●平成18(ネ)10052 特許権侵害差止等請求控訴事件「乾燥装置」

  本日は、『平成18(ネ)10052 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「乾燥装置」平成19年03月27日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070328112314.pdf)について取上げます。


 本件は、原審(東京地方裁判所平成17年(ワ)第14066号,平成18年4月26日判決(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060508131937.pdf))の取消を求めた控訴審で、本件控訴は棄却された事案です。


 なお、原判決は、

 『本件各特許権に係る各特許請求の範囲第1項の発明における「複数枚の基羽根」,又は「複数枚配設されている基羽根」との要件に係る「複数枚」とは,本件各特許権に係る明細書の記載を参酌すると,それぞれ最下段に複数枚の基羽根が配設されていることを意味するものと解釈されるところ,被控訴人が製造販売する乾燥装置は,最下段に1枚の羽根しか有しておらず,また,同乾燥装置において使用されている乾燥方法は,最下段に1枚の羽根しか有していない乾燥装置において用いられている乾燥方法であるから,それぞれ上記各発明の構成要件を充足しない,2最下段に複数枚の基羽根を配設することは,上記各発明の本質的部分に当たり,これを充足しない上記乾燥装置又は乾燥方法が上記各発明と均等であるとすることはできない。』

として,控訴人らの請求を棄却したものです。


 そして、知財高裁(第4部 塚原朋一裁判長)は、


『 (1) 当裁判所も,本件各発明の特許請求の範囲に記載された「複数枚」という用語は,最下段に複数枚の基羽根が配置されていることを意味するものと解するものである。その理由は,後記(2)のとおり付加し,後記(3)のとおり,当審における控訴人らの主張に対し判断するほかは,原判決事実及び理由欄の「第3 争点に対する当裁判所の判断」の1の(1)〜(3)(46頁11行〜60頁3行)のとおりであるから,これを引用する。


(2) 原判決への付加

ア 原判決53頁7行の次に,項を(ウ)項に改めて,下記のとおり付加する。

「(ウ) 本件発明Aの構成要件A1の「複数枚」が,最下段に複数枚の基羽根が配置されていることを意味すると解釈されるべきであることは,本件特許権1に係る出願当初の明細書(乙14,以下「当初明細書A」という。)の記載からも裏付けられる。


すなわち,当初明細書Aには,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明として,下記の記載があった。


a 特許請求の範囲
「【 請求項1】 被乾燥物3を投入する内部が円筒形状の乾燥槽4と,伝熱手段からの熱を被乾燥物3に伝える乾燥槽4内壁面の伝熱面2と,上記乾燥槽4の周囲に位置し,上記伝熱面2に熱を伝える伝熱手段と,上記乾燥槽4内に回転可能に配設された回転羽根とから成る乾燥装置1に於て;
 上記回転羽根は,それぞれの羽根が伝熱面2と間に被乾燥物3を伝熱面2に接触せしめ得るようなクリアランスUを有しつつ,上記伝熱面2に沿って回転方向Rと逆方向の斜め上方に伸び,且つこのそれぞれの羽根が平面かに見て360度の円周範囲内の長さを有する複数枚の基羽根5aから成る回転巻上羽根5であり,而もこの回転巻上羽根5は,上記被乾燥物3を複数枚の基羽根5a上に載せて巻き上げつつ,遠心力Pによって伝熱面2に押し付け,且つ伝熱面2に沿って連続して上昇させることで被乾燥物を乾燥させるよう構成されていることを特徴とする回転巻上羽根5を有する乾燥装置。


