の片仮名文字も,標準文字ではなく,筆記体に近いものであり,さらに,中,下段の片仮名文字は,字の大きさ及び書体を共通にし,上段の欧文字は,中,下段の片仮名文字と比べ,ごく小さい文字で表したものである。なお,色彩を明らかにする証拠はない。


 使用2の商標の構成態様(甲第66号証)は,全体を2段に分けて表し,上段は「Speed」の欧文字と「Cooking」の欧文字を,いずれも緑色で,横書きに,その間に1文字分の空白を設けた上で,一連に表して成り,下段は「スピードクッキング」の片仮名文字を,赤色で横書きに表して成るものであって,下段の文字の左端は上段の文字の左端と比べ,下段の文字の横幅の約半分程度,右方にずれており,書体は,上段の欧文字も,下段の片仮名文字も,標準文字ではなく,筆記体に近いものであり,さらに,上段の欧文字は,下段の片仮名文字と比べ,ごく小さい文字で表したものである。


 そうすると,使用1の商標及び使用2の商標が,本願商標と称呼及び観念を共通にし,さらに,構成文字において過不足なく一致するとしても,使用1の商標及び使用2の商標と本願商標とでは,外観において相当程度に相違しており,使用1の商標及び使用2の商標の使用が,実質的に本願商標の使用に当たるということはできない。


(4) 原告は,使用1の商標及び使用2の商標につき,文字がもつ本来の意味を変更するほどの奇抜な態様ではなく,具体的な構成態様を指定することができない「標準文字」の通常の使用範囲内のものであると主張する。


 しかしながら,標準文字のみによって,商標登録を受けようとする場合(商標法5条3項)には,文字につき具体的な構成態様を指定することができないことは当然である(同法12条の2第2項3号かっこ書き参照)が,この場合の文字の構成態様については,標準文字の書体から成るものとして扱われ(同法12条の2第2項3号かっこ書き,27条1項参照 ,格別,文字の構成態様について同一性を有するものの範囲が広がる)というものではないから,文字がもつ本来の意味を変更するほどの奇抜な態様でなければ,標準文字と同一性を有するといわんばかりの原告の主張は失当である。


 また,使用1商標及び使用2商標と本願商標とは,称呼を共通にするものであるところ,原告は,情報を求める需要者が利用するのはインターネットによる検索であり,検索エンジンに入力する文字は,フォントや外観に依存しない 「称呼」を,表す「標準文字」であるから,使用により識別力を有するに至った商標は,標準文字により 「SpeedCooking スピードクッキング」と書して成る本願,商標と同一であるということができる旨主張する。


 しかしながら,検索エンジンに入力する文字が,フォントや外観という要素を伴わないという意味で「標準文字」という言い方が可能であるとしても,これと,商標法5条3項所定の「特許庁長官の指定する文字」の略称である「標準文字」の意義が同一であるとはいえず,原告の上記主張は,両者を混同するものである。のみならず,商標法3条2項の適用には,特定の商標が,特定人によりその業務に係る商品(役務)の自他識別標識として使用されてきたことが必要であるところ,仮に,情報を求める需要者が検索エンジンに入力する文字が「標準文字」によって成り,原告が使用してきた商標と同一の称呼を生ずるものであるとしても,そのような標準文字によって成る入力文字をなにゆえに,原告が使用してきたといい得るのかが明らかではない。そもそも,一般に,情報を求める需要者がインターネットの検索エンジンに入力する文字が,登録出願人が使用してきた商標と同一の称呼を生ずるからといって,それだけで,標準文字のみから成る商標と,登録出願人が使用してきた商標とが同一であるとはいえないことは明白である。


(5) したがって,原告によって使用されてきた商標が,本願商標とその構成態様を異にするものであるとの審決の判断に誤りはない。


2 結論

 以上によれば,取消事由1について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,棄却されるべきである。   』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。



追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ワ)15024 著作権 民事訴訟 平成19年04月12日 東京地方裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070417100022.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『米国で特許侵害訴訟の「恒久的な差止命令」適用が困難化 Ebay Inc. vs. MercExchange, L.L.C.事件の検討(上)』http://cipo.jp/morrison/column/20070417.html
●『昨年の特許受理件数は25.2%増 国家知識産権局』http://www.people.ne.jp/2007/04/17/jp20070417_70130.html

●『「知財で元気な企業2007」の取りまとめ』http://www.meti.go.jp/press/20070417001/tizaikigyou-p.r.pdf
●『特許戦略指標等の公表について』http://www.meti.go.jp/press/20070417002/tokkoshinsa-p.r.pdf

●『特許戦略指標等の公表について』
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/puresu/tokkyosenryakushihyou.htm

 ・・・「特許戦略指標上位企業(業種別)(http://www.jpo.go.jp/torikumi/puresu/pdf/tokkyosenryakushihyou/01tokkyosennryakujyoui.pdf)や、「弁理士事務所の出願関連情報」(http://www.jpo.go.jp/torikumi/puresu/pdf/tokkyosenryakushihyou/02bennrisijimusyosyutugann.pdf)等が掲載されています。