●平成18(行ケ)10374 審決取消請求事件 商標権「本生」

  今日は、『発泡酒「本生」、商標登録かなわず アサヒビール敗訴』(http://www.asahi.com/national/update/0328/TKY200703280295.html)や、『「本生」商標の独占ダメ!知財高裁がアサヒの請求棄却 』(http://news.braina.com/2007/0329/judge_20070329_002____.html)等の記事に掲載された、『平成18(行ケ)10374 審決取消請求事件 商標権・行政訴訟「本生」 平成19年03月28日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329133845.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決訴訟で、原告の請求が棄却された事案です。


 なお、審決の理由は、

『(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は,(1)(i)本願商標は,白塗りの袋文字で表した「本生」の文字に影を付けて表示してなるものであるところ,同書体は,一般的な文字飾りとして,普通に使用される方法を超えるものではないこと,(ii)「本生」の文字は,全体として「加熱殺菌していない本格的なもの」という意味を認識させるものであり、食品業界において「防腐剤や添加物等を加えていない無添加の商品,火入れしていない商品,天然素材を使用した本格的仕様の商品」等を表す語として普通に使用されていることを勘案すると,本願商標は,これを本願指定商品中「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」に使用してもこれに接する需要者をして単に商品の品質を表示したものと認識させるにすぎず,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであって商標法3条1項3号に該当する。


(2)本願商標は,本願指定商品中「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」以外のものに使用するときには,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから,商標法4条1項16号に該当する,(3)原告の取り扱いに係る「ビール風味の麦芽発泡酒」(以下原告商品という)は,「Asahi(アサヒ)の本生」として知られているとまではいい得るとしても,使用の結果本生の文字のみにより当該商品が何人かの業務に係るものであることを認識できるほど,取引者・需要者間に広く知られるに至ったものとまでは認めることができないから,本願商標が商標法3条2項に該当するとはいえない,と判断した。

・・・』

 というものです。


 そして、知財高裁(第3部 飯村敏明裁判長)は、


『1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)について

(1) 原告は,審決が,本願商標を構成する「本生」の文字について,「全体として『加熱殺菌していない本格的なもの。』ほどの意味合いを認識させる 。」,「食品業界において『防腐剤や添加物等を加えていない無添加の商品』,『火入れしていない商品』,『天然素材を使用した本格的仕様の商品』等を表す語として普通に使用されている」( 審決書3頁12行〜14行 ) と認定判断した点には誤りがある旨主張する。この点の当否を検討する。


 商標法3条1項3号は,商品の品質,生産方法等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標等については,商標登録を受けることができないと規定する。法が,同号に掲げる商標について,商標登録の適格を欠くとした趣旨は 1商品の品質等を表示する 記述的ないし説明的な標章はこれを商品に付したとしても,取引者・需要者は,当該標章を,自他商品の識別標識であるとは認識せず,単に商品の品質等を説明したものと認識するであろうから,結局,このような標章は,自他商品を識別する機能を欠くものとして,登録商標としてふさわしくないこと,また,2商品の品質等を表示する標章は,取引に際して,有用又は不可欠な手段として機能し,何人に対してもその自由な使用を確保させる必要性が高い場合があるから,商品の出所を識別させる目的で,特定人に独占的な使用を許すのは好ましくないこと等にあるものと解される。


 そこで,本願商標が,このような観点から,商標法3条1項3号に該当するか否かについて吟味する。


ア 事実認定

 証拠(甲15〜16の4,乙1の1〜4の5,乙6〜16,乙17の1〜17の12,乙18〜22)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠はない。

(ア) 「本生」 の語は,辞典類には掲載されていない。日本酒の分野では古くから杜氏蔵人言葉で「生酒」のことを「本生」ともいっていることが指摘されているが,(乙22) ,特殊な用法といえる。

 また 辞書等により,「本生」を構成する「本」 と「 生」 の各語について, その意味を探ると「 本」 の語は,「もとからあるもの,中心となるもの,正しい,正式のもの」等を,接頭語的に用いて「ほんとうの,本物の, 本格的な」を, また「 生 」の語は,「材料に手を加えないこと 完全,でないこと」等を,それぞれ意味するとされている。

