●平成18(行ケ)10427 審決取消請求事件「ハルンナート HARNNAT」

  本日は、『平成18(行ケ)10427 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「ハルンナート HARNNAT」平成19年03月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329100330.pdf)について取上げます。


 本件は、商標法4条1項15号の無効審決の取消を求めた審決訴訟で、その請求が棄却された事案です。


  商標法4条1項15号の判断が参考になります。


 つまり、知財高裁は、

『1 本件商標の商標法4条1項15号該当性について

(1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者,需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者,需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきである(最高裁第三小法廷平成12年7月11日判決・民集54巻6号1848頁参照)。


(2) 本件商標は,「ハルンナート」の片仮名文字と「HARNNAT」の欧文字とを上下二段に書してなり,指定商品を第5類「薬剤」とするものである。


 これに対し,無効審判において,被告(請求人)が引用した引用商標は,「ハルナール」の片仮名文字と「HARNAL」の欧文字とを上下二段に書してなり,指定商品を第1類「化学品(他の類に属するものを除く)薬剤,医療補助品」とするものであり,平成元年12月25日に設定登録されて以来,継続して商標登録がされていること(甲4,5),被告(名称変更前の山之内製薬株式会社を含む。)が,その業務に係る商品である「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」(以下「被告商品」という。)を表示するものとして,「ハルナール」,「HARNAL」又は「Harnal」との標章(以下「使用標章」という。)を使用しており,審決の認定するとおり,「本件商標の登録出願時(注,平成15年12月15日)には,請求人(注,被告)の前身である山之内製薬株式会社が,商品『前立腺肥大症の排尿障害改善剤』(注,被告商品)を表示するものとして,少なくとも医療用医薬品を取り扱う業者,前立腺肥大症の排尿障害改善剤に係わる専門医,薬剤師などその取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認められ,その著名性は,本件商標の登録査定時(注,平成16年7月2日)に至るまで継続していたものということができる」(審決謄本19頁第2段落)ことは,いずれも当事者間において争われていない。


(3) 本件商標と使用標章の類似性についてみると,本件商標は「ハルンナート」との称呼を生じ,使用標章は「ハルナール」との称呼を生じる。そして,「本件商標より生ずる『ハルンナート』の称呼と引用商標(注,審決の「理由」欄「第5 当審の判断」の項〔審決謄本14頁以下〕の全趣旨に照らすと,「使用標章」の趣旨と解される。)より生ずる『ハルナール』の称呼を比較すると,両称呼は前者が6音構成であるのに対し,後者が5音構成よりなるものであるが,称呼において印象に強く残る語頭部分において『ハル』の2音と,語尾部の『ナー』の2音の4音を共通にし,中間部の『ン』の有無と末尾部分の『ト』と『ル』(に)差異を有するものである。そして,中間部における撥音『ン』は,鼻音であって弱い音で,しかも比較的聴取し難い中間部に位置するものであり,また差異音『ト』と『ル』は,比較的聴取し難い語尾に位置し,前音の長音『ー』の母音(a)(に)吸収され一層,不明瞭なものとなる。してみると,両称呼をそれぞれ全体として称呼するときは,互いに聞き誤られるおそれがあるというのが相当である」(審決謄本19頁第6段落〜第8段落)ことは,審決の説示するとおりである。およそ,複数の文字を書してなる商標において,語頭部や長音の前に置かれて長音と一体となる部分は,称呼において,明りょうに発音され,印象にも強く残り,外観においても,印象に残る部分であるところ,本件商標と使用標章は,一般的に,明りょうに発音され,印象にも強く残る語頭部の「ハル」,及び,長音の前に置かれて長音とともに明りょうに発音される「ナー」を共通にする一方で,差異がある他の部分は,必ずしも明りょうに発音されるとは限らず,称呼における共通性がある。


