●平成18(ネ)10035 職務発明対価請求控訴事件 特許権

  本日は、『平成18(ネ)10035 職務発明対価請求控訴事件 特許権 民事訴訟 平成19年03月29日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070409114813.pdf)について取上げます。


 本件は、原審が東京地裁職務発明対価請求控訴事件(「平成16(ワ)27028 職務発明対価 特許権 民事訴訟 平成18年03月09日 東京地方裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060413112411.pdf))であり、原審と同様、控訴審でも特許技術担当者Iが共同発明者として認められた点で、注目すべき判決の一つかと思います。



 つまり、知財高裁(第2部 中野哲弘 裁判長)は、


『・・・省略・・・

ウ Iの貢献につき

(ア) Iは,昭和53年3月,岡山大学工学部機械工学科を卒業し,大学時代からディーゼルエンジンの分野で研究を進め,昭和53年に一審被告に入社した後は,主に直噴ディーゼルエンジンの研究に従事し,昭和63年2月に特許課に配転された。


(イ) Iは,特許技術担当者として,一審原告が作成した本件届出書添付の特許出願書類の草案を修正して,出願書の草案(乙4)を作成した。


 Iは,この草案において,「特許請求の範囲」につき,「スリット状噴孔の内端の幅W1」,「該内端の長手方向に沿う長さL1」,「前記スリット状噴孔の外端の長手方向に沿う長さL2」,「L1≧4.5W1」及び「L1>L2」との記載を書き加えた。


(ウ) Iは,平成元年8月,本件特許発明に係る願書(乙5,6)を作成した。同願書においてはX(一審原告)及び外1名(H)が発明者として記載された。Iの後,特許技術担当者の責任者であるK及びL弁理士が上記の願書を査読した。Iは,「特許請求の範囲」につき,「L1≧4.5・W」及び「L2>L1」とされていた数値限定を,さらに「L1≧4.5・W」に変更するなどの修正を行った。

・・・省略・・・


ウ ところで,本件特許発明の構成要件AないしD及びFは,本件特許発明の対象が構成要件AないしDの構成を有する燃料噴射弁であることを規定するものである。


 しかし,刊行物1(特開昭53−82907公報,乙12)には,1弁体に設けられた弁孔に摺嵌されたニードル2(本件特許発明の「針弁」。以下同様である。)と,2ニードル2の先端分が当接する弁座3と,3弁座部に連通する空室5(「サック部」)と,4空室5に連通し且つ弁体先端に開口すると共に噴射弁外周壁側に外端を有し噴射弁内周側に内端を有する開口6(「スリット状噴孔」)とから成る,5ことを特徴とする燃料噴射弁が記載されており,本件特許発明の構成要件AないしD及びFのスリット状噴孔から成る燃料噴射弁は,出願時に既に公知であった燃料噴射弁とその主要構成部分を記載したものである。したがって,本件特許発明が,特許性があると認められ,特許登録に至ったのは,本件特許発明の構成要件AないしD及びFのスリット状噴孔から成る公知の燃料噴射弁において,スリット状噴孔の内端の幅W,該内端の長手方向に沿った長さL1につき,L1≧4.5×Wとした構成(構成要件E)によるものということができる。


エ そこで,特許性があると認められる構成を着想し,具体化した者が誰であるかを次に判断する。


 前記ア及びイによれば,本件特許発明は,スリット状噴孔の内端の幅Wと内端の長手方向に沿った長さL1の比を4.5以上にすることによって,噴霧を非常に扁平な形状にして空気との接触面積を増大させ,周囲の空気を巻き込み易くして,噴霧の微粒化を促進し,燃料噴射量が少ない場合であっても噴霧の粒径を小さくすることができるものであり,また,噴霧の到達距離及び貫徹力を,スリット状噴孔の内端の幅Wと内端の長手方向に沿った長さL1の比を調整することによって可能としたものである。