【請求項2 】上記回転上羽根5(判決注: 「回転巻上羽根5」 の誤記と認める。)の複数を乾燥槽4内の重力方向に沿って垂直に配設した中心回転軸21に多段と成して配設し,上記中心回転軸21を回転させて多段と成す回転巻上羽根5を回転させることにより,上記被乾燥物3を各段で巻き上げつつ,伝熱面2に押し付けて上昇させ,最下段の回転巻上羽根5から最上段の回転巻上羽根5まで連続して上昇させて乾燥させることを特徴とする請求項1記載の回転巻上羽根を有する乾燥装置。」


b 発明の詳細な説明

・・・省略・・・

 上記当初明細書Aの特許請求の範囲の請求項1には 「複数枚の基羽根」に関して,「上記回転羽根は ・・・複数枚の基羽根5aから成る回転巻上羽根5であり」との記載があるから,当初明細書Aの請求項1記載の発明において,1ユニットの「回転巻上羽根5」が複数枚の「基羽根5a」から成るものであったことが認められる。


 他方,請求項2は,請求項1の従属項であり,複数の「回転巻上羽根5」を中心回転軸21に多段と成して配設した請求項1記載の乾燥装置について規定していたものであるが,その記載から,「回転巻上羽根5」は,それが複数ある場合には,中心回転軸21に多段と成して配設し,最下段の「回転巻上羽根5」から最上段の「回転巻上羽根5」まで,各段に区分することができるような態様のものであったこと,すなわち,1ユニットの「回転巻上羽根5」は1段から成る態様のものであったことが認められる。そして,請求項2は,「回転巻上羽根5」自体の態様には,何ら限定を加えていないから,その「回転巻上羽根5」の態様は,請求項1記載のものと同じはずであり,また,請求項1は,回転巻上羽根5について,それが1ユニットである場合と複数ある場合とを全く区別していないのであるから,上記のような回転巻上羽根5の態様は,1ユニットである場合にも当てはまるものというべきである。そうすると,請求項1の「回転巻上羽根5」も,1ユニットが1段から成る態様のものであり,かつ,その1ユニットが複数枚の「基羽根5a」から成るものであったことは上記のとおりであるから, 結局, 当初明細書Aの請求項1には基羽根5aが複数枚で1段をなすものであったことが記載されていたのであり,このことは,乾燥槽底部の最下段においても,もとより異なるところではない。


 そして,当初明細書Aの発明の詳細な説明には,上記のとおり,特許請求の範囲の請求項1記載の発明及び請求項2記載の発明について,上記構成及び実施例等が記載されており,乾燥槽底部の最下段の基羽根が複数枚ではないことが窺われるような発明については,全く記載がない。


 しかるところ,本件発明Aの特許請求の範囲(本件特許権1に係る特許請求の範囲の請求項1)は,上記当初明細書Aの記載の範囲内において補正を経たものであるから,上記のとおり,当初明細書Aに記載された発明が,乾燥槽底部の最下段に複数枚の基羽根が配設されたもの以外を含むものとは認められない以上,本件発明Aにおいて,乾燥槽底部の最下段に配設される基羽根が,複数枚であっても,1枚であってもよいとして,補正が許されるはずはなく(平成6年法律第116号による改正前の特許法17条以下) ,本件発明Aの乾燥槽底部の最下段に配設される基羽根は複数枚であるとの理解に基づいて,本件特許権1の特許査定及び登録がなされたことは明らかである。」。


イ 原判決53頁21行の次に,項を(ウ)項に改めて,下記のとおり付加する。

 ・・・省略・・・


(3) 当審における控訴人らの主張に対する判断

ア 控訴人らは,争点1の1aにつき,本件発明Aの構成要件A1,本件発明Bの構成要件B1及び本件発明Cの構成要件C2の各「複数枚」は,いずれも,最下段に複数枚の基羽根が配置されていることを意味するとした原判決の解釈が誤りであると主張し,その根拠として,まず,本件発明A〜Cの技術的範囲は,特許法70条1項に基づき,本件特許権1〜3に係る各特許請求の範囲の請求項1の字義どおりに解釈されるべきであり,みだりに他の要件を付加することは許されないと主張する。


