●平成18(行ケ)10371 審決取消請求事件 バルサルタンの固体経口剤形

  本日は、『平成18(行ケ)10371 審決取消請求事件 特許権行政訴訟バルサルタンの固体経口剤形」平成19年03月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329144833.pdf)について取上げます。


  本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、請求が棄却された事案です。


  本件では、平成3年のリパーゼ最高裁高裁判決を引用していないものの、請求の範囲の「圧縮錠剤」の用語の意義を、明細書に記載された実施例に限定せずその用語のまま解釈しており、また、引用例に記載の間違いがあっても実施不能と判断せず、進歩性否定の引用例として採用したことに違法性がないと判断した点で、参考になるとものと思います。


  つまり、知財高裁(第3部 三村量一裁判長)は、

『1 取消事由1(相違点の看過)について

(1) 乙第1号証(3頁)によれば,「錠剤製造法の分類」として,「圧縮錠剤」は「間接圧縮錠剤」と「直接圧縮錠剤」に区分され,さらに,前者は「乾式錠剤」と「湿式錠剤」に分けられることが認められる。甲第14号証(136頁表II−4.)によれば,「圧縮錠剤」の打錠法は「直接打錠法」と「間接打錠法」に,そして後者はさらに「乾式」と「湿式」に分類されていることが認められる。したがって,圧縮固体経口剤の典型である錠剤の製造分野において,錠剤の「圧縮」という用語は,「間接圧縮(間接打錠)」及び「直接圧縮(直接打錠)」を含み,「間接圧縮(間接打錠)」には,「乾式」と「湿式」の両方が含まれると,一般に理解されていることが認められる。これによれば,本願の請求項1の「圧縮法」という用語に接した当業者は,これを上記の意味に理解するものと認められ,「乾式法による間接打錠法」のみに限定して理解することはないというべきである


(2) 原告は,本願明細書中に好ましい実施態様として記載されているのが「乾式圧縮法」だけであることから,請求項1の「圧縮法」が「乾式圧縮法」を意味すると主張する。


 しかし,「乾式圧縮法」は,本願明細書において「好ましい実施態様」(7頁5〜15行)とされているにすぎず,本願明細書の発明の詳細な説明中に,請求項1の「圧縮法」の意味が上記の通常の意味ではなく,「乾式法による間接打錠法」に限定されることを定義した記載はない。したがって,原告の主張を採用することはできない。


(3) 以上のとおり,審決に本願発明と引用発明との相違点を看過した誤りはない。


2 取消事由2(引用発明の実施不能)について


 原告は,引用発明が実施不能のものであると主張する。


 しかし,引用例の実施例93における「錠剤及び被覆錠剤1錠の重量及びその中のバルサルタン量」と「各原料成分の量及びその総量」の数値は合理的に対応しており(被覆錠剤1錠の重量283mgと原料成分の総量283.0g。被覆錠剤1錠のバルサルタン量100mgと原料バルサルタン量100g),原料成分の総量を被覆錠剤1個の重量(又は原料バルサルタン量を被覆錠剤1錠の中のバルサルタン量)で除して求められる「錠剤数」は「10,000個」ではなく「1000個」となる。


 また,引用例1の関連特許である米国特許第5399578号明細書及び欧州特許出願公開第443983号の実施例93(乙第4号証63欄,乙第5号証44頁1行)には,いずれも「組成(1000個の錠剤)」と記載されており,引用例1の実施例93の錠剤数が「1000個」の誤記であることと符合する。


 以上のとおり,当業者は,引用例1の例93の「組成(10,000個の錠剤)」との記載が「組成(1000個の錠剤)」の誤記であることを容易に理解することができるものと認められる。したがって,引用発明を実施不能ということはできず,原告の主張は失当である。


3 結論

 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りも認められない。

 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。



追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10373 審決取消請求事件 特許権行政訴訟「幅広い分子量分布を示すポリエチレンの製造方法」 平成19年03月29日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330150557.pdf
●『平成18(行ケ)10430 審決取消請求事件 意匠権行政訴訟「金属製ブラインドのルーバー」 平成19年03月29日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330103101.pdf
●『平成17(行ケ)10815 審決取消請求事件 特許権行政訴訟「免震装置」 平成19年03月29日 知的財産高等裁判所
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●『平成16(ワ)17929等 特許権侵害差止請求権不存在確認等請求事件 特許権民事訴訟「地図データ作成方法及びその装置」 平成19年03月29日 東京地方裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330154901.pdf
●『平成18(ネ)10042 特許権侵害差止等請求控訴事件 許権・民事訴訟「塑性加工用潤滑油剤」平成19年03月28日 知的財産高等裁判所
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●『平成18(行ケ)10371 審決取消請求事件 特許権行政訴訟バルサルタンの固体経口剤形」平成19年03月28日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329144833.pdf
●『平成18(ネ)10086 損害賠償請求控訴事件 特許権民事訴訟「電焼結装置」 平成19年03月28日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329144052.pdf
●『平成18(行ケ)10392 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「生海苔の異物分離除去装置」平成19年03月28日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329134813.pdf


追伸2;<気になった記事>

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