 その結果,本件特許発明は,スワールを不要としたり,燃費が向上し希薄燃焼の制御範囲が広くなり,サイクル変動が生じにくいという作用効果を得ることができるものである。


 このような本件特許発明の課題及び作用効果は,Hが昭和58年ころに行ったH実験において確認した事項,すなわち,ファンスプレーノズルにおいては,1扁平で扇形の噴霧が形成され,2噴霧の広がり角が約180度となり,3内端の幅Wが小さいほど良好な微粒化状態を示し,実用的にはW≦0.2mmが妥当であり,4噴霧の広がり角は,サック直径(D)とスリットのサック内壁からの切込量(A)で規定できる可能性があるということにおいて,既に示唆されていた点である。後記(5)アのとおり,上記1〜4のうち,1は公知の事項であったが,2〜4の各事項が公知であったとか容易に発明することができたとは認められないから,これらの点において,Hを本件特許発明の共同発明者の一人であると認めることができる。しかし,上記1〜4以上に,構成要件E(スリット状噴孔の内端の幅W,該内端の長手方向に沿った長さL1がL1≧4.5×Wであること)の構成を導く技術的な情報が,H実験の結果から明らかになっていたわけではないから,その貢献は,次に述べる一審原告の貢献に比べて大きいとはいえない。


 次に,一審原告は,いろいろなスリット状噴射孔を作成して,その噴霧形状を観察し,噴霧粒径を測定して,データを採ったのであり,噴霧角180度にとどまらず,噴霧角180度から70度近くに至るまで実験を行い,スワールを不要としたり,燃費が向上し希薄燃焼の制御範囲が広くなり,サイクル変動が生じにくいという作用効果を得ることができることを実証した。そして,一審原告は,その結果を本件届出書という形でまとめた。


 「L1≧4.5×W」との関係式自体は,Iによって想到されたものの,本件届出書記載の一審原告の実験結果(本件届出書の第21図,第23図その他本件届出書の記載内容)に基づいて定められたものであることは明らかである。そうすると,一審原告は,Hから受けた教示を参考にしているものの,本件特許発明の具体化に大きく貢献したものと認めることができ,その貢献は,最も大きいというべきである。


 さらに,Iは,デイーゼルエンジンの研究により培った知識により,スリット状噴孔の内端の寸法諸元であるL1とWに着目して数値限定を行うことを思い至り,本件届出書の記載内容を基に,「L1≧4.5×W」との関係式を想到することにより,本件特許発明の技術思想をより具体化したものである。すなわち,Iは,I自身の直噴ディーゼルエンジンの研究開発の経験に照らし,噴霧角及び噴霧粒径に影響する箇所は,スリット状噴孔の内周壁側の内端であることから,その内端の寸法諸元であるL1とWに着目して数値限定を行うことを思い至り,その際,本件届出書の記載内容を基にして,スワール等の空気流動の補助なしで良好な燃焼を確保するためには噴霧角60度以上が必要であることや,スリット状噴孔の内端の寸法諸元についての技術的知見を併せ考えて,上記数式を想到するに至り,これにより本件特許発明に特徴的な技術思想を具体化し,特定したものである。このIの行為は,公知の技術と比べ特許性がある部分を抽出して特許請求の範囲に記載するという,明細書の作成担当者がなす行為以上のものであり,本件届出書を基にして,本件届出書に記載されていない事項すなわちI自身のディーゼルエンジンの研究開発経験に裏付けられた技術的知見を加えて,発明を発展させ,より具体的に明確にしたものであり,Iのこの貢献も共同発明者の一人としてのものというべきである。

と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸;<気になった記事>
●『Vonage、Verizonとの特許問題で新規顧客獲得の危機』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070410-00000023-zdn_n-sci
●『米控訴裁が Vonage への特許使用差し止め命令を一時猶予』http://japan.internet.com/busnews/20070410/11.html
●『東芝の米現法 大宇など17社提訴 DVD関連特許侵害で』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070410-00000019-fsi-ind
●『東芝,DVD関連特許侵害の17社について米国輸入差し止め申請』http://www.nikkeibp.co.jp/news/manu07q2/530551/
●『東芝、「DVDの特許侵害」で米中などの17社提訴』http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20070409ib28.htm
●『東芝、特許侵害でDVDメーカーなど17社提訴 米で』http://www.asahi.com/business/update/0409/TKY200704090229.html
●『東芝、DVD関連の特許侵害で17社を提訴』http://www.cnn.co.jp/business/CNN200704090026.html
●『一段と進む米中特許庁の協力体制(米国特許商標庁)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=1201
●『「中国100社の特許件数、日本1社に及ばず」、知財権担当者』http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q1/530443/
●『MPEG LA Sues DVD Video Disc Manufacturer Regency Media Pty Ltd.,of Australia for Breach of MPEG-2 License Agreement』http://www.mpegla.com/news/n_07-04-09_pr.pdf
●『新年度を迎えて 知的財産高等裁判所長 篠原 勝美 (しのはら かつみ)』http://www.ip.courts.go.jp/aboutus/index.html