 また,本件商標と使用標章の外観についても,審決の説示するとおり,「本件商標と使用標章は,上記のとおり,片仮名文字『ハルンナート』と『ハルナール』,欧文字『HARNNAT』と『HARNAL』を書してなるものである。そして,本件商標と使用標章は,その構成中の片仮名文字部分においては,中間における『ン』の1文字の有無及び語尾における『ト』と『ル』の文字の差異を有するとしても,印象に残りやすい語頭部の『ハル』と,中間部の『ナー』の文字の併せて4文字を同じくするものであり,また,欧文字部分においては,同様で印象の薄い中間における『N』の1文字の有無と,語尾における『T』と『L』の文字の差異を有するにすぎないものであるから,両者を時と処を異にして離隔的に観察した場合,外観においても,似かよった印象を与えるものである」(同頁最終段落〜20頁第1段落)と認められる。そうすると,本件商標と使用標章は,一般的に,片仮名文字部分の外観において,特に印象に残りやすい語頭部の「ハル」の部分のほか,これも外観上,印象に残りやすい部分といえる,長音の前に置かれて長音と一体となる部分である「ナー」の部分を共通にし,欧文字部分の外観において,印象に残る語頭の「HAR」の文字を共通にするのに対し,差異の部分は,語尾のほか,「N」が1個か2個続くかという,特に印象に残る部分ではなく,本件商標と使用標章は,全体として,外観上,共通する印象を与えるものである。


 したがって,本件商標と使用標章の称呼,外観の類似性は高いものがあると認められる。


(4) 使用標章は,前記(2)のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時を通じ,被告商品である「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」を表示するものとして,少なくとも医療用医薬品を取り扱う業者,前立腺肥大症の排尿障害改善剤にかかわる専門医,薬剤師などその取引者,需要者の間に広く認識されていたと認められるところ,本件商標の指定商品である「薬剤」には,「前立腺肥大症の排尿改善剤」が含まれ,また,「前立腺肥大症の排尿改善剤」の取引者,需要者と「薬剤」の取引者,需要者は共通するばかりでなく,それ以外の薬剤についても,被告商品と需要者,生産者,販売系統等を共通にする部分が多いものと認められる。


 そして,前記(3)のとおりの本件商標と使用標章の称呼,外観の類似性の高さの程度に,使用標章の著名性及び本件商標と使用標章の取引者,需要者の共通性を考慮すれば,本件商標は,これを指定商品である薬剤について使用した場合には,同商品が被告又は被告と資本関係ないしは業務提携関係にある者の業務に係る商品(被告商品)であるかのように,その取引者,需要者に,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあると認めることができ,本件商標の登録は商標法4条1項15号に違反してされたものであるとした審決の判断に誤りはないものというべきである。   』

と判断されました。


 本判決では、その他、原告の主張された「取消事由1(商標の類似性に関する理由不備の違法)について」と、「取消事由2(出所混同のおそれに関する理由不備の違法)について」とについても判断していますので、興味のある方は本判決文を参照して下さい。


 尚、本判決文で引用している最高裁判例は、本日記でも何度か取上げた『平成10(行ヒ)85 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成12年07月11日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/2BD2D9C68C5FF8C049256DC70026814F.pdf)の「レールデュダン事件」であり、


 本最高裁判決では、

『【要旨1】 商標法四条一項一五号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。

 けだし、同号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ、その趣旨からすれば企業経営の多角化、同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成、有名ブランドの成立等、企業や市場の変化に応じて、周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益を保護するためには、広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。


【要旨2】「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。


の2つのことを判示しています。


追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ワ)4183 職務発明の対価請求事件 特許権 民事訴訟「折丁結束前処理装置」平成19年03月29日大阪地方裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070404170920.pdf
●『平成18(ワ)2811 実用新案権侵害差止等請求事件 実用新案権 民事訴訟「ジョークラッシャ」平成19年03月29日 大阪地方裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070404170441.pdf
●『平成16(ワ)11060 職務発明の対価請求事件 特許権 民事訴訟「ポリアミド溶融物のゲル化防止方法」平成19年03月27日 大阪地方裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070405155911.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『知財管理、失敗生かせ 特許庁、異例の「事例集」』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070405-00000008-san-bus_all
●『欧州委員会EU共通の特許システムを提言』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070405-00000027-zdn_n-sci
●『欧州委員会EU共通の特許システムを提言』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0704/05/news015.html
●『エプソンの主張認める仮決定が下る、米国インクカートリッジ特許訴訟』http://www.nikkeibp.co.jp/news/manu07q2/530111/
●『リーボック、折りたたみ式の靴の特許侵害でナイキを提訴(リーボック)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=1168
●『リーボックがナイキを提訴、特許侵害と』http://www.cnn.co.jp/business/CNN200704040018.html
●『キャラクターは著作権が切れても簡単に使えない』http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20070402/122215/
●『2007/04/05-23:15 知財権で刑事処分強化=対米摩擦にも配慮−中国』http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2007040501008
●『知的財産権侵害事犯が急増、ネット関連は10年間で10倍以上に(警視庁)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=1172
●『世界の日本論文引用件数、物理・化学などがリード−文科省がマップ(日刊工業新聞)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=1172