●平成18(行ケ)10441 審決取消訴訟 商標権「お医者さんのひざベルト

  本日は、『平成18(行ケ)10441 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「お医者さんのひざベルト」 平成19年03月29日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070402164414.pdf)について取上げます。


  本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟事件であり、その請求が棄却された事案です。


 「お医者さんのひざベルト」という商標が、単に商品の品質を表示するにすぎず、自他商品の識別標識としての機能を有するものとは認められないから,商標法3条1項3号に該当するとした拒絶審決が支持された点で参考になるものと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 中野哲弘裁判長)は、

『(1) 取消事由1(本願商標が商標法3条1項3号に該当すると判断したことの誤り)につき

 ア 商標法3条1項3号の趣旨

 商標法3条1項3号が,「その商品の産地,販売地,品質,原材料…を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は商標登録を受けることができない旨を規定する趣旨は,このような商標は,「商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによる」と解される(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁〔判例時報927号233頁〕)。

 この点につき原告は,商標法3条1項3号の「品質」の表示は具体的な商品内容としての特徴に結び付けられたものを表示するものに限定されるべきであり,「誰」が製造するかということは,具体的な商品の性質に関連づけられた客観的な特徴を示すものではなく,「品質」に関する表示であると認めることは不可能である,と主張する。


 しかし,商標法3条1項3号の「品質」を原告が主張するように限定的に解すべき理由はない。

 「誰」が製造するかということが商品の品質と密接な関連を有する場合には,「誰」が製造するかということも,商品の「品質」に当たるというべきである。


 そこで,以上の見解に立って,本願商標が商標法3条1項3号に当たるかどうかについて検討する。

イ 本願商標の構成

 本願商標は,「お医者さんのひざベルト」の文字を標準文字で書してなるものである。
本願商標の構成のうち「お医者さん」の文字部分は,「医者」の文字に,相手に対する敬意を表す接頭語「お」及び接尾語「さん」の各文字を付したものであり,医師を表す語として認識されるものである。また,「ひざベルト」の文字部分は,「ひざ」の文字と「ベルト」(belt)の文字とを組み合わせたものであり,「ひざに使用するベルト」として認識されるものである。


 そして,本願商標は,上記の「お医者さん」の文字部分と「ひざベルト」の文字部分を格助詞「の」で結合したものである。


 該格助詞「の」は,「連体格を示す。前の語句の内容を後の体言に付け加え,その体言の内容を限定する」ものであり(広辞苑第五版[甲13の1]2078頁),「生産者と生産物の関係を『AのB』という形で表す」ことがある(村田美穂子編「文法の時間」至文堂[甲13の2]92頁)。したがって,「AのB」という形で格助詞「の」を使用した場合,「の」の文字は,「〜が作った」の意味を有することがあるものと認められる。


ウ 本願の指定商品との関係等

 本願の指定商品である「保温用サポーター」は,健康に関連する商品であるから,それを医師が開発・考案することがあるものと考えられるところ,次のとおり,健康に関連する商品について医師等の専門家が開発・考案したことを宣伝広告することによって,商品への信頼性を高めることが行われているものと認められる。また,これらの中には,本願指定商品以外の商品について,「お医者さんの…」という商品名が用いられる例(後記(ク)並びに(ス)のl,m,n,o及びp)がある。


・・・省略・・・


エ 格助詞「の」を「〜が作った」の意味合いで使用していること

 格助詞「の」は,上記アで述べたとおり,「〜が作った」「〜が考案した」「〜が開発した」等のような意味合いをも有するものであり,実際の商取引において,健康に関する商品分野で「お医者さんの…」と使用されている事実(乙12〜16)があるほか,その他の商品について,格助詞「の」が「〜が作った」の意味で使用されている事実(乙17〜21)がある。

オ 以上のイ〜エを総合すると,本願商標は「お医者さん」が開発・考案した「ひざベルト」の意味に理解されるものと認められるところ,「お医者さん」が開発・考案したことによって,その「ひざベルト」が,高品質の信頼性が高いものという認識が生ずるということができるから,誰が製造したかが商品の品質と密接に関連しており,本願商標を本願の指定商品である「保温用サポーター」に使用した場合は,商品の「品質」を表したものと理解されるにとどまるものというべきである。


 そして,「お医者さん」は,医師を表示する用語として普通に用いられるものであるから,本願商標は,その品質を普通に用いられる方法で表示したものということができる。この点につき原告は,製造者にしろ,開発者にしろ,推薦者にしろ,商品等について,その「者」の権威を利用しようとする場合には,「医師」や「医学博士」といった正式の用語を用いるのが一般的であると主張するが,そのような経験則が存在するとは認められない。


 したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に当たるというべきである。


カ 原告の主張に対する判断

(ア) 原告は,他の事例において特許庁は,「の」の格助詞により商標が表示している商品名を含む名詞が結合された商標に識別性を認め,その登録を認めているとして,前記第3の1(3)ア(ア)aの1〜16の16件(甲2の1,2,甲3の1,2,甲4の1〜10,甲6の1,2)をその例として挙げる。


 しかし,これらのうち,3 登録第4702680号「ふとんのお医者さん」(甲3の1)と4 登録第4716168号「ふとんのお医者さん」(甲3の2)は,「お医者さん」が格助詞「の」の後に付いているものであって,本願商標とは異なる。