(イ) 次に 辞書的な意義から離れて 実際にどのような場面で使用されどのような意味に用いられているかを検討する。審決時(平成18年6月30日) ,及びこれに近接する時期である平成18年2月から3月まで,同年10月から11月までに,新聞記事情報及びインターネットのホームページにおいて,本願商標を構成する「本生」の文字が使用されていたことが確認された例としては,以下のものがある。


 ・・・省略・・・


(ウ) 審決当時において, 「本生」の文字は, ビールや日本酒の分野はもとより,各種食品分野においても,比較的広範に用いられている。その意味するところは,食品の製造過程等によって差異があり,漠然として,一義的に理解することには困難が伴うが,ビールや日本酒等の酒類の分野においては、 「加熱殺菌していない本格的なもの」 というほどの意味合いを持つ語として認識され,使用されているものと解するのが相当である。


(エ) また,本願商標の書体は,審決書写し別掲のとおりである。白塗りの袋文字で表した「本生」の文字に影を付けたデザインは,特殊文字として注目されたり,強い印象を与えたりするほどの特徴はない。また,白塗りの袋文字に影を付したデザインについては これを使用した例がインターネットのホームページ(乙6〜16)や商標登録(乙17の1〜17の12)において,数多く存在し,特徴的なものとはいえない。


 したがって,本願商標の書体は,普通に用いられる形態であるということができる。


イ 判断

 上記認定した事実を総合すると, 本願商標を構成する 「本生」 の文字は,食品分野において,広く用いられているものであって,ビールや日本酒の酒類等の分野においては 「加熱殺菌していない本格的なもの」 というほどの意味合いで,認識され使用される語であり,また,本願商標における書体は, ごく普通に用いられる特徴のないデザインということができるから,本願商標は,これを本願指定商品中「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」に使用すれば,これに接する需要者をして,単に商品の品質を表示したものと認識させ,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものといえる。


 これを特定人に対して,自他商品の識別目的で,独占使用させることは適当でないと解する。


(2) 以上のとおりであるから 本願商標は これを本願指定商品中 熱処理をしていない「ビール風味の麦芽発泡酒」に使用しても,これに接する需要者をして,単に商品の品質を表示したものと認識させるにすぎず,商標法3条1項3号に該当するとした審決の認定判断は,これを是認することができる。

 原告主張の取消事由1は理由がない。


2 取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)について

(1) 原告は,審決が,本願商標を原告商品に使用した結果,「本生」の文字のみによって, 原告商品が原告の業務に係るものであることを認識できるほど取引者・需要者に広く知られるに至ったとはいえないと認定判断した点には誤りがあると主張する。この点の当否を検討する。


 商標法3条2項は,商標法3条1項3号に該当する商標であっても,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品・・・であることを認識できるものは,商標登録を受けることができる。」旨規定する 法が,同条2項所定の場合に登録をすることができるとした趣旨は,1当該商標が本来であれば,自他商品識別力を持たないとされる標章であっても,特定人が当該商標をその業務に係る商品に使用した結果,当該商標から,商品の出所と特定の事業者との関連を認識することができる程度に,広く知られるに至った場合には,登録商標として保護を与えない実質的な理由に乏しいといえること,2当該商標の使用によって,商品の出所であると認識された事業者による独占使用が事実上容認されている以上,他の事業者等に,当該商標を使用する余地を残しておく公益的な要請は喪失したとして差し支えないことにあるものと解される。


 そうすると,出願商標について,「需要者が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができる」に至ったと認められるか否かは,使用に係る商標及び商品の性質・態様,使用した期間・地域,当該商品の販売数量・程度,宣伝広告の程度・方法などの諸事情を総合考慮して判断すべきこととなる。


