●平成17(ネ)10040 特許権 民事訴訟 一太郎事件 知財高裁大合議

  今さら取上げることもないのですが、知財高裁における特許法101条の間接侵害の判断を示した『平成17(ネ)10040 特許権 民事訴訟 平成17年09月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/4AC9E8ED0D080C574925710E002B12CE.pdf)である『一太郎事件』について取上げます。


  本判決では、一太郎を製造・販売する行為は特許法101条2号により物の特許発明の間接侵害は成立するものと判断したものの、101条旧4号(現5号)の方法の特許発明の間接侵害は成立しないと判断した点で、パテント誌や各方面などで色々な方が本判決について批判や反対意見を述べられており、私も勿論、本判決には反対ですが、現在の知財高裁の方法発明の間接侵害の考え方として、正確に理解しておきたいと考えます。



 つまり、知財高裁は、旧特許法第101条の2号と4号(現特許法101条の2号と5号)について、


『2 争点2(間接侵害の成否)について

・はじめに

 本件発明は「プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」や「プログラムそのもの」に係る発明ではなく,「情報処理装置」ないし「情報処理方法」に係る発明である(ちなみに,本件発明は,平成14年法律第24号により記録媒体に記録されないプログラム等がそれ自体として特許法における保護対象となり得ることが明示的に規定された同法の改正〔平成14年9月1日施行〕前であることはもとより,特許庁が,平成9年2月公表の「特定技術分野の審査の運用指針」により「プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」について,また,平成12年12月公表の「改訂特許・実用新案審査基準」により「プログラムそのもの」について,それぞれ特許発明となり得ることを認める運用を開始した時より前である平成元年10月31日に出願されたものである。一方,控訴人製品。)は,別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載のとおり,文書作成のソフトウエア(日本語ワープロソフト)「一太郎」及び図形作成のソフトウエア(統合グラフィックソフト)「花子」である。したがって,控訴人による控訴人」製品の製造,譲渡等又は譲渡等の申出の行為が「情報処理装置」ないし,「情報処理方法」についての発明である本件発明に係る本件特許権直接侵害となることはあり得ないので,間接侵害の成否が問題となる。


 平成14年法律第24号により改正(平成15年1月1日施行)された特許法101条は,間接侵害について規定しており,同改正により新設された同条2号は「特許が物の発明についてされている場合において,その物の,生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき,その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら,業として,その生産,譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」を特許権等の侵害であるとみなしており,同じく新設の同条4号は,特許が方法の発明についてされている場合について,同旨を規定している。



 被控訴人は,ユーザーが控訴人製品を購入し,これをパソコンにインストールする行為は,本件第1,第2発明に係る物を生産する行為に該当し,また,ユーザーが控訴人製品をインストールしたパソコンを使用する行為は,本件第3発明に係る方法を使用する行為に該当するから,控訴人が業として控訴人製品の製造,譲渡等又は譲渡等の申出を行うことは,本件第1,第2発明について特許法101条2号所定の間接侵害に該当するとともに,本件第3発明について同条4号所定の間接侵害に該当する旨主張するので,以下,検討する。



・本件第1,第2発明についての特許法101条2号所定の間接侵害の成否

ア まず,前記1のとおり「控訴人製品をインストールしたパソコン」は,本件第1,第2発明の構成要件を充足するものであるところ,控訴人製品は,前記パソコンの生産に用いるものである。すなわち,控訴人製品のインストールにより,ヘルプ機能を含めたプログラム全体がパソコンにインストールされ,本件第1,第2発明の構成要件を充足する「控訴人製品をインストールしたパソコン」が初めて完成するのであるから,控訴人製品をインストールすることは,前記パソコンの生産に当たるものというべきである。


 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載によれば,本件第1,第2発明は「従来の方法では,キーワードを忘れてしまった時や,知らないときに機能説明サービスを受けることができない」という課題(本件公報3欄10行目ないし13行目)を「アイコンの機能説明を表示させる,機能を実行させる第1のアイコン,および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と,前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と,前記指定手段による,第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段とを有する構成とした(同欄14行目ないし23行目)」ことにより解決したものであるが「控訴人製品をインストールしたパソコン」においては,前記のような構成は控訴人製品をインストールすることによって初めて実現されるのであるから,控訴人製品は,本件第1,第2発明による課題の解決に不可欠なものに該当するというべきである。