 また,5 登録第4795043号「八百屋さんのフルーツゼリー」(甲4の1),6 登録第4689409号「くだもの屋さんのプルーン」(甲4の2),7 登録第4526012号「牛乳屋さんの珈琲」(甲4の3),8 登録第4529750号「牛乳屋さんの珈琲」(甲4の4),9 登録第4351001号「牛乳屋さんの珈琲」(甲4の5),10 登録第4287749号「牛乳屋さんのミルクココア」(甲4の6),11 登録第4287750号「牛乳屋さんのあじわいココア」(甲4の7),12 登録第4287747号「牛乳屋さんのミルク紅茶」(甲4の8),13 登録第4287748号「牛乳屋さんのカフェ・オ・レ」(甲4の9),14 商公平8−113897号「牛乳屋さんのミルクセーキ」(甲4の10)は,職業に「さん」を付けたものと商品名を「の」で結合した点において本願商標と共通するが,本願商標とは,職業も商品名も異になる。


 さらに,15 登録第4868259号「農家の梅」(甲6の1),16商公平7−33471号「ドクターの赤汁」(甲6の2)は,「の」の前後の言葉が本願商標とは異なる。


 したがって,本願商標が商品の品質を表したものと理解されるからといって,直ちに上記3〜16の商標が商品の品質を表したものと理解されるということはできない。まして,本願商標が商品の品質を表したものと理解されるからといって,「の」の格助詞が,商品又は役務名を含む二つの名詞を結合するものとして使用されている商標(甲7参照)のすべてについて,その識別性が否定されることとなるということはない。

 なお,1 登録第4933176号「お医者さんの低反発円座クッション」(甲2の1),2 登録第4715560号「お医者さんのコルセット」(甲2の2)は,「お医者さん」と商品名を,格助詞の「の」で結合した点において,本願商標と共通する。そして,仮に,そのことにより,上記1,2の登録商標が商品の品質を表したものと理解されるとしても,そのことは,上記1,2の登録商標とは異なる本願商標について商品の品質を表したものと理解されるとの上記判断を左右すべき理由にはならない。


(イ) 原告は,審決に表れたインターネットのホームページ情報はわずか4件にすぎないから,一般的な用法を基礎付ける資料として不足している上,これら審決が指摘した4件のうち,3件は,原告の「お医者さんの」シリーズ商標の著名性にフリーライドしたメイダイの製品に関する広告としてのホームページであり,メイダイは,原告の警告によって「お医者さんの」という文言の使用を停止した,と主張する。


 しかし,健康に関連する商品について医師等の専門家が開発・考案したことを宣伝広告することによって,商品への信頼性を高めることが行われており,それらの中には,原告以外の商品について,「お医者さんの…」という商品名が用いられる例があること,その他にも商品名において格助詞「の」が「〜が作った」の意味で使用されている事例があることは,前記ウ,エのとおりであって,審決が認定した事例に限られない。


 また,原告以外の商品について「お医者さんの…」という商品名が用いられる例(前記ウ(ク)並びに(ス)のl,m,n,o及びp)のうち,前記ウ(ク)及び(ス)のl,m,nの広告は,原告の主張によると,メイダイの製品である可能性があるが,前記ウ(ス)のo,pについては,そのような事情はない。そして,メイダイが,原告が主張するように,原告より後から「お医者さんの…」という商品名の使用を始めたとしても,もともと本願商標は,前記のとおり識別力に乏しいことからすると,必ずしもフリーライドということはできない。また,メイダイが,原告の警告によって,「お医者さんの」という文言の使用を停止し,「医学博士の」という文言に変更しているとしても,メイダイが原告との紛争を避けるために変更したとも考えられ,本願商標が,単に商品の品質を表したものと理解されることはなく識別性を有することの根拠となるものではない。


(ウ) 原告は,格助詞「の」については,各種用法があり,職業を表す名詞と商品を表す名詞を「の」で接続した語について,直ちに,当該職業の人が作った商品であると理解認識されるものとは認められない,と主張する。


 格助詞「の」について,各種用法があることは,原告が主張するとおりである(広辞苑第五版[甲13の1]2078頁)が,前記イ〜エのとおり,格助詞「の」の用法に,本願の指定商品にかかわる取引の実情等を考慮すると,本願商標は,「お医者さん」が開発・考案した「ひざベルト」の意味に理解されるものと認められ,商品の品質を表したものと理解されるのであって,格助詞「の」について各種用法があることは,この認定を左右するものではない。


 原告は,「ひざベルト」という商品は医師が作るものではないとも主張するが,前記ウのとおり,本願の指定商品である「保温用サポーター」は,健康に関連する商品であるから,それを医師が開発・考案することがあるものと考えられるのであり,そのような意味で原告の主張は採用することができない。


(エ) 原告は,「お医者さんのひざベルト」の語自体は商標として機能する商品の出所を示す語句であり,広告中でB医師が考案したことが記載されている部分は商品の補足的な説明にすぎない,と主張する。


 しかし,前記ウ(ア)のとおり,原告が行っている「お医者さんのひざベルト」の広告の多くに,「お医者さんのひざベルト」は,B医師が開発・考案したものである旨の記載があることは,本願商標について「お医者さん」が開発・考案したものであると理解されることを示す事情ということができるのであり,前記イ〜エのその他の事情も総合すると,前記のとおり,本願商標は商品の品質を表したものと理解されるというべきである。


(オ) 原告は,現実に広く使用されたことにより,他社製品を識別できるだけの機能を有するに至った商標について,商標法3条1項3号又は6号に該当しないとする審決例(甲18〜21)が存する旨主張するが,甲18〜21は,本件とは異なる商標についての特許庁の判断であるから,本願商標が商標法3条1項3号に当たるとの判断を左右するものではない。


(カ) 以上のとおり,原告の主張はいずれも採用することができない。


キ よって,原告主張に係る取消事由1は理由がない。   』

と判示されました。


 なお、本件では、本訴訟において、原告が、審決時に主張しなかった3条2項、すなわち商標の使用による識別力の取得について新たに主張され、これに対しても判断されていますので、3条2項の適用の可否については、明日紹介します。