 しかしながら,同法70条2項(平成14年法律第24号による改正前のもの)は,「前項の場合においては,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と定めるところ,本件各発明の特許請求の範囲に記載された,複数枚の用語が,特許請求の範囲の記載から一義的に明確であるといえないことは,以下のとおりである。


 すなわち 本件発明Aの特許請求の範囲は,上記(原判決3頁14行〜4頁6行)のとおりである。同特許請求の範囲において 「基羽根5a」の乾燥槽4内における上下方向の設置位置及び複数枚の「基羽根5a」の相互の位置関係を規定する記載はほとんどないが,各「基羽根5a」は,回転中,被乾燥物を,平坦面8の一端部18側から平坦部8に載せて,斜め上方に伸びる他端部19側へ移動させた上,各「基羽根5a」ごとに上方へ巻き上げる作用を有することが規定されている。そうすると,少なくとも,被乾燥物が各「基羽根5a」の平坦面8の一端部18側から平坦面8に載って他端部19側へ移動するという技術事項を実現する前提として,回転当初及び回転中,複数枚の「基羽根5a」が,それぞれの平坦面8の一端部18において,被乾燥物(回転当初は重力によって乾燥槽の底部に堆積しているものと推認される )を平坦面8上に載せるための技術的手段が必要であり 「基羽根5a」の乾燥槽4内における上下方向の設置位置がこれに関連することは明らかであるが 「基羽根5a」が複数枚であることや,その相互の位置関係がこの技術事項と関連することも十分考えられるところである。他方,上記のとおり,複数枚の「基羽根5a」は,各「基羽根5a」ごとに被乾燥物を上方へ巻き上げるものであるから 「基羽根5a」が複数枚であることは,被乾燥物の巻上量を向上させる技術手段とされていることも窺われるところ,この点に対しても,複数枚の「基羽根5a」の設置位置や,相互の位置関係が関連を有するものである。そうすると,同特許請求の範囲の記載によっては,「基羽根5a」が複数枚であることの技術的意義が一義的に明確であるということはできない。

 ・・・省略・・・


 したがって,本件各発明の特許請求の範囲に基づいて,本件各発明の技術的範囲を解釈するに当たり,本件各明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を参酌する必要があることは明らかである



イ 控訴人らは,本件各発明の特許請求の範囲においては,「複数枚の基羽根」は360度の円周範囲内の長さに定められたものであり,1枚の基羽根の長さが360度の場合には,同一高さに複数枚を設けると,基羽根同士が干渉を起こしてしまうため,同一高さには1枚しか設けることができないから,最下部に複数枚の基羽根を設けることは,本件各発明の必須の要件ではないと主張する。


 しかしながら,本件各発明の特許請求の範囲においては,「360度の円周範囲内の長さ」 (本件発明A,B),「360度の円周範囲の中 」(本件発明C)と規定されているものであり,360度より小さい角度に対応する長さがこれに含まれることは明らかである(乾燥槽の最下段に複数枚の基羽根を設けるとした場合,その最小枚数は2枚であり、その場合に、360度の範囲内で、1枚は360度に近く他の1枚は0度に近いものとすることも,理論上はあり得るところ,そのような態様も含めて,最下段の複数枚の基羽根を特許請求の範囲に記載しようとするときにその長さを「360度以内」と規定することは常套手段ともいうべき記載方法である。) 。たとえ,乾燥槽の最下段に1枚の長さが360度であるような基羽根を2枚設ける場合を想定したとしても,当該2枚の基羽根の各一端部(本件発明Aを例とすれば 「一端部18」に相当する部分)の位置をずらすことにより,基羽根同士の干渉が生じない部分が生ずることになるから(上記一端部を180度ずらして,回転軸を中心とする点対称位置とした場合には,2枚合わせて360度の範囲で干渉が生じないことになる ,本件各発明が実施できないというものではない。)。したがって,本件各発明の特許請求の範囲における「360度の円周範囲内の長さ」、「360度の円周範囲の中」との記載が,最下段に複数枚の基羽根を設けることと齟齬するものではない。


