●平成16(ワ)17929等 特許権侵害差止請求権不存在確認等請求事件 

  今日は、『平成16(ワ)17929等 特許権侵害差止請求権不存在確認等請求事件 特許権 民事訴訟「地図データ作成方法及びその装置」平成19年03月29日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330154901.pdf)について紹介します。


 本件は、被告が,参加人に対し,参加人が権利者である「地図データ作成方法及びその装置」に係る特許権に基づき,被告の地図データ作成方法及び同装置を使用することを差し止める権利を有しないことの確認(第1事件)等を求めた事案で、第1事件については被告の請求が認められた事案です。


 本件では、争点3−2として、いわゆるマニュアルが公知文献として認められ、進歩性欠如の証拠として特許法104条の3により権利行使が許されないものと認められた点で、参考になるものと思います。


 つまり、東京地裁(第46部 設樂隆一裁判長)は、


『当裁判所は,本件発明は,ARC/INFOマニュアルV5に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性欠如の無効理由を有すると判断するものである。その理由は,次のとおりである。

1 マニュアルV5が「日本国内又は外国において,頒布された刊行ARC/INFO物 (特許法29条2項,1項3号)に該当するかについて」

(1) 証拠(乙17,18,21,22,37,38,41ないし44)によれば,次の事実が認められる。

 ARC/INFOのマニュアル類は,ESRI 社により作成されたものであり,ライセンシーに配布することを目的とする文書である。被告とESRI社との間のディストリビュータ契約によれば,ARC/INFOのディストリビュータである被告は,ソフトウェアパッケージ(ソフトウェアをサポートするための図解,説明書,文書を含む )に関する秘密保持義務を課され,ディストリビュータの顧客も,ソフトウエアパッケージについて秘密保持義務を負い,顧客が一時に保有することのできるソフトウェアのコピーは3部に制限されている(乙17の11条) 。


 また,被告は,ソフトウェアパッケージを実演し,ESRI販売するため,ライセンシーとなることに同意した顧客から,事前に社が定めるライセンス契約書を徴求し, ESRI社の承認の後に,ライセンス対象プログラム及び必要なマニュアル類を配布することになっている(乙17の4条,6条。)


  ARC/INFOのライセンシーの数は,本件発明の優先日前である平成2年1990年 末の時点で約2700システムであり,日本国内に限ってみても平成3年(1991年)3月の時点で約80システム(ライセンス)であった。


  ARC/INFOのライセンシーは,米国及び60以上の諸外国の森林・自然資源機関,水管理機関,連邦諸機関,中央・地方政府,コンサルタント会社,石油会社,測量・地図会社及び大学等である。


  ARC/INFOライセンシーの のマニュアル類の使用実態は,次のとおりである(乙41ないし44。)

 オハイオ州立大学の地理学コースでは,ARC/INFO のすべてのバージョン(1987年から1991年)を受領しており,バージョン3及びバージョン5のマニュアル類もその都度受領していた。そして,ARC/INFO及び同マニュアル類は,地理情報システム研究室に出入りする教職員及び学生の利用に公然と供されていた。また,同研究室の教職員は,時々, ESRI社発行のマニュアルの全部又は一部をコピーし,教材として学生に配布していた。


 また,教職員や学生が使用する目的等のために,追加の部数のマニュアルをESRI社に求めたことが幾度かあり,それらを無料で受領している。カリフォルニア州立大学ノースリッジ校地理学部においても,遅くとも1987年ころには,ARC/INFO とそのマニュアルが教師及び学生により利用されており,その一部が学生に参考資料として,秘密保持義務を伴うことなしに,配付されていた