上記の観点から,本願商標について検討する。

ア 事実認定

 …省略…


イ 判断

 上記のとおり,確かに,原告は,原告商品の販売開始時以降,原告商品及びその宣伝広告媒体で ,「本生」 の文字を含む標章を大量に表示してきた経緯があるものの,他方,1原告は,原告が作成,公表したニュースリリース等ですら,原告商品を表記する場合には, 「本生」ではなく, 「アサヒ本生」を用いてきたこと, 2原告商品の缶, 瓶, その他の包装, 商品案内,カタログ, 広告等において, 「本生」 の文字を単独で使用する例はほとんどなく, 「アサヒ」等の文字と併せて表記してきたこと,3原告は,「発泡酒の本格派『生』 」などの例にみられるように,むしろ, 「本」及び「生」の語を原告商品の特徴を説明する目的で,宣伝広告に使用していたことなど, 「本生」 の文字を含む標章の使用態様に係る諸事情に照らすならば,原告商品又はその宣伝広告媒体に接した取引者・需要者は, 「本生」 の文字のみによって 商品の出所が原告であると認識することはなく, アサヒビール株式会社 「アサヒビール」又は「アサヒ」等の文字に着目して,商品の出所が原告であると認識すると解するのが自然である。


 すなわち,原告商品を他社商品から識別する機能を有する標章部分は,「本生」 ではなく「アサヒ」,「Asahi(アサヒ)」を併記した「本生」又は「アサヒ本生」にあるというべきである。


 そうすると, 「本生」 の文字が相当程度使用されてきたものであって, 新聞等の記事において,原告商品を単に「本生」とのみ称呼している例が存在することを勘案したとしても ,「本生」 の文字は, 審決の時点までに, 「本生」の文字のみで需要者が原告の業務に係る商品であることを認識できるほどに広く知られるに至っていたとは認められない。


 もっとも,当裁判所がこのように判断した理由は,原告が,本願商標について,上記のような態様で漫然と使用してきたことに起因するものであり,本願商標の「本生」の語の多義性に照らして,原告において専ら自他商品の識別のために使用した場合に,取引者・需要者をして,本願商標に係る「本生」の文字のみによって原告の業務に係る商品であることを認識できるほどに広く知られるに至る可能性のあることを一般論として否定したものではない。


(2) 以上によれば 原告商品について 『 Asahi(アサヒ)の「本生」』 として知られているとまではいい得るとしても, 使用の結果 「本生」 の文字のみにより,当該商品が何人かの業務に係るものであることを認識できるほど,取引者・需要者間に広く知られるに至ったものとまでは認めることができないから,本願商標が商標法3条2項に該当するとはいえない」とした審決の認定判断に誤りはない。原告の取消事由2は理由がない。



3 取消事由3(商標法4条1項16号該当性判断の誤り)について

(1) 原告は, 審決が, 本願商標を 本願指定商品中 「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」以外の「ビール風味の麦芽発泡酒」に使用するときには, 商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあると認定判断したことには誤りがある旨主張する。


 商標法4条1項16号は, 「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」については,登録を受けることができない旨を規定する。その趣旨が,品質に誤認を与える標章について,登録商標としての保護を与えることは公益に反するという政策的な理由に基づくことは明らかである。


 そこで,この観点から検討する。

 本願商標を構成する「本生」の文字は,多義的に解される余地はあるものの、ビールや日本酒の酒類の分野では 「加熱殺菌していない本格的なもの」というほどの意味合いで認識され,理解される語であることは,前記1において説示したとおりである。そうすると,形式的にみる限りは,本願商標について,本願指定商品中「熱処理をしていない「ビール風味の麦芽発泡酒」」以外の「ビール風味の麦芽発泡酒」に使用するときには,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと判断する余地もなくはない。