 なお,控訴人らが主張するように,従来の1枚の垂直螺旋回転羽根をばらばらに切り離し,複数枚の基羽根としたことが,本件各発明の本質的部分であるとした場合,当該各基羽根の長さは,元が垂直螺旋状である以上,360度を超えても差し支えないはずであるから,これを「360度の円周範囲内の長さ」に限定するとすれば,360度に臨界的意義又は効果があるはずであるが,その点について,本件各明細書には,首肯するに足りる記載はない。


ウ 控訴人らは,本件各明細書に示された,従来の1枚の垂直螺旋回転羽根式乾燥装置が有していた課題は,巻上げの始まりの箇所が1箇所であること自体ではなく,乾燥槽内の底部に位置する被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物の量が少なく,早期に被乾燥物を伝熱面に接触させることが難しいとともに,底部に被乾燥物が溜まった状態が続きやすく,乾燥効率を向上させ難かったという点 すなわち課題3であり,このような課題の解決策として,底部の羽根を複数枚にすることが不可欠ではないと主張する。


 しかしながら,控訴人らが,上記課題の解決策として底部の羽根を複数枚にすることが不可欠ではないとする根拠として挙げる事由のうち,羽根の長さが360度の場合には複数枚を設けても干渉により全体の乾燥効率が妨げられるという点は,上記のとおり失当である。また,控訴人らは,底部の羽根を複数枚にすることが,特開昭61−107082号公報(甲16)等により容易想到とされるおそれがあることを理由に挙げるが,本件各明細書及び図面には,底部の羽根を複数枚とした実施例が記載されており,控訴人らの主張によっても,本件各発明が底部の羽根を複数枚にする態様を含んでいることは明白であるから,上記理由が失当であることは明らかである。


 さらに,本件各明細書は,従来技術として1枚の垂直螺旋回転羽根から成る乾燥装置を挙げ,当該従来技術について,本件明細書A,Bでは課題3を含む5個の課題,本件明細書Cでは課題3を含む4個の課題を指摘しているところ,控訴人らはこれらの課題を総合すると,底部の羽根を複数枚にすることではなく,1枚の垂直螺旋回転羽根をばらばらに切り離した構成とすることが,課題の解決に資するものと主張する。


 しかしながら,当該従来技術に係る課題とは,課題3のほか,1被乾燥物が粘性の強いものであった場合,被乾燥物がいったん一枚の垂直螺旋回転羽根や伝熱面のある部分に付着すると,他に搬送路がないので,上記付着部分で渋滞が生じ,団子状に拡大して上下の羽根の間が詰まって,被乾燥物の上昇がせき止められること,2垂直螺旋回転羽根が1枚であるため,垂直螺旋回転羽根と伝熱面の間のクリアランスは上から下まで存在し,当該クリアランスに,いったん被乾燥物に混じった異物が噛み込むと,異物の逃げ場がなく,垂直螺旋回転羽根が良好に回転しなくなるおそれがあったこと(本件明細書Cには,2の課題の記載はない。) ,4被乾燥物を遠心力によって伝熱面に押し付けたときに,垂直螺旋回転羽根の上下の羽根の間のピッチに,使用されない伝熱面部分が生じやすく,伝熱面全面を有効に活用していなかったこと,5垂直螺旋回転羽根には種々の被乾燥物に対する最良の回転速度があり,効率よく乾燥させようとした場合,上記回転速度の調節は欠かせないものであるが,この調節が面倒なものであったこと,というものであるところ,1枚の垂直螺旋回転羽根をばらばらに切り離したとの特定の構成が,上記各課題の解決にどのように作用するかについて,本件各明細書には何らの記載もないのみならず,本件各明細書の特許請求の範囲の「複数枚」という記載を、「乾燥槽底部の最下部に複数枚」という意味に解した上,上記各特許請求の範囲によって特定される各発明と比較して,1枚の垂直螺旋回転羽根をばらばらに切り離した構成とすることが,上記各課題の解決により資することを認めるに足りる証拠もなく,控訴人らの上記主張を採用することはできない。