 また,特許法101条2号所定の「日本国内において広く一般に流通しているもの」とは,典型的には,ねじ,釘,電球,トランジスター等のような,日本国内において広く普及している一般的な製品,すなわち,特注品ではなく,他の用途にも用いることができ,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品を意味するものと解するのが相当である。



 本件において,控訴人製品をヘルプ機能を含めた形式でパソコンにインストールすると,必ず本件第1,第2発明の構成要件を充足する「控訴人製品をインストールしたパソコン」が完成するものであり,控訴人製品は,本件第1,第2発明の構成を有する物の生産にのみ用いる部分を含むものであるから,同号にいう「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たらないというべきである。



 なお,控訴人製品については,これを専ら個人的ないし家庭的用途に用いる利用者(ユーザー)が少なからぬ割合を占めるとしても,それに限定されるわけではなく,法人など業としてこれをパソコンにインストールして使用する利用者(ユーザー)が存在することは当裁判所に顕著である。


 そうすると,一般に,間接侵害は直接侵害の有無にかかわりなく成立することが可能であるとのいわゆる独立説の立場においてはもとより,間接侵害は直接侵害の成立に従属するとのいわゆる従属説の立場においても,控訴人が控訴人製品を製造,譲渡等又は譲渡等の申出をする行為について特許法101条2号所定の間接侵害の成立が否定されるものではない。


イ 前記の点に関して,控訴人は,被控訴人が問題とするヘルプ表示プログラム等は,マイクロソフト社のWindowsというオペレーティングシステムの機能であって,他のアプリケーション・ソフトウェアを実行している間においても利用可能であり,控訴人製品をインストールするか否かにかかわらず「ヘルプモード』ボタンの指定に引き続いて他のボタンを,『指定すると,当該他のボタンの説明が表示される」という機能が実現されているから,控訴人製品は,本件発明による課題の解決に不可欠なものではない旨主張する。


 確かに,証拠(乙16)によれば,別紙イ号物件目録ないしロ号物件目録記載の機能は,マイクロソフト社のWindowsというオペレーティングシステムのうち「Winhlp32.exe」等の実行ファイルの有する機能を利用しているものと認められる。しかしながら,控訴人製品をインストールしたパソコンにおいて,前記機能が実現されていることが認められるものの,控訴人製品をインストールしていないパソコンにおいても同様の機能が実現されていることを認めるに足りる証拠がない本件においては,前記各目録記載の機能は,控訴人製品をインストールしたパソコンにおいて初めて実現される,言い換えると,控訴人製品のプログラムと「Winhlp32.exe」等の実行ファイルが一体となって初めて実現されるというべきであるから,控訴人製品は,本件第1,第2発明による課題の解決に不可欠なものというべきである。したがって,控訴人の前記主張は採用することができない。


ウ また,控訴人は,控訴人製品をインストールしたパソコンにおけるヘルプ機能は,控訴人製品に含まれるAPI関数がオペレーティング・システム(OS)中の「Winhlp32.exe」を実行することにより行われているところ,API関数は広く公開されているものであって,ソフトウエア開発における汎用品にすぎないから,控訴人製品は,本件発明による課題の解決に不可欠なものではない旨主張する。



 しかしながら,別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の機能が,控訴人製品をインストールしたパソコンにおいて,初めて実行できるものであることは,前記イにおいて判示したとおりであり,控訴人製品が,本件第1,第2発明による課題の解決に不可欠なものであることは明らかである。


 なお,API関数とは,一般に,アプリケーションソフトから基本ソフト,すなわちオペレーティング・システム(OS)の機能を呼び出すためのもの(Application Program Interface)をいうことは,当裁判所に顕著であるところ,仮に,控訴人の主張するように,控訴人製品に含まれているAPI関数がソフトウエア開発のために広く公開されているものであるとしても,そのことから直ちに,控訴人製品自体が特許法101条2号所定の間接侵害の対象から除外されている「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当することになるわけではないことも明らかである。したがって,控訴人の前記主張も採用することができない。