 しかし,1「本生」の語は,辞書に掲載されているような,確定した意味を有する語とは異なり,多義的な意味を有する語であること,2被告自ら主張するように,ビールメーカー各社は,「熱処理をしていないビール」については, ビールの表示に関する公正競争規約 に基づき ラベル中央部又は商品の下部に 「 生」 の文字を表示しているが 発泡酒 においても 熱処理をしていない場合は,同様に「生」等の文字を表示しているのが実情であること(乙25〜27)からすれば,本願商標が「熱処理をしていない「ビール風味の麦芽発泡酒」に用いられることはおよそ想定できないことなどの諸事情を総合すると,本願指定商品「ビール風味の麦芽発泡酒」に「熱処理をしていない「ビール風味の麦芽発泡酒」との限定がなくとも,格別,商品の品質誤認を生じさせるおそれがあると認めることはできない。


(2) 以上のとおり,本願指定商品中,「熱処理をしていないビール風味の麦芽発泡酒」以外の 「ビール風味の麦芽発泡酒」に使用するときには,「商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある。」 とした審決の判断には誤りがある

4 結論

 その他,原告は縷々主張するがいずれも理由がない。

 以上のとおり,審決には,原告主張の取消事由3に係る判断部分に誤りがあるものの,同判断部分は,原告主張の取消事由1及び2に係る取消事由が存在しない以上 審決の結論を左右する違法とはならず 審決の結論は是認できる。


 したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 』

と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10374 審決取消請求事件 商標権・行政訴訟  平成19年03月28日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329133845.pdf
●『平成18(行ケ)10211 審決取消請求事件 特許権行政訴訟  平成19年03月28日 知的財産高等裁判所 』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329131004.pdf
●『平成17(行ケ)10855 審決取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年03月28日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329114330.pdf
●『平成17(行ケ)10174 特許取消決定取消請求事件 特許権行政訴訟 平成19年03月28日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329111322.pdf
●『平成17(行ケ)10173 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟  平成19年03月28日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329110332.pdf
●『平成17(行ケ)10749 審決取消請求事件 特許権行政訴訟  平成19年03月28日 知的財産高等裁判所 』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329100451.pdf
●『平成18(行ケ)10427 審決取消請求事件 商標権・行政訴訟  平成19年03月28日 知的財産高等裁判所 』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329100330.pdf
●『平成18(行ケ)10525 審決取消請求事件 商標権・行政訴訟  平成19年03月28日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329100013.pdf
●『平成18(行ケ)10239 審決取消請求事件 特許権行政訴訟  平成19年03月28日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329095807.pdf
●『平成18(行ケ)10324 審決取消請求事件 特許権行政訴訟  平成19年03月28日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329095658.pdf
●『平成18(行ケ)10325 審決取消請求事件 特許権行政訴訟  平成19年03月28日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329095524.pdf
●『平成18(行ケ)10336 審決取消請求事件 特許権行政訴訟  平成19年03月28日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329095250.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『USPTOが次期5ヶ年戦略計画の最終版を公表』http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070326.pdf
●『米議会、大学の著作権侵害対策を支援する法案の審議へ』http://japan.internet.com/ecnews/20070329/12.html
●『オープンソース・ライセンス「GPLv3」の草案第3版が公開,知的財産の開示条件を強化 』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070329/266761/
●『グローリー、米貨幣処理機メーカーと和解=7億円の特損計上へ』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070329-00000208-reu-bus_all
●『グローリー、米社に7億円支払い=イリノイ州の特許侵害訴訟で和解成立』http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2007032900825
●『キヤノン、SED訴訟の1審判決に控訴の方針』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070329-00000151-reu-bus_all
●『HP,パソコン関連技術の特許侵害でAcerを提訴』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070329/266794/
●『映画の盗撮「懲役10年」に、今国会で法案成立へ』http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/soumu/index.cfm?i=2007032905209b3
●『上映中の映画、撮影禁止…海賊版防止へ自公が法案了承 』http://news.braina.com/2007/0329/rule_20070329_001____.html
●『商標審査便覧』
http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/syouhyoubin.htm
●『小売等役務商標制度導入等に伴う「商標審査便覧」の改正について』
http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_shouhyou/shinsa/kouri_yakumu.htm
●『知的財産戦略本部会合(第16回)議事次第』http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/dai16/16gijisidai.html