 なお,控訴人らは,この点に関連して,1枚の垂直螺旋回転羽根をばらばらに切り離した構成は,課題3及び作用効果3に関しては,上記従来技術と同等であっても,その他の課題及び作用効果に関しては著しい向上が見られるはずであり,そうであれば,特許発明と同等の保護が与えられてよいはずであると主張するが,当該主張に係る1枚の垂直螺旋回転羽根をばらばらに切り離した構成が,本件各発明の技術的範囲(均等論に基づく場合を含む。)に属さないとすれば,他の特許発明に属するとの主張がない本件において,「特許発明と同等の保護」が付与される法律上の根拠はなく,上記主張は,それ自体失当である。


エ 控訴人らは,本件各発明は,複数枚の基羽根方式の乾燥装置としてのパイオニア発明であり,それにふさわしい保護を受ける資格があるものであるとも主張するが,本件においては,被控訴人装置が本件各発明の技術的範囲に属するか否か(均等論による場合を含む)が問題なのであって,その点を離れ,本件各発明がパイオニア発明であるとか,それにふさわしい保護を受ける資格があるなどとする主張が無意味であることは明らかであり,上記主張もそれ自体失当である。  』

 と判示されました。



  結論は、これで良いと思うのですが、本判決は、「同法70条2項(平成14年法律第24号による改正前のもの)は,「前項の場合においては,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と定めるところ,本件各発明の特許請求の範囲に記載された,複数枚の用語が,特許請求の範囲の記載から一義的に明確であるといえないことは,以下のとおりである。・・・ したがって,本件各発明の特許請求の範囲に基づいて,本件各発明の技術的範囲を解釈するに当たり,本件各明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を参酌する必要があることは明らかである。」というように、70条2項を例外として採用する査定系の特許発明の要旨認定の仕方を示したリパーゼ最高裁に基づく判断の流れのように感じられ、個人的には、本件は差止請求控訴審の当事者系裁判であることを考慮すると、70条2項を原則として採用して特許発明の技術的範囲の解釈した方が良かっのではと思いました。



 なお、本件の原審(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070328112314.pdf)でも、東京地裁(第29部 清水節裁判長)は、

『特許発明の技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないが,特許請求の範囲の記載のみに基づくのでは特許発明の技術的範囲が一義的に明らかにならないなどの場合は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の技術的意義を解釈すべきである(平成14年法律第24号による改正前の特許法70条1項,2項)。』

 と述べられており、侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の認定に際し、70条2項を原則適用するのか、特許請求の範囲の記載のみに基づくのでは特許発明の技術的範囲が一義的に明らかにならない等の場合に例外として適用するのか、少し気になりました。




 なお、本判決では、さらに、「争点4(被控訴人装置及び被控訴人方法は,本件各発明と均等か)」について、

『(1) 当裁判所も,最下部に複数枚の基羽根を配設する部分は,本件各発明の本質的部分に当たるというべきであるから,これを充足しない被控訴人装置及び被控訴人方法が,本件各発明と均等であるということはできないと解する。その理由は,当審における控訴人らの主張に対し,後記(2)のとおり判断するほかは,原判決事実及び理由欄の「第3 争点に対する当裁判所の判断」の2の(1)〜(3)(60頁5行〜61頁25行)のとおりであるから,これを引用する。


(2) 控訴人らは,被控訴人装置と,本件各発明の実施例の一つ(3枚羽根・4段方式であり,したがって,最下段の基羽根も複数であるもの)において,被乾燥物が伝熱面の全体にわたって薄膜状に広げられて伝熱面に接触している状態は,最下部を含めて相違がなく, 被控訴人装置においては, 最下部における基羽根の長さが他の基羽根の長さの約2倍とされ,巻上げ能力が高められているとした上,このような点にかんがみると,最下部の羽根を複数枚にする構成が,本件各発明の課題解決のための手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分(本質的部分)に当たるとすることは根拠がなく,従来の1枚の垂直螺旋回転羽根をばらばらに切り離し,360度以内の長さの複数枚の基羽根としたことが,本件各発明の課題解決のための手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分に当たると主張し,被控訴人装置及び被控訴人方法が,本件各発明と均等であるということはできないとした原判決の判断が誤りであると主張する。