  ESRI 社の販売店及び販売員は,1980年代から1990年代にかけて販売現場で,ソフトウェアの性能を説明するために,将来の顧客及びビジネスパートナーに対し,上記マニュアル類(ARC/INFO のマニュアルバージョン3及び5)を継続的に使用して説明し,必要に応じ,秘密保持義務を課すことなく,その抜粋(写し)を提供していたESRI 社は,マーケティング活動において顧客となる可能性がある者に上記マニュアル類を提供することを被告にも推奨しており,被告のみならず,ESRI 社も,マーケティング活動において,何らの秘密保持義務を課すことなく,マニュアル類の抜粋を顧客となる可能性がある者に提供する場合があった


(2) 前記認定の事実によれば,ARC/INFO のマニュアル類は,ARC/INFO マニュアルV5も含め,多数のライセンシーとその社員,従業員,学生など不特定多数の人に頒布され,その内容が公開されていること,ARC/INFOマニュアル類自体には,ソースコード等の開示はなく(乙13,14) ,高度の秘密情報が記載されているものではないこと,ARC/INFO の営業活動においては,当該マニュアル類が実際には厳格に秘密として管理されておらず,契約条項において定められている秘密保持条項は,実際には,ソフトウエアを念頭に置かれたものであり,マニュアルについては営業政策上厳格な秘密保持義務を課していたとまでみることはできないことが認められ,以上によれば,マニュアルV5を含む上記マニュアル類は「日本国内又は外国において頒布された刊行物」に該当するものと認められる。


  したがって,ARC/INFOマニュアルV5は,日本国内又は外国において頒布された刊行物」として,進歩性を判断する資料となるものである。   』

と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。



追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ネ)10054 特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟「インフルエンザウイルス抗原検出試薬」平成19年03月29日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330153822.pdf
●『平成18(行ケ)10447 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「検定法」平成19年03月29日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330153437.pdf
●『平成18(行ケ)10013 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「小紙片印刷用積層シート」平成19年03月29日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330152356.pdf
●『平成18(行ケ)10372 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「弱電装置の複式接触ピンホルダー」平成19年03月29日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330152154.pdf
●『平成18(行ケ)10380 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「検定法」平成19年03月29日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330152201.pdf
●『平成18(ネ)10078 著作権侵害差止等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成19年03月29日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330151920.pdf
●『平成18(行ケ)10422 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「耐水性で発散作用のある履物用靴底」平成19年03月29日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330151919.pdf


追伸2;<気になった記事>
●『昨年の特許登録15%増・出願は絞込み、4.3%減 』http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070329AT3S2901J29032007.html
●『液晶の発明対価訴訟、シャープと開発の元研究員が和解』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070401-00000301-yom-soci
●『<シャープ>液晶の発明対価で元研究員と和解』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070402-00000021-mai-bus_all
●『 液晶発明対価訴訟 シャープが解決金 元研究員と和解』http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200704020026a.nwc
●『松下、台湾CMC社と和解=DVD関連の特許侵害訴訟』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070402-00000126-jij-biz
●『光ディスク特許権訴訟、松下が台湾メーカーと和解』http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20070402ib29.htm
●『松下電器、CMC社と和解 − DVD関連の特許侵害訴訟を取り下げ』http://www.phileweb.com/news/d-av/200704/02/18154.html
●『松下電器、DVD特許侵害訴訟でCMCと和解−10年間のクロスライセンス契約を締結 』http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070402/panacmc.htm
●『松下電器、CMC Magnetics(CMCマグネティックス)社と和解、DVD関連の特許侵害訴訟を取り下げ』http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn070402-3/jn070402-3.html
●『DJ-マグマ、シノプシスとの特許訴訟問題で和解に合意・株価17%高』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070402-00000020-dwj-biz
●『アルダージ関連』
特許権者(Patent Holders)http://www.uldage.com/patenth.pdf
再実施権者(Sublicensees)http://www.uldage.com/sublicensees.pdf
ARIB必須特許ポートフォリオhttp://www.uldage.com/aribepp.pdf
●『進歩性等に関する各国運用等の調査研究報告書(平成18年度(社)日本国際知的財産保護協会委託研究)』(特許庁
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/sinpo_tyousa.htm
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/sinpo_tyousa/01.pdf