エ 進んで,特許法101条2号所定の間接侵害の主観的要件について検討する。

 被控訴人は,控訴人が,遅くとも被控訴人が平成14年11月7日に申し立てた別件製品に係る別件仮処分の申立書の送達の時からは,本件発明が被控訴人の特許発明であること及び控訴人製品が本件発明の実施に用いられることを知っていると主張するが,別件仮処分の対象物件が控訴人製品でないことは,その主張自体から明らかであって,それ自体失当といわざるを得ない。しかしながら,前記間接侵害の主観的要件を具備すべき時点は,差止請求の関係では,差止請求訴訟の事実審の口頭弁論終結時であり,弁論の全趣旨に照らせば,被控訴人の前記主張は,その趣旨をも含意するものと解されるところ,本件においては,控訴人は,遅くとも本件訴状の送達を受けた日であることが記録上明らかな平成16年8月13日には,本件第1,第2発明が被控訴人の特許発明であること及び控訴人製品がこれらの発明の実施に用いられることを知ったものと認めるのが相当である。


オ 以上によれば,控訴人が業として控訴人製品の製造,譲渡等又は譲渡等の申出を行う行為については,本件第1,第2発明について,特許法101条2号所定の間接侵害が成立するというべきである。


・本件第3発明についての特許法101条4号所定の間接侵害の成否


 前記1のとおり,「控訴人製品をインストールしたパソコン」について,利用者(ユーザー)が「一太郎」又は「花子」を起動して,別紙イ号物件目録又はロ号物件目録の「機能」欄記載の状態を作出した場合には,方法の発明である本件第3発明の構成要件を充足するものである。そうすると「控訴人製品をインストールしたパソコン」は,そのような方法による使用以外にも用途を有するものではあっても,同号にいう「その方法の使用に用いる物・・・であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するものというべきであるから,当該パソコンについて生産,譲渡等又は譲渡等の申出をする行為は同号所定の間接侵害に該当し得るものというべきである。


 しかしながら,同号は,その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産,譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであって,そのような物の生産に用いられる物を製造,譲渡等する行為を特許権侵害とみなしているものではない。本件において,控訴人の行っている行為は,当該パソコンの生産,譲渡等又は譲渡等の申出ではなく,当該パソコンの生産に用いられる控訴人製品についての製造,譲渡等又は譲渡等の申出にすぎないから,控訴人の前記行為が同号所定の間接侵害に該当するということはできない。


 ちなみに,前記・のとおり,既に,特許庁は,平成9年2月公表の「特定技術分野の審査の運用指針」により「プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」について,また,平成12年12月公表の「改訂特許・実用新案審査基準」により「プログラムそのもの」について,それぞれ特許発明となり得ることを認める運用を開始しており,また,平成14年法律第24号による改正後の特許法においては,記録媒体に記録されないプログラム等がそれ自体として同法における保護対象となり得ることが明示的に規定されている(同法2条3項1号,4項参照,平成14年9月1日施行)。このような事情に照らせば,同法101条4号について上記のように解したからといって,プログラム等の発明に関して,同法による保護に欠けるものではない。


 したがって,被控訴人の前記主張は採用の限りではない。  』


と判示されました。


 本判決文を繰り返し読むと、現在の知財高裁における間接侵害(特許法第101条)の考え方がなんとなく見えてくるような感がします。


 そういう意味でも、本判決は、重要な判決のようです。

 
  なお、本件では、争点3として、「本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められ,本件特許権の行使は許されないか」、また争点4として、「控訴人の当審における追加的な主張・立証が時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきか」が争われ、結局、控訴人が当審において新たに追加された証拠および主張は、時機に後れたものとはいえず却下されるべきものでない等と判断され、また、当該証拠および周知技術事項により本件特許は無効審判により無効にされるべきものと認められ、特許法104条の3第1項により被控訴人による特許権の行使が認められない、と判断されていますので、興味のある方は、判決文を参照して下さい。



追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10532 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「つつみのおひなっこや」平成19年04月10日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070411152028.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『生産特許の使用料、黒字1兆円超す・06年、車の海外生産拡大』http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20070411AT2C2303X10042007.html
●『中国、07年も特許関係のエンフォースメント強化へ』http://www.people.ne.jp/2007/04/11/jp20070411_69869.html
●『米国、中国をWTOに提訴、知的財産権問題で』http://news.braina.com/2007/0411/judge_20070411_001____.html
●『第16回知的財産戦略本部議事録』http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/dai16/16gijiroku.html