 しかしながら,均等の要件に係る特許発明の本質的部分とは,明細書の特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうち,当該発明特有の課題解決のための技術手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分をいうものであるところ,本件各明細書の記載によって,本件各発明は,課題3を解決するための技術手段として,最下部の羽根を複数枚にする構成を採用し,この構成を採用したことが,本件各発明特有の課題解決のための手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分とされているものと認められることは,上記(原判決60頁13〜22行)のとおりである。このように,特許発明の本質的部分とは,当該特許発明に係る明細書の記載から把握されるものであって,客観的に見た場合に,上記課題解決のための技術手段として, 最下段の基羽根を複数枚とする構成が唯一のものであるかどうかあるいは最下段の基羽根を複数枚とする構成が,他の技術手段と比べ,優れているかどうかは別論である。


 したがって,被控訴人装置と本件各発明の実施例の一つをそれぞれ現実に稼働させた上,両者における被乾燥物の実際の挙動や,乾燥効率等を比較して,それに差がないから,被控訴人装置における構成ないしこれと近似した構成が,本件各発明の本質的部分に当たるとするような主張は,仮に,両者における被乾燥物の実際の挙動や,乾燥効率等に係る部分の主張がそのとおりであるとしても,誤りであることは明らかである。上記主張を採用することはできない。


3 以上によれば,控訴人らの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がない。  』

と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸;<気になった記事>

●『QUALCOMMNokia相手に新たに2件の訴訟』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070404-00000041-zdn_n-sci
●『WSJ-クアルコムノキアを特許侵害で提訴』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070404-00000015-dwj-biz
●『QUALCOMMの特許侵害訴訟,Nokiaへ新たに2件』http://www.nikkeibp.co.jp/news/it07q2/530055/
●『QUALCOMMNokia相手に新たに2件の訴訟』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0704/04/news010.html
●『QUALCOMMNokia の特許係争さらに過熱か?』http://japan.internet.com/allnet/20070404/12.html
●『インクカートリッジ特許訴訟、米ITCがエプソンの主張認める仮決定』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070404-00000081-reu-bus_all
●『米ITC、エプソン特許権侵害を認定=プリンター用インク訴訟で』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070404-00000148-jij-biz
●『サービス停止を免れるか、ボネージの回避策が明らかに--VoIP特許侵害訴訟』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070404-00000006-cnet-sci
●『インクカートリッジ特許訴訟、米ITCがエプソンの主張認める仮決定』http://www.thinkit.co.jp/free/news/reuters/0704/04/12.html
●『セイコーエプソン、米国での互換インクカートリッジ訴訟で特許侵害品の販売禁止の“仮決定”と発表』http://ascii.jp/elem/000/000/027/27016/
●『2007/04/04-19:05 米ITC、エプソン特許権侵害を認定=プリンター用インク訴訟で』http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2007040400844
●『エプソン互換インクカートリッジ訴訟で特許侵害が仮決定 』http://dc.watch.impress.co.jp/cda/other/2007/04/04/5994.html

●『“失敗”生かせ 特許庁知財管理で事例集  』http://www.sankei.co.jp/keizai/kseisaku/070404/ksk070404001.htm
●『戦略的な知的財産管理に向けて−技術経営力を高めるために−
知財戦略事例集>』
http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/chiteki_keieiryoku.htm
●『平成19年度「知財功労賞」の表彰について』
http://www.jpo.go.jp/torikumi/hiroba/19_tizai_kourou.htm