●平成18(行ケ)10239 審決取消請求事件 特許権 「管路補修工法」

  今日は、『平成18(行ケ)10239 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「管路補修工法」平成19年03月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329095807.pdf)について取上げます。


 本件は、進歩性なしの特許無効審決の取消しを求めた取消し訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、進歩性を否定するため組み合わせる引用例同士が技術的思想(目的,機能,効果)および技術課題が異なっており,技術分野に関連性がなく、進歩性否定の証拠として採用できないと判断した点で、参考になるものと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 篠原勝美裁判長)は、

2 取消事由2(進歩性判断の誤り)


…省略…


(2) 取消事由2(2)(相違点3及び4についての判断の誤り)について

ア 審決は,「 甲第4号証(注,引用例4)・・・には,金属表面における樹脂コーティングの形成に関して,コーティングを温水噴霧するか,またはそれを温水浴に浸漬することによって,前記コーティングを硬化することが,一応記載されている。しかしながら,甲第4号証には,温水噴霧による樹脂コーティングの硬化を管路補修工法に適用することも,管状ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂に適用することも,何ら記載されておらず,示唆もされていない。したがって,甲第4号証の記載から,甲2発明(注,引用発明2)または甲3発明(注,引用発明3)における樹脂硬化手段に代えて,温水のシャワリングを採用することは,当業者であっても容易に想到することとはいえない。」(審決謄本14頁第2ないし第4段落)と判断したのに対し,原告は,これを争い,「熱硬化性樹脂をいかに硬化させるか」という点で共通しているから,容易想到である旨主張するので検討する。


イ 引用例4(甲4)には,次の記載がある。


…省略…


ウ 上記記載によると,引用発明4は,金属を浸漬して金属表面にコーティングした自動積層組成物を硬化させることを目的とし,そのために,被覆された部分への温水の噴霧,新たに被覆された部分の温水への浸漬及び新たに積層されたコーティングのスチーム雰囲気への露出により,必要な温度に迅速に到達させ,こうして,コーティング特性を向上させるものである。


 一方,前記(1)アによると,引用発明2は,パイプライン又は通路の内張を行うことを目的としており,硬化性樹脂を含有する屈曲性の内張用管を,液体によって所定形状に成形し,その後,加熱水を循環して樹脂を硬化させるというものであって,加熱媒体,水の加熱に費用が掛かるという課題があり,特許請求の範囲記載のとおりの,「光」により樹脂を硬化させる技術によって解決されたものである。


 そうすると,引用発明2と4とでは,目的,機能,効果のいずれにおいても異なっているため,技術課題が異なっており,技術分野に関連性がないものというべきである。


 また,引用発明2においては,「これら既知の方法で満足すべき内張を実際に行うことができる。」(前記(1)ア(ウ))とあるように,内張技術自体では特に課題を抱えているわけではなく,むしろ,費用が掛かることに課題があるのであるから,引用発明4の,必要な温度に迅速に到達させることにより,コーティング特性を向上させるという効果(前記イ(エ))とは無関係である。


 結局,引用発明2と4とでは,技術思想及び技術課題が著しく隔たっているから,当業者において,引用発明2に引用発明4を適用して,相違点3に係る本件発明1の構成とすることは,想到困難であるというべきである。

エ 次に,引用発明3に引用発明4を適用して,相違点3に係る本件発明1の構成とすることの容易想到性について判断する。


…省略…


 そうすると,引用発明3と4とでは,目的,機能,効果のいずれにおいても異なっているため,技術課題が異なっており,技術分野に関連性がないものというべきであり,当業者において,引用発明3に引用発明4を適用して,相違点3に係る本件発明1の構成とすることは,想到困難であるというべきである。


オ 原告は,引用発明4に,「樹脂コーティングを温水噴霧することにより,これを硬化すること」の技術が開示されている以上,管路補修工法の分野に限らず,熱硬化性樹脂を硬化させる必要のある分野において,当該技術が調査,参考の対象になるのは当然であるから,容易想到性を否定することはできない旨主張する。


 しかし,「樹脂コーティングを温水噴霧することにより,これを硬化すること」といっても,ほとんど物理現象に等しい技術事項であって,証拠(甲1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,「樹脂コーティングを温水噴霧することにより,これを硬化すること」又は「樹脂を温水噴霧することにより,これを硬化すること」という技術に係る技術分野があるわけではなく,この技術が各種分野に応用されているのが実情であることが認められる。そして,引用発明2のように,パイプラインまたは通路の内張を行う場合,引用発明3のように,熱硬化性接着剤を塗付された柔軟な内張り材を加温,硬化する場合,引用発明4のように,金属を浸漬して金属表面にコーティングした自動積層組成物を硬化させる場合のそれぞれにおいて,技術として要求されるところが異なり,技術分野,技術課題も異ならざるを得ず,また,相互に必ずしも近接した技術分野であるとはいえない。


 そうすると,引用発明2に引用発明4を適用する契機,引用発明3に引用発明4を適用する契機があるということはできないから,原告の上記主張は,採用することができない。


カ したがって,「本件発明1は,甲第2号証〜甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない」(審決謄本14頁下から第2段落)とした審決の判断に誤りはない。


…省略…


3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。


 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。   』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。



追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10234 審決取消請求事件 特許権行政訴訟半導体露光装置」平成19年03月30日知的財産高等裁判所 』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330153450.pdf
●『平成18(ヨ)22046 著作隣接権等侵害差止請求仮処分命令申立事件 著作権 民事仮処分,「ロクラク??ビデオデッキレンタル」平成19年03月30日 東京地方裁判所 』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330182742.pdf
●『平成18(行ケ)10441 審決取消請求事件 商標権・行政訴訟「お医者さんのひざベルト」平成19年03月29日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070402164414.pdf
●『平成18(行ケ)10418 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ソフトアイスクリーム等のコーン容器」平成19年03月29日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070402154452.pdf
●『平成18(ネ)10054 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟「インフルエンザウイルス抗原検出試薬」平成19年03月29日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070402145037.pdf
●『平成18(行ケ)10211 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「成形可能な反射多層物体」平成19年03月28日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329131004.pdf
●『平成15(ワ)23981 補償金請求事件 特許権 民事訴訟「ゴースト像を除去する走査光学系」平成19年01月30日 東京地方裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070301123556.pdf
・・・キャノン職務発明事件の判決文です。356頁あります。


追伸2;<気になった記事>

●『IPO が特許改革に向けて新たな対処方針を決議〜損害賠償算定の明文化規定を提示、主観的要素の制限を主張〜』http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070402_2.pdf
●『USTR が2007 年外国貿易障壁報告書(NTE レポート)を公表』http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070402_1.pdf
●『下院小規模企業委員会「小規模企業における特許制度改革の重要性」に関する公聴会開催〜 USPTO 特許局長、先願主義移行に否定的な発言〜』http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070330.pdf
●『【中国】知財保護計画で「年内に関連法律整備」の方針 』http://news.braina.com/2007/0403/move_20070